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小娘爆走
12
やっと戻ってきた舞人君。
そして私を避けてマイクを奪う。
「だから、言ってるだろ。新しい音楽したいんだろ? 父ちゃん母ちゃん意外とも、音楽しろって。セッションなら、同じ年代のが、同じレベルのが絶対楽しいんだって。良いから、とにかく、外に出ろって」
Dの所で首振って、うん、涙目になってるね。
「希更とのセッション楽しかったろ? 同い年でも、出来る奴は出来る。希更はまだ、下手な方だからな。一応、それなりに、弾いてるだけだぞ」
まあ、その通りなんだけど失礼。
「Kなら、もうちょっとマシだし」
「ここ、Kないから」
駄目じゃん!
「俺もDだから、お前とのセッションは限りがあんの。どうせなら、他の楽器とやったが楽しいんだって」
そしてまた首を振っている。
「良く分からないんだけど、音楽はやりたいけど、お父さんお母さんに、舞人君以外は嫌いなの?」
「まあ、ここには入れる奴らは、晴流に当たり甘いんで、大丈夫なんだが、皆が皆、楽器使いじゃねぇからな。そんな、親の知り合いばっかで最若が、俺なんだよ」
「じゃあ、私が一番若いの、再更新?」
「そうなる。だから、晴流も警戒はしてても興味津々で、遊んで欲しがって、ああなってる」
うん、良く分からないけど。
「遊んで欲しいなら、せめて名乗りなさい。そんな失礼な子とは、もう遊びません」
ビクンと震えたと思ったらまた、なんか大泣きしている。
「あの子、もしかして小っちゃい?」
「いや、デカいだろ。流石に駆郎のがデカい…よな?」
「知らないよ。近くで見れてないし」
正確な身長差、分からないんだって。
「まあ、うん。あれで、お前の…」
言いかけて、舞人君がマイクに顔を近づける。
「晴流。お前、まだ小学生だよな?」
え?
「頷いてる。多分間違いない」
「多分ってナニ?」
「あいつ学校行ってないから、自分の学年、ちゃんと分かっているのかが、怪しい」
ああ…。
「学校で何かあったの?」
「まあ、あの親の、責任だよな」
舞人君に困った顔で笑われても、意味が解りません。
「生まれた時から親と一緒に音楽活動くっついて回って、自然とD覚えて上手くなって。アイツ、それしか知らねぇの。周りには自分に親切な大人しかいなくてな。かなり特殊な環境。あいつらの親もまた、アレだから、周りにも親切な奴らが多くてな。困ってても、自分で何か言う前に、誰かがなんかしら声かけてくれて、常に助けてくれる感じで生きてきた。そんな環境からいきなり、小学校に1人で放り込まれても、事細かに顔色窺って世話焼いてくれる人間なんざいない訳だろ。どうして良いか分からなくて、何も出来ない。当たり前の言葉でも、懇切丁寧な説明じゃないから、言われた事が上手く出来ない。ガキなんて結局、残酷な生き物だからな。出来ないままパニック起こした晴流は、只管周りに色々言われたらしくてな。学校行かないって大泣き。熱出るわ、蕁麻疹出るわで、そのまま今に至る」
「至っちゃダメだよね? 学校行かないで何してんの?」
「親と一緒に音楽活動」
「ダメじゃん!」
それって、元の特殊な狭い環境に戻っただけ。
全然、成長しようが無いし。
「流石に自由気ままに犯りたい事だけってのは、最近はない、筈。それがダメだって思った周りの大人達が、どこからか調達してきた、小学校の教科書で勉強を教える事もあるらしいし」
ああ、全く勉強してない訳でもないのね。
でも、只管優しい、親切な大人達の気遣いの、甘い環境の中でぬくぬく、ご機嫌伺いの上で、なんでしょ…?
駄目でしょ。
「なら、もう学校行けるんじゃない?」
あれだけ大きな子に、喧嘩…。
セイちゃんなら売るね。
そして、どこにでも、そう云う大人しそうな子を見つけては、攻撃する馬鹿は、必ずいて。
あのDの音から察するに、絶対に、力とかも桁外れに強そう…なんだけど…。
問題は、そう云う事じゃないんだよね。
ある意味喧嘩は、勢い勝負、らしいので。
腕力より最初の睨み合い? だって、セイちゃんも言ってたし。
「無理だな」
ですよねぇ。
「まあ、学校に行きたくなくて、行けなくても良いんだけど」
ある意味、セイちゃんも駆郎君もそんな感じで生きてきたみたいだし。
今、何とでもなってる訳で。
でも、ね。
「人から友好的に名乗って挨拶されて、名乗らないのも挨拶返せないのも、全然ダメです」
「晴流、言われてんぞ」
あ、またぷるぷる震えている。
そして目を腕でごしごししてから、壁の受話器を取った。
『ばれ、る、です!!!』
ああ、大きな声も出るじゃん。
「はい、希更です。遊びたいなら、鍵閉めて閉じこもってないで、出てきなさい。マイク通してとか面倒でしょ」
こっちを見て受話器を見て、そして頷いてから鍵の開く音がして、扉にしがみ付いている男の子。
「私は希更、中学1年生です。女の子です。音楽好きだけど、演奏は下手です」
「まあ、希更は演奏のプロじゃないもんな」
扉にしがみ付いている晴流は、こっちをじっと見て、それから、ちょっと扉から体を出す。
「あのね。もっと、したい」
ああ、うん。
「セッションはねぇ、私じゃ無理。晴流上手いから、私じゃ勿体ない」
「俺もそう言ってんだけど、親と親の知り合い以外、怖がってな。知らん奴がいると、親にしがみ付いてるか、部屋に閉じこもって出ない」
「両親がライブ中は?」
「スタッフは赤ん坊のころから知ってるから平気」
なるほど。
「時々、晴流もステージ上がってんだけどな」
いや、プロのステージに上がってる、それだけで、凄くない?
「子供だからって理由の特別参加ではなく、あのレベルで普通に叩いてるんだよね?」
私が相手では申し訳ないレベルで、巧かった。
ただ、舞人君ほどは強弱付けられないみたいで、勢い任せで五月蠅いけど。
「さっきの『花蓮』より巧いぞ。親の曲は死ぬほど聞いて叩いてるから」
それって、普通に凄くない?
私、D生演奏って、舞人君がギナちゃんのとこの人しかよく知らない。
けど、その2人に比べるのはちょっと可哀想なんだけど、それでも、全然ダメッてレベルではなくて、後もうちょいって…感じなだけ。
多分、プロだとしても、他のバンドとかのDなら、この子のが巧いって事は、結構、あると思うんだけど?
「私と遊ぶより、断然、玲央君達と遊んだ方が楽しいだろうに」
あのレベルで、お互いの音楽でこうしたいああしたいで、試して変えていって、曲作り上げるのって、かなり、楽しいのに。
「まあ、年の近い男はダメだな」
「何で…って、晴流イジメたのが男の子、だから?」
「そう」
まあ、そうか。
「だけど、玲央君も慧士…は大丈夫だけど、璃空はアレだね」
小っちゃいけど言いたい放題で、まず間違いなく、この子みたいな子は、徹底的に攻撃するか、全く無視か…。
全くの無視なのも、人慣れしてない晴流だと、まあ、かなり、キツいだろうし。
「なあ。それがなければ、アイツらに紹介しても良いんだけど」
「璃空にイジメられて、大泣きすると思う」
「だろ」
本当に。
「それで、今日は何の緊急事態?」
「いつもの恒例行事。晴流の親は、月に1回、派手な夫婦喧嘩をする。ただの殴り合いなら、晴流の泣きが入って仲直りで、夫婦の営みに突入するんだが、今日のは激しかったみたいだな。割れ物ぶつけ合ってるし。それで、怖かったのと、親の理不尽さに、晴流がキレて連絡寄越した」
駄目じゃん!
色々ダメだけど、何より、親がダメじゃん!
ウチのパパも大概アレだけど、月一夫婦喧嘩で息子がドラム叩きまくって大暴走とか、全然、ダメです!!
「舞人君がダメな時は、どうするの?」
舞人君だって忙しい方で、いつでも連絡繋がる訳でもないでしょ?
ライブ中とか、テレビだの雑誌だのの撮影中は、スマホ、近くに無いんだし。
「連絡が行くにも、順番がある。いつもなら、リーダーでBの茂さんと総監、スタッフチーフ、まあ、10人くらい、俺の上にいる」
「誰も捕まらなかったんだね」
「いや、いい加減、年中行事なんだし、親の夫婦喧嘩如きで怯えるなって、何人かの関係者が言い出してるから、その所為じゃないか?」
つまり、皆、それなりな成長自立を、促そうとしてるんだよね?
「そこで、舞人君が来ちゃったら意味なくない?」
「だから、お前連れて来たんじゃん」
なにが?
「俺だけなら他所に回した。けど今日は、希更いたし」
私がいるから、ナニ?
「晴流が、同年代と話すのなんて、多分、5年ぶり位だから」
「え? ダメじゃん」
「ほら、怯えて引っ込んだ」
あ、扉、閉めてはないけど、顔が引っ込んでる。
「まあ、私も、人が争ってるの、見たくない。怖いの嫌い」
「けど、お前は泣いてキレても、ちゃんと怒って止めろって言えるだろ。現に、キレかかった清牙、泣き真似で止めたし」
やっぱ、舞人君は気付いてたよねぇ。
あの2人、結構、単純だから…。
「言うよ。そんなの続く方が怖いし。大好きな人が、怪我するの、見たく無いもん。犯罪も、絶対ヤダ。だから、全力で止める」
「晴流。お前よりちっこい、細くて体力ない、病弱な希更でも、こう言ってるが?」
なんか、涙目でぷるぷる首振ってるね。
「あのね。嫌なら嫌って、言いなさい。私は貴方のお母さんじゃないんだから、言葉にされないと、言いたい事は分かりません!」
「ううっ、いや、怖いの」
「ほら言えた」
そう見れば、晴流は大きな体でまた、震えてプルプルしてる。
「私だって、殴り合ってるの、見るのも怖いよ。それが大好きな人なら、もっと怖い。それでも、続けて、怪我したらどうするの? 弱い私に出来る事なんて、止めるなんて、言葉以外でどうするの? 晴流も、そうやって、泣いて嫌怖いって、本気で、言えば良いんだよ。隅っこで隠れて震えてても、誰も、気付いてくれないからね? 皆が皆、捜して声かけて引っ張り上げてくれるほど、親切、してくれないよ。だから、怖くても、泣いても、それでも止まらない親なら、舞人君が殴ってでも止めます。だから、ちゃんと言いなさい。助けて、怖いって」
「いや、流石に女は殴らんし」
「だったら、お父さんの方を殴って止めて下さい」
「あのな。晴流見たら分かると思うが、親父、相当デカいからな?」
「別に殴るのは言葉の綾で、水掛けてでも、喧嘩が止まれば、良いと思う」
「そう云うところが、カエさんなんだよ」
「カエちゃんなら、水探して掛けるより、セイちゃん嗾けると思う」
結構な被害が出ても、未成年の子供に被害押し付ける親が悪いとか言って、破壊活動…するね。
カエちゃんは基本、子供にはとても優しいので。
「まあ、そうだな」
うん。
頷いていたら、また顔を出した晴流が、そのまま身体を出してきて、後ろ手で扉を閉める。
「どうしたの? 晴流? トイレ?」
「う…うれしい」
え?
なんで、また泣いてんの??
「恵梨香、健夫、大人ほか、初めて」
「何が?」
「オレ、晴流」
「うん、晴流…え? もしかして、子供で名前呼んだの、私初めて?」
「うん。希更、好き」
そう言ってたったか走ってきて頭スリスリ。
本当にデカい。
抱き着かれたら、私すっぽり。
この感じ、多分、駆郎君と変わらないか、それ以上。
腕も固くて筋肉、モリモリだしと撫でていたら、その手をまた撫でられる。
ああ、なんか、多分懐かれた。
たっ君も最初、警戒してたけど、こんな感じでくっついてくるようになって。
我が儘言ってくれるようになった。
顔を見る度抱き着いてくるようにもなった。
そんな感じ。
「おおっ、やっぱ、希更だと大丈夫そうだな」
まあ、璃空に比べれば、私の攻撃性なんて、かなり大丈夫な方だとは思うんだけど…。
「晴流。私、結構忙しいから、そんなに相手出来ない…だから、泣かないで」
ボロボロ涙零されると、困ると云うか…。
晴流、良く泣くな。
ぽろぽろ涙流すあたり…ママのタイミング見計らったツーって感じとは違うんだけど、かなりの技能。
人間、泣きたいって、ぽろぽろ涙は出ないんだよ。
目元濡れて、目が痛くなって、鼻の奥と喉が痛くなる事はあっても。
テレビで見るほど、ドラマの女優さんの様には、ぽろぽろ涙は零れない。
頬に一筋流れるとかも、普通は、やってやれるモノではない。
カエちゃんでも、そこ迄器用に出来るかって、怒ってたしね。
普通は目薬、らしい。
巧い人は、自力で何とかするらしいけど。
「ああ、目は擦らない! 腫れるんだからね。ブッサイクになっちゃうんだから」
なんか拭く物と探していたら、舞人君から笑いながら渡されるティッシュ箱。
それを受け取って晴流の顔に触れる。
「これで拭いて。大丈夫?」
「うっ、うっくっ、希更、いやっいや」
ああ、もう、何言ってるのか分かんないよ。
「ほら、目を拭くからね。お鼻もチーンする?」
「う、うっくっ、ううっ」
何枚かのティッシュを押し付けていたら、堪えていたらしい、舞人君爆笑。
「すげぇ。希更が、姉ちゃんしてる。拓斗には、時々嫌がられてんのに!」
「ほっといて!」
だって、たっ君の本当に嫌な時と、構って欲しい時の違い、私には分かんないんだもん。
そして本泣きの時は、私ではダメ。
マユちゃんかカエちゃん以外だと、そのまま大泣きで寝落ちする。
取り敢えず、大泣きしている晴流を泣き止ませるのが先。
ただ、どうすれば泣き止むのか分かりません。
やっぱり、たっ君と変わらないかも…。
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