8 / 64
白い魔力2
しおりを挟む「それがよくわかっていないんです。なにしろ言葉を喋るまで成長出来ないことがほとんどなので。魔力の色がそのうち他の色に変わればいいんですけれど、白のままでは希に成長しても、何も魔術が使えない上にとにかく病弱なのだそうで。だから白の間は大抵は家の奥で大事に育てられます。でもどんなに大切にされていても、だんだん弱ってしまうらしく……。だからこんなにお元気なマルガレーテ様は、本当に奇跡なんです」
「私は今までずっと基本的には健康だったの。だから本当にびっくりよ」
「でも王宮の神官様が判定したのなら間違いは無いはずなんですよ。ですから本当に奇跡としか……。あ、でも魔力が白の子が生まれると、その家は繁栄するという昔からの言い伝えがあってですね。だから魔力が白だとわかると、その子はとても大事にされるんですよ。だから、マルガレーテ様はこの王宮からは出してもらえないのではという噂もあって……。もしかしたらこんな寂しいところにいるくらいだったら母国にお帰りになりたいかもしれませんが……」
「あらそれは無いから大丈夫。それにここは静かでいいところだと思っているわ」
「まあ、それなら良かったです。王妃様もここのみんなも、こんなにお若いのにこの離宮に送られるなんて、なんておかわいそうにって言っていたんですよ。まだ病気にもなっていないのにって」
「じゃあここは病気になると来るところなの?」
「……ここは、元々はご病気になった王族が療養するための離宮だったのですが、最近では王族が最期を迎える場所としての方が知られているのです。ここに入ったら生きては出られないと、不吉な場所だとされていて……。なので、王城の人は基本近づかないし、ここにいる私たちも王城への出入りは禁止されています。頼めば必要なものは手に入りますが、基本この離宮の敷地からは出られないのです」
そう言うリズは、マルガレーテにとても同情する目をして言った。
つまりはマルガレーテは、この離宮に捨てられたということのようだ。
どうせ魔力が白ならばそのうち弱って死ぬだろうとでも思われたのだろう。そして弱ってからここに移すよりも、ならば最初から移してしまって手間を省こうということかもしれない。
第一王妃様の行方不明の王子と婚約させて、第一王妃様側の人間としてまるごと追放されたと言えばいいのかも。
なるほど、これがこの国の「無能」と判断した者への扱いということなのだろう。
母国とは正反対だけれど、魔力や魔術によって扱いが変わるということについては根本は同じようなものなのね、と思わず皮肉な笑みが出そうになった。
私はどこに行っても厄介者になってしまうみたいね。
でも、いわくはどうあれここの人たちは良い人が多そうだ。
なら、ここでの生活を楽しめばいいんじゃない?
リズがどんなにここが寂しいところだと言っていても、それでも捨て子だったマルガレーテから見たら十分に立派な場所なのだから。
あのプライドの高そうな人たちから離れて、ここで静かに過ごせばいいのよ。
マルガレーテはそう思って、まずその第一歩として新たな家になった離宮の探検に出かけたのだった。
だって、くよくよしていてもしょうがないじゃない? ねえ?
次の日のお昼前、マルガレーテは第一王妃様にお見舞いとご挨拶をするために、第一王妃様の寝室を訪れた。
王妃様の寝室はさすが王族と感心してしまうほどの広さと豪華さだったけれど、そこに横になる王妃様は明らかに疲れて憔悴しているように見えた。
「はじめまして、マルガレーテと申します。縁あってこれからこの離宮で暮らすことになりました。どうぞよろしくお願いいたします」
部屋を入ってすぐのところで緊張して挨拶をするマルガレーテに、王妃様は弱々しく顔だけをマルガレーテの方に向けてマルガレーテを見ると、にっこりして答えてくれた。
「よく来てくれたね、マルガレーテ。お会いできて嬉しいわ。私がこんな状態でごめんなさいね。良かったらもっとこっちにきてお話しましょうか」
そう言って王妃様は、マルガレーテを枕元に呼んでくれたのだった。
しかしマルガレーテが王妃様の近くまで進んだ時、それまで王妃様のベッドの脇に大人しく座っていた黒い犬が突然立ち上がって、王妃様を守るようにマルガレーテに向かって唸った。
「クロ、おすわり」
王妃様がそう言うとクロと呼ばれたその犬は渋々といった雰囲気でまた座り直したのだが、それでもまだじとっとした目でマルガレーテをにらんでいた。
「まあ、王妃様にとても忠実な犬なのですね」
「なんだか知らないが、最近ここに居着いてねえ。私の近くから離れようとしないから勝手にさせている。今のところ私の命令だけはよく聞くんだ」
「居着いたのですか」
王宮の、しかも奥の奥にあるこの離宮に……?
「そう。そして出て行く気はないらしい。まあ侍女たちは可愛いと言って喜んでいるから好きにさせている。よしよし」
そう言って王妃様が弱々しくその犬を撫でると、その犬は嬉しそうに尻尾を振っている。
マルガレーテは密かに、この大きな黒いもふもふのワンコともいつか仲良くなれるといいなと思った。
「お加減はいかがですか、王妃様」
マルガレーテは王妃様の青白い顔を見て聞いた。
「……残念ながらあんまりいいとはいえなくてねえ。もうほんと嫌になるね。この私が呪いに負けるなんて」
そう言っていかにも忌々しいという感じに顔をゆがめる王妃様。
それを聞いてびっくりしたのはマルガレーテだった。
「呪い、ですか?」
10
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる