推しに“男”だと勘違いされたけど、雑草根性で執着されてます!【全33話完結予定】

ホタカ

文字の大きさ
14 / 33

第14話 人生初デートは、屋根の上から監視つき

しおりを挟む

「うわぁ!美味しそ~!」
「ほんと?こんなに喜んでくれると連れてきた甲斐があるなぁ」


目の前にある美味しそうなスイーツを前に、喜ばないはずはない。

この日アキは、わざわざ休暇申請を取り数日前約束していた「例のデート」で街に出ていた。
お相手は、もちろん今日もローブを深く被ったウィルである。


「ウィルさん素敵過ぎです!今日会えて元気になりましたー!」
「え?元気って、何かあった?」


(あ、やべ)

つい口が滑ったアキ。
それを見逃さなかったウィルが「へぇ?」と食いつく。


「もしかして、団長と何かあったの?」


どうやらこの人も勘がいいらしい。
だがアレンと「腐れ縁」らしいウィルに彼の愚痴を言おうものなら、後々告げ口されても困る。
アキは苦笑いだけ浮かべ、気分を変えるように目の前のスイーツを見つめた。

(うわぁ……生きてて良かった……!)

ーーー転移前の人生だって、これほど高級で美味しそうなスイーツを口にした事などない。

店に到着した瞬間から、アキは開いた口が塞がらなかった。
一見こじんまりとした街カフェ。だが、人気があるらしく人々で溢れて店の外にも並んでいた。

ウィルはそんな店の正面ではなく裏口から何食わぬ顔で店内へと入っていく。
ローブ姿のウィルに気付いた店員は叫ぶどころか何故か頭を下げ、そのまま個室へ案内され今に至る。

ーーー本当に、この人は一体何者だろうか?

アキの疑問が顔で分かったのか、ウィルはコホンと咳払いして紅茶を口に含んだ。


「ーーーそういえば、アキちゃんって異世界からきたんでしょ?」
「えっ…あ、団長から聞いたんですか?」
「そうだよ。まあ、あいつに聞かなくても外見が違うから分かるけど」


(まあ、そうだよね)


アキは心の中で納得する。
この世界の人たちにアジア系の人や黒髪の人はいない。
小説の舞台もヨーロッパ風な描写ばかりだったから。


「ーーーで、どう?異世界から来た君から見て、この“国”は暮らしやすいと思う?」


突然の質問に、一瞬固まるアキ。
……“国”?
なぜ、“世界”ではなく“国”と聞くのか分からなかったが、とりあえず答える。


「最初は変なオジサンに絡まれたけど…それ以外は平和だし、皆明るいし、素敵なところだと思いますよ。あ、でも貧困街はあるし……うーん」


アキは考える。


「…もし私が騎士団で働けなかったら、この外見だし、きっと貧困街にいたと思います。そしたら今のように衣食住は保証されなかったですし、こんな美味しいご飯もなくて……」


言って、気付いた。
そうだ。アレンにクビにされれば、自分は嫌でもそのルートに行くのだ。
……その死刑宣告のXデーはきっと舞踏会の日だろう。

突然目に見えて元気をなくしたアキ。
だがウィルは何か別の考え事をしているようで気が付かない。


「……なるほどね。異世界から来た君でも、この国の貧富の差は気になるのか…」
「……?ウィルさん?」


ハッと気付いたようにウィルはアキを見る。
そして、再びニコリと笑った。


「他には?何か気になる事あった?」
「え?…うーん…。香辛料が高い?あとは、街灯が少ない気がする、とか」
「それは面白い!街灯かぁ」


何が面白いのか、突然身を乗り出したウィルがふんふんと話を聞いてくる。


「他には?アキちゃんがいた国とこの国、何が違うと思う?」
「えー?1番は、身分があるところですかね?私のいた国は、なかったので」
「へえ!」


驚いた声を上げて、夢中でアキの話を聞くウィル。
彼の顔は相変わらずフードに隠れ見えなかったけど、きっと瞳が輝いているに違いない。

(……この人、面白いな)

つい先程まで暗くなっていた気持ちや、舞踏会イベントでのジェラシーが渦巻いていたのに、ウィルと話しただけで楽しくなる。

…ま、所詮私は“外”の人ですし?
推しが主人公ミアと結ばれるのは、小説の中でもう決まった未来だ。
モブ中のモブである自分は、騎士団からクビにならなければ御の字の言えるもの。
「嫉妬する」などと考える事自体、烏滸がましいのだ。
そう思ったら急に気が楽になるアキ。


「ねえアキちゃん。君はーーこの国がどうなれば良いと思う?」
「え?」


(……さっきから、何でこんなに政治系の話ばかり…?)

そう思ったものの、騎士団や舞踏会の事を考えたくなかったアキはいい気分転換だと、思ったまま告げる。


「そりゃ、平和が1番ですよ!」
「! あはは!うん、そうだよね!」


一拍置いて笑ったウィルは、余程面白かったらしく暫く笑っていた。
それに釣られ、思わずアキも笑ってしまう。

何だか変なデートだけど……少なくとも、今の駐屯地より楽しいと思うアキだった。


◇◇


 
……そんなやり取りの一部始終を、店の斜向かいにある建物の屋根から眺めている男がいた。

 
「……なんだ、アレは」


風に揺れる騎士団の制服を押さえながら、アレンハルトは静かに呟いた。
カフェの窓席に見えるのは、どう見てもあの雑用係だ。
その向かい席にいるだろう男は手元しか見えず、正体が分からない。


「どういうことだ」


吐き出した声は、ほとんど自分でも聞き取れないほど低かった。
あれほど避けられていた理由が、ようやく分かった気がした。

ーーー男がいたのだ。

しかも、休暇申請を取り“二人きりで外出”する程の仲。
……その上、この俺にも向けたことのない笑顔を見せて。


「……チッ」


舌打ちひとつしたアレンは、静かに屋根から姿を消した。
何故か自分の中で渦巻く、静かな苛立ちと共に。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...