推しに“男”だと勘違いされたけど、雑草根性で執着されてます!【全33話完結予定】

ホタカ

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第5話 あの雑用、女だっただと……!?

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数日後の夕暮れ。
騎士団本部の奥、アレンハルト・ハザルの私室では、書類の山に囲まれたアレンが珍しく眉をひそめていた。

手にしていたのは、先日アキに届けさせた封筒。その返書である。
差出人の名前を見て小さくため息を吐いた彼は、封を切り中身を静かに確認する。

その瞬間ーーー掴んだ紙が微かに震えた。
ちょうどその時、タイミング悪くジュードが報告書を手に入室してくる。


「失礼します団長。ヒプリ地区の件、報告を……って、どうしました?そんな顔して」


アレンは返事もせず、深く刻まれた眉間のまま再び封筒の中身を確認する。
そして、唐突に言い放った。


「……あの雑用。女だったか?」
「……は?」


あまりの発言に、ジュードが硬直する。
普段、ズバズバと何でも言うジュードでさえ、思わず“ないわ”と思うレベルである。


「これを見ろ」


アレンが差し出したのは、薄紙の招待状だった。
そこには、騎士団長アレンハルト宛てに書かれた、とある“舞踏会”への正式な招待。

しかもーー


「騎士団に所属する者全員、“男女共に”正式な装いでご参加下さい、とある。この騎士団に女などいないはず…と思ったが」
「……まさかとは思いますが、今まで本当に男だと思ってたんですか?」
「……」


アレンは無言で目を伏せた。


ーーー”やっちまった”。
心の声が、そう顔に書いてある。


そう。彼はまだ“アキの名前すらろくに知らない”。
そこでアレンの意識が初めて「雑用」ではなく、「一人の人間」としてアキに向くのであった。
 


◇◇◇



その頃アキはというと。
相変わらず騎士団駐屯地で雑用業務に明け暮れていた。

アキの両親は交通事故で彼女が幼い時に亡くなっている。
それから施設で育ち、18歳から清掃業一筋で生きてきた。なので、こういった仕事には慣れている。


無駄なく、静かに、完璧に。
チリひとつ残さず、手垢ひとつ残さず!

異世界に来ても、やることは変わらないし正直困る人もいない。

だからこそ、この生活が心地良く感じ始めていた。
だってここには仲間もいるし、心置きなく推しも観察できるしね!

今日はヴォルトと共に、大窓を徹底的に磨き上げていた。


「あ、アキさん、ここちょっと残ってますよ~」
「おっと。任せて下さい。ここはプロの私が」


タオルで仕上げ、まるで通り抜けられるくらいの澄み切った窓にふと視線を上げる。

その瞬間ーーー目が合った。


(……え?)


窓の向こう、向かいの中庭を横切っていたアレンと、ばっちり目が合ったのだ。

真紅の瞳。まっすぐな視線。
いつもなら完全無視か、合ってもすぐ逸らされる筈の視線が、いつまで経っても離れない。


ーーーっキャプチャ保存……じゃなくて!!


アキは思わず顔を赤くしてしゃがみ込んだ。


「アキさん!?どこか痛めました!?」
「違っ…推しが!!」
「おし?」


混乱するアキの横で、ヴォルトが困ったように首を傾げる。
当のアレンはというと、立ち止まったままアキをじっと見ていた。ほんの数秒だけ。

そして、何を思ったのか、深く眉を寄せ静かにその場を去っていった。


「…あれ?団長…?」


ヴォルトがその後ろ姿を見て、納得したように頷く。


「何だ。掃除の進捗見に来たんすね」
「ーーーあ、ですよね」


その言葉にスッと頭が冷静になった。

そうですよねー。
まさか私をじっと見つめてたなんて、勘違い乙!


(……でも、初めてあんなに長く目が合った……)



ーーーこれは、地味に嬉しい“記念日”だ。
推しと目が合った。それだけで生きていけるというもの。
どんなに腹立たしい態度を取られても、やはり推しには敵わないのかも知れない。

アキは赤くなった顔を押さえながら、そう思うのであった。

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