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第20話 舞踏会開幕、推しの視線が怖すぎる
しおりを挟む煌びやかな帝都の城。
国1番の華やかさを誇り、王の権威と象徴を示す場所で舞踏会は開かれていた。
「大丈夫っすかねぇ、アキさん」
「さあ。しかし、入場までには来るのでしょう?」
ヴォルトとジュードがそれぞれ心配そうに会話をする横で、一切の感情を無にしたアレンが静かに目を伏せていた。
だが、いくら待ってもアキは来ない。
「……そろそろ行く」
「えっ、しかしアキさんは……」
アレンの決断にジュードが焦ったところで。
「ーーーうわ、危なっ!もう、何なのこのヒラヒラ」
背後で聞き慣れた女の声。瞬間的に皆が振り向いた。
ーーーそして。
そこには、別人かと思うほどの、美人がいた。
その場の誰もが驚き、固まった。普段見ているはずの小汚い小娘ではなく、れっきとしたレディがいたからである。口を開かなかったら。
アレンも同じく目を見開きー……思わずゴクリと喉を鳴らす。
そして、咄嗟に褒めようと思い、あろう事かこの日1番の爆弾を投下させた。
「き、君は……化粧をすると迫力美人に…なるのだな」
「……は?」
一瞬で、空気が凍る。
何言ってんだこいつ。
ここにいる誰もがそう思った瞬間だった。
言われた本人であるアキも一瞬何を言われてるのか分からない程だったから。
(……もう少しマシな褒め方……いや、違う。なに耳まで赤くなってんだ)
大体お前のタイプは小動物系可愛い女子でしょーが!
アキは心の中でツッコむ。
だけど……あれ?嫌な顔されてない。
て事は、少なくとも「女だから」という理由で直ぐに騎士団をクビにはされないのかも知れない。
(………でもミアと会えばゲームオーバーだけどね)
彼女に会えば一瞬で私は追い出されるはずだ。
期待するだけ、自分が傷付く。決して「嬉しい」などと思ってはいけないのだ。
思わず、自分を落ち着かせるようにこめかみを強く揉んだ。
「えーと…。と、とにかく問題はないですよね?」
「…あ、はい!完璧です!そんじょそこらの令嬢より余程綺麗っすよ…!マジでビックリっす!」
「いやぁ、まさかこんなに美しい人だったとは」
「え~?そんなに褒めて貰えるならこれから化粧しようかな~」
なんて、と笑えば意外にも「それは是非」と騎士団の面々が答えてくれる。
そんなに真剣にお世辞言わなくとも…。何気に皆の目が怖いんですけど…。まあ、舞踏会へ参加するのに変ではないくらいには大丈夫という事だろう。
さすが皇太子サマです!そしてありがとうマダム・マム!
「じゃあ、私は隊の1番最後に入場しますね」
「え?」
キョトンとした表情のヴォルトが首を傾げ、アキもそれにつられて首を傾げる。
相変わらず子犬感が可愛い。これで同い年とは信じられない。
「アキさん1人で入場はないっすよ?」
「? 何でですか?」
「だって……女性ですよ。誰かがエスコートするものっす」
(おい、お前の口から初めて“女性”などと聞いたぞ)
何だか急に手のひら返しをされ、思わずヴォルトを睨みつけるアキ。
「エスコートは、俺がやろう」
ここでようやく意識を取り戻したようにアレンが発言した。
それまで誰1人も気付かなかったとばかりに、皆が一斉にこの美形の団長を見つめる。
アレンの目は、マジだった。
(………え、何急に)
「俺が適任だ。この隊のトップだしな」
真剣な表情でさも当然のように言い放つアレン。
いや、何で急にそんなにエスコートしてくれる気満々なの?逆に怖いんですけど…。
というか普通に
「嫌です」
「え」
「そもそも私雑用係ですし。団長みたいな貴族にエスコートしてもらう身分でもないですし。お断りします」
まさか断られるとは思わなかったのか、石のように固まったアレンが呆然とアキを見つめる。
(……まあ、本当は推しと一緒に入場したいけど…その方が余計に辛いしね)
何度も言うが、この会場には主人公ミアがいるのだ。
アレンがミアを見た瞬間、私はゴミ同然の扱いになるだろう。
エスコートされてたはずの地味女が見事に放置されるなんて、いい笑い者だ。大勢の前で恥はかきたくない。
「団長以外の方でお願いできると助かります」
「えっ」
「もっと言えば後方入場だと更に嬉しいのですが」
「あ、なら俺っすね」
「ヴォルトさん、本当に良いんですか?」
自分以外で、と言われた事に更にショックを受けたように口を開けたまま固まるアレンをよそに、爽やかな笑顔のヴォルトが「もちろん!」と答える。
ヴォルトも貴族だ。だが、以前男爵の三男坊と教えて貰っていたので気が楽だ。
何故かアレンの目線が怖いけど美形の騎士団長の隣を歩く生き地獄を味わうよりマシ。
特に私は異世界転移者だし、変に目立ちたくはない。
「では、よろしくお願いします。ヴォルトさん」
「任せて下さい!ちゃんとお役目果たしますよ!」
「さすが戦友!」
笑顔で笑い合うアキとヴォルト。
2人でキャッキャ言う姿を、未だ静かに睨み付けているアレンには、誰もが気付かない振りをしていた。
「……あの女…もう許さん」
ボソリと呟いたアレン。
ただ1人、ジュードは心の中で(本当に、残念なイケメンなんですね)と憐憫にも似た残念そうな表情で見つめるのであった。
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