7 / 33
第7話 殿下のひと言で、推しにクビを切られそうです
しおりを挟むアレンの自室では、先程から微妙な空気が漂っていた。
それは、何の前触れもなく唐突にやって来たローブの男が原因である。
「……せっかく封書を渡しましたのに、わざわざ来るなら意味ないのでは?」
「相変わらず頭が硬いなアレン。ちっとも返事がないから来たんだよ」
「相変わらずなのはあなたの方ですよ。ーーー殿下」
殿下と呼ばれたウィルーーーウィルフレッドは、肩をすくませてフードを取った。
そこで、ようやく男の風貌が外に晒される。
王族の証である白に近いプラチナブロンドに、透き通った紫の瞳。その髪の美しさに引けを取らぬ程の美貌。
柔和に笑う姿は、男だろうが女だろうが虜にしてしまう魅力があった。
アレンは一層眉間に皺を寄せて、目の前の主人を見つめる。
「一体、どういうつもりですか?」
「え?何が?」
「舞踏会の件です!返事も何も、私は行かないとあれ程言ったではありませんか」
「アレン。君も良い歳だ。そろそろ身を固めないと困るのは君だろ?」
確かに見合いの話がひっきりなしにきて疲れ果てていたアレンはグッと喉を詰まらせる。
「”私”も周りが煩くてさ。アレンが一緒なら心強いんだが」
「っ、分かりました」
こめかみを揉みながら、アレンはため息を吐いた。
「しかし、何故騎士団“全員”なのですか?俺だけ出席すれば…」
「普段の慰労も兼ねてだよ」
スッと己の主人を見つめるアレン。
それに、眉を下げたウィルが再び肩をすくめて笑った。
「新入りの子、面白そうだったから」
出た。
思わずアレンは目を細めチベスナ顔になる。
このウィルフレッド殿下の「面白い」には碌な事がない。
これのせいで散々面倒事に巻き込まれて来たのだから。
「異世界転移者ってだけでも面白いのに、女の子そばに置くなんて信じられないでしょ。もう気になって仕方なくてさ」
ーーーつい先日まで「男」と思っていたなど、口が裂けても言えない。
言ったら最後、数ヶ月は同じネタで笑われ続ける。
「それに、結構美人だしね。」
ウィルがさらりと微笑みながら口にしたその言葉に、
「……え?」
アレンは思わず聞き返した。
眉間の皺が消えるどころか、今度はピクリと片眉が跳ね上がる。
「……誰がです?」
ウィルは「何をいまさら」という顔で置いてあった紅茶を啜った。
「誰って、君の雑用係ちゃんだよ。ちゃんと見た?あれは“化ける”よ」
その瞬間、アレンの脳裏に先日窓越しに目が合ったアキの姿が浮かんだ。
ボロボロの服、手にはモップ、髪にほこり。鼻横にスス汚れ。
……だが、確かに、線も細いし肌も白く…
(……いやいやいやいや)
頭を振るアレン。
何かがバグったような感覚に、思わず目元を手で覆ってうつむいた。
「……つまり、あの封書は殿下が直接受け取ったのですね?また城を抜け出したんですか」
「酷い言われよう。市井をこの目で見るから、良い政ができるんだよ」
確かに、これが殿下の良いところだ。
庶民の目線で物事を考えられる殿下がいるからこそ、この国は住みやすく、繁栄している。
ただ、彼を警護する立場には決してなりたくはない。
毎回彼が城を抜け出す度に、大目玉を喰らっているはずだから。
「女の子1人でお使い行かせるから、ついお茶もしちゃった」
「……本当に、何のために封書を…」
「ふふ、本当に可愛い子だったよ」
その瞬間、再びアレンの脳裏にアキの顔が浮かぶ。
真剣に窓をふき、ヴォルトと楽しそうに掃除をしている姿が。
「ーーー余計な事考えさせないで下さい」
「え?この一瞬で何考えたの。…まあ、案外好みだと思うけどね」
「絶対に違います」
キッパリと断言する。
その時の凛々しさは、騎士の誓いを立てた時のそれと同じだった。
「……とにかく。俺はあくまで、仕事で参加するだけですから」
「わかったよ」
ウィルはふわりと笑って立ち上がる。
アレンの肩を軽く叩くと、悪戯っぽく囁いた。
「じゃあ当日楽しみにしてるね。“雑用係ちゃんのドレスアップ”」
言いたい放題言って出て行く王族の背中に、アレンは静かに顔を覆った。
ガチャンと閉まった扉を見て、アレンは深々とため息を吐いた。
(ーーークソ、俺とした事が…)
女には、出来だけ近付かないようにしてたのに。
これまで「男」としか思っていなかった存在が、実は女だったなんて。
それも、異世界転移者ときた。これではすぐに辞めさせる訳にもいかない。
(……いや、待てよ…。雑用の仕事が完璧じゃなければ…言い訳も立つ)
一縷の光を見たアレンは、早速雑用係を辞めさせる為に職務を偵察しに向かうのであった。
20
あなたにおすすめの小説
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる