泡沫の欠片

ちーすけ

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再会確保

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お客様から睨まれながらの、簡易引継ぎ後、事務所のミーティングでモノの言いたそうな社員に、
「本日はお騒がせしました。久しぶりに幼馴染に会ったもんで。この後飲みです」
と言い切る。
質疑応答は受け付けない。
ダッシュで帰ると。
お前は噂話聞きに来る暇があるなら仕事しやがれと、にこやかに笑顔だけで答えてから、本日の反省、来週から始まるイベントの説明と聞き流し、ダッシュで帰り支度。
普通なら、今日の客がさぁと、ありえない客の話に盛り上がるのだが、荷物詰めこんで着替えて裏から出れば、なぜか奴が待ち構えている。
「あんた、コンビニで待つんじゃなかったの?
「こっからのが早いし」
そう言って歩き出すのは細い道。
「車じゃないの?」
「酒くらい飲ませろ」
「ああ、まあ、そうだよね」
私だって、酒抜きの説教だけは勘弁してほしい。
そのまま歩き続けて、なぜか結構な人だかり。
時間がアレなので、学生が多いけど、女の子がキャーキャーと吉野家にスマホ向ける不思議な図。
「もしかして、あそこに用があるの?」
「ああ。迎えに行ってやらんと、辿りつけねぇんだと」
「いや、1人でどうぞ」
「一蓮托生だろ?」
良い笑顔である。
絶対に、あの中に一人で突っ込みたくないが為の、本日のこの時間である。
人の腕をがっつり掴んで歩き出す、「すんません、そこに用があるんで通して下さい」と人をかき分け歩いていく中引き摺られる私。
まあ、喜ぶべくは、若い姉ちゃん達が大人しめだった事。
声さえかければ「ごめんなさい」と道を譲ってくれた。
酷い奴らは邪魔すんな横入りすんなって攻撃してくるからねぇ…と遠い目をしていた私の目に、入り込んだ大食いファイターは、とても見覚えがあった。
吉野家の丼が4つ重なって、今手にお持ちの丼が液体のように流れていく姿は、見苦しくはない。
だって、とても美形だから。
鼻筋通って骨ばった大きな手がデカい所為か、丼の筈なのにお茶碗に見えるとか。
そら、その髪邪魔ですよね? まとめますよ。
気持ちは分かる。
わかるけど、なぜ、ムーミンのミー?
長い髪が頭のてっぺんで縦巻きロール。
器用ですねと言えばいいのか、それでいいのか芸能人!!
「清牙。迎えに来たぞ」
「はい、ごっそうさんでした!」
バチンと手を叩いて頭を下げて、金を払いに行く姿に、女の子達が、笑いながらキャッキャ言っている。
そら、撮るよ。
こんな有名人が頭のてっぺんに縦巻きロール作って吉野家でフードファイターやってたら。
取られる本人は全く気にすることなく紙ナプキンで口元拭いて、我が幼馴染みの前に立ち…。
「ちっさ」
思わず言葉が漏れた私。
「俺が小さいんじゃねぇ! こいつがデカいんだよ!!」
まあ、その通りなんだけどね。
身長格差が酷過ぎる。
そんなこちらの視線に、眉間にシワ寄せ、何らかのオーラを吐き零して歩く姿の哀しい事。
当たり前に、キャッキャ言ってる女の子達の人垣を割って通り歩いて行く我が幼馴染みヨ。
「まー君。私の場違い感が半端ない」
「俺もないわ。なんで、ついてくるかね」
「すんません。追い払います」
「清牙!!」
慌てたように、私の腕を振り払い、振り向きざま芸能人様の背後から腕を取って捻り上げるマー君。
「早っ。そのまま絞めるのは勘弁っす」
「なら、余計な事せず歩け」
「いや、あれ、邪魔なんですよね?」
「そのアレが、お前のファンな?」
「いや、アイツらテレビで見かけた顔に騒いでるだけっすよ。ライブ、野郎しかいねぇし」
「いや、ライブまでは行かないファンも、世の中居るからな。つーか、見て騒いでくれるのはお財布様だ。暴言は辞めれ。責任者のいねぇところで暴れんな」
「流石に女相手に暴れませんって。ちょっと散れってお願いするだけなんで」
「散れはお願いじゃない。暴言だ。黙ってろ」
「はーい」
なんなんだろう?
言いたいことは分かる。
分かるんだけどさぁ。
「私はこの流れでどこに連行されようとしてるんだろう?」
「あ? 逃げんなよ?」
いや、今更逃げないけどさぁ。
「私は後日で良いんじゃね?」
「そンなん言ってたら、次何時になるよ? 本気で人数呼ぶぞ」
「辞めて下さい」
「捕獲しとけばいいんなら担ぎましょうか?」
「そこで参入しないで下さい芸能人様!!」
「あれ? 俺の事知ってる感じ?」
「お前の事知らん日本人探そうと思ったら、3歳以下、60以上だろうよ」
「うん? なら、こっちの人ですか?」
「それを問い質す為の連行だ。お前は大人しく飯食ってろ」
「え? 牛丼5杯食べてたじゃん」
思わず突っ込んだ私に、マー君は言った。
「あれはオヤツだ」
は?
「すんません。俺、燃費悪いんっすよ」
いや、いや。
「そんな折れそうな…ごめんなさい」
むっちゃ目が怖かった。
確実に、私より身長が40㎝は高そうなのに、体重は私より軽いかもしれないと心配になる手足の細さなもんで、つい。
テレビで見ても細かったけど、実際に見ると更に細い。
まあ、細いけどガリって感じではないんだよね。
近くで見れば筋肉動いてるのが良く分かるつーか。
「美人だね」
「芸能人様なんで」
「でも、肌荒れてるね」
「これは栄養不足っすね」
「は?」
「ライブ中、衣装汚すなって飯あんま食えないんで」
「は?」
「カエ。牛丼5杯をオヤツにするような奴だぞ。コイツ、暇さえあれば何か食ってんだよ。なのに、口が緩いんで、健吾が甲斐甲斐しく飯運んでやったりして、此奴の楽屋カオスだから。因みに、丼物だと直接口付けて食えるから、比較的綺麗に食える」
「正しく、貴方の知らない世界か」
「本当にな」
「それいいんで、腕解放してほしいんっすけど」
その言葉にマー君は宣った。
「暴れない、怒鳴らない、大人しく歩く。出来るな」
「うっす」
え?
3歳児なの?
芸能人様は3歳児なの?
「それで、肩とおんぶどっちがいいです?」
まじまじと見降ろす巨人で美人の言葉に溜息が出る。
「マー君」
「逃げようとしたら、お前のやり易い方で」
「全然助けになってなかった」
「肩で担いだらおっぱい背中っすね」
「いや、そいつチビだから肩だろ」
「お前がちび言うな」
「俺は日本人平均だ」
「どっちもちっさいっすよ」
そうだよね。
デカいよね、貴方。
「2メートルまではないよね?」
流石にそこまではデカくないだろうが、首を上げて話すの、話し辛い事半端なし!
「193」
「でか」
「姐さんのおっぱい程はないっすよ。俺が見た中で一番デカそう」
「いやいや、芸能人、ソレで売ってる子一杯いるし、私なんかさぁ」
「その、なんもしてないのにそのデカさは、そんなにいねぇんだよ」
「マー君?」
「そうっすよね。あいつら、寄せて上げて詰めて押し上げて、結構盛ってますし。姐さんそれ、ブラもしてないっすよね?」
「おまっ、またっ!!」
「誤解を招く言い方をすんな! 普通にブラキャミじゃ! ブラすると肩に食い込んで痛いんだよ」
「本当にいたんだ。ワイヤー苦手な人」
芸能人様?
貴方、突然何言いだすの?
「前、飲みの席でいきなりブラジャー外してワイヤーで蚯蚓腫れ出来ちゃって痛いんですうとか言って脱ごうとした痴女がいたんで」
飲みの席だろうが、多数の人がいる中でそれをすれば、確かに痴女か。
「モテる男は辛いねぇ」
「いや、別に、女のおっぱいは好きなんで良いんですけど、生でやらせようとするのはルール違反じゃないっすか?」
「それが狙いなんだから、ルール言ってらんないんじゃない?」
「まあ、そう云うのがあるんで、最近は男ばっかなんっすけど」
「……マー君!!!」
私は初対面で、芸能人様に何を聞かされているんだろうか!?
「清牙、だから黙れ。そして、カエ。余計なこと街中で喋らせんな」
「それ、私の所為? っていうか、なんでこんな危険物独り歩きしてんの?」
「メンバーが一緒だった筈、なんだがな」
力ない言葉に、今それ言われても…と思う。
「腹減ったら、目の前に吉野家合ったんで」
「メンバーが気が付かない間に吉野家流れて迷子になってんの、この子?」
「そうなる」
ああ、一般生活がダメダメな芸能人の典型がここにいる。
「スマホにGPSつけてないの? 子供とか年寄りにつける迷子防止の奴」
「そのスマホをメンバーに預けて迷子になってんだ、コイツ」
「は? それでどうやって連絡とったの?」
「取ってねぇよ。ネットで居場所拡散してんの見つけて、拾いに来てんだよ!!」
あ、そう云う事ね。
「なら、私の腕確保より、この子の腕確保しとた方が良いと思う」
また、お腹空いたとか、なんか興味持ったとか言ってフラフラしたら困るじゃん。
「野郎の腕掴んでろと?」
「マサさんはあんま趣味じゃないんで」
「黙れ」
ああ、本当に、お疲れ様。
そんな中に行方不明の幼馴染確保。
絶対に、今日の説教は荒れる。
「私はやっぱ後日で「黙れ」」
ですよねぇ。
「清牙。迷子防止でカエ捕まえてろ」
「おっぱいで良いですか?」
「清牙!」
「ちょっとくらい良くないですか?」
どうしてそれを、私に振るのか?
「私のおっぱいは10歳以下限定なんだよね」
「え? 勿体無い。あれ? いや? もしかして、そいう子供じゃないと感じられない系とか?」
「カエ、お前も黙れ」
そのまま大通りに出てタクシーに突っ込まれた私達。
マー君は今日は大変お疲れのようである。
この後も、まあ、待っているんだろうがな。
私もお疲れ様様なんだけど?
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