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第14話 人生初デートは、屋根の上から監視つき
しおりを挟む「うわぁ!美味しそ~!」
「ほんと?こんなに喜んでくれると連れてきた甲斐があるなぁ」
目の前にある美味しそうなスイーツを前に、喜ばないはずはない。
この日アキは、わざわざ休暇申請を取り数日前約束していた「例のデート」で街に出ていた。
お相手は、もちろん今日もローブを深く被ったウィルである。
「ウィルさん素敵過ぎです!今日会えて元気になりましたー!」
「え?元気って、何かあった?」
(あ、やべ)
つい口が滑ったアキ。
それを見逃さなかったウィルが「へぇ?」と食いつく。
「もしかして、団長と何かあったの?」
どうやらこの人も勘がいいらしい。
だがアレンと「腐れ縁」らしいウィルに彼の愚痴を言おうものなら、後々告げ口されても困る。
アキは苦笑いだけ浮かべ、気分を変えるように目の前のスイーツを見つめた。
(うわぁ……生きてて良かった……!)
ーーー転移前の人生だって、これほど高級で美味しそうなスイーツを口にした事などない。
店に到着した瞬間から、アキは開いた口が塞がらなかった。
一見こじんまりとした街カフェ。だが、人気があるらしく人々で溢れて店の外にも並んでいた。
ウィルはそんな店の正面ではなく裏口から何食わぬ顔で店内へと入っていく。
ローブ姿のウィルに気付いた店員は叫ぶどころか何故か頭を下げ、そのまま個室へ案内され今に至る。
ーーー本当に、この人は一体何者だろうか?
アキの疑問が顔で分かったのか、ウィルはコホンと咳払いして紅茶を口に含んだ。
「ーーーそういえば、アキちゃんって異世界からきたんでしょ?」
「えっ…あ、団長から聞いたんですか?」
「そうだよ。まあ、あいつに聞かなくても外見が違うから分かるけど」
(まあ、そうだよね)
アキは心の中で納得する。
この世界の人たちにアジア系の人や黒髪の人はいない。
小説の舞台もヨーロッパ風な描写ばかりだったから。
「ーーーで、どう?異世界から来た君から見て、この“国”は暮らしやすいと思う?」
突然の質問に、一瞬固まるアキ。
……“国”?
なぜ、“世界”ではなく“国”と聞くのか分からなかったが、とりあえず答える。
「最初は変なオジサンに絡まれたけど…それ以外は平和だし、皆明るいし、素敵なところだと思いますよ。あ、でも貧困街はあるし……うーん」
アキは考える。
「…もし私が騎士団で働けなかったら、この外見だし、きっと貧困街にいたと思います。そしたら今のように衣食住は保証されなかったですし、こんな美味しいご飯もなくて……」
言って、気付いた。
そうだ。アレンにクビにされれば、自分は嫌でもそのルートに行くのだ。
……その死刑宣告のXデーはきっと舞踏会の日だろう。
突然目に見えて元気をなくしたアキ。
だがウィルは何か別の考え事をしているようで気が付かない。
「……なるほどね。異世界から来た君でも、この国の貧富の差は気になるのか…」
「……?ウィルさん?」
ハッと気付いたようにウィルはアキを見る。
そして、再びニコリと笑った。
「他には?何か気になる事あった?」
「え?…うーん…。香辛料が高い?あとは、街灯が少ない気がする、とか」
「それは面白い!街灯かぁ」
何が面白いのか、突然身を乗り出したウィルがふんふんと話を聞いてくる。
「他には?アキちゃんがいた国とこの国、何が違うと思う?」
「えー?1番は、身分があるところですかね?私のいた国は、なかったので」
「へえ!」
驚いた声を上げて、夢中でアキの話を聞くウィル。
彼の顔は相変わらずフードに隠れ見えなかったけど、きっと瞳が輝いているに違いない。
(……この人、面白いな)
つい先程まで暗くなっていた気持ちや、舞踏会イベントでのジェラシーが渦巻いていたのに、ウィルと話しただけで楽しくなる。
…ま、所詮私は“外”の人ですし?
推しが主人公ミアと結ばれるのは、小説の中でもう決まった未来だ。
モブ中のモブである自分は、騎士団からクビにならなければ御の字の言えるもの。
「嫉妬する」などと考える事自体、烏滸がましいのだ。
そう思ったら急に気が楽になるアキ。
「ねえアキちゃん。君はーーこの国がどうなれば良いと思う?」
「え?」
(……さっきから、何でこんなに政治系の話ばかり…?)
そう思ったものの、騎士団や舞踏会の事を考えたくなかったアキはいい気分転換だと、思ったまま告げる。
「そりゃ、平和が1番ですよ!」
「! あはは!うん、そうだよね!」
一拍置いて笑ったウィルは、余程面白かったらしく暫く笑っていた。
それに釣られ、思わずアキも笑ってしまう。
何だか変なデートだけど……少なくとも、今の駐屯地より楽しいと思うアキだった。
◇◇
……そんなやり取りの一部始終を、店の斜向かいにある建物の屋根から眺めている男がいた。
「……なんだ、アレは」
風に揺れる騎士団の制服を押さえながら、アレンハルトは静かに呟いた。
カフェの窓席に見えるのは、どう見てもあの雑用係だ。
その向かい席にいるだろう男は手元しか見えず、正体が分からない。
「どういうことだ」
吐き出した声は、ほとんど自分でも聞き取れないほど低かった。
あれほど避けられていた理由が、ようやく分かった気がした。
ーーー男がいたのだ。
しかも、休暇申請を取り“二人きりで外出”する程の仲。
……その上、この俺にも向けたことのない笑顔を見せて。
「……チッ」
舌打ちひとつしたアレンは、静かに屋根から姿を消した。
何故か自分の中で渦巻く、静かな苛立ちと共に。
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