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催眠術師の欲望
放課後の誰もいない教室、そこで一組の男女が向き合っていた。一人の目はどこか虚ろで、もう一人の目は欲望に満ちていた。
「あぁ! 好きだ! 好きだよ! 好きです! 君のことが大好きなんだ!」
「そんな、こんな所で!」
「僕はもう自分を抑えられない! さぁ! 一緒に!」
当然の権利のように少女を抱きしめる少年。それは童貞少年特有の力加減の拙さがあり、誤って彼女の体は少年の胸にぶつかってしまった。
しかしそんなこともどうでもいいと思えるくらいに彼女のことが愛おしく、すべてを独占したいと思うほどに彼女のことを愛していた。その体も、心も、全てが自分のものになるのならこんなに幸せなことは無いと思うくらいには。
しかし、少年は気付いてしまった。自分の胸に、あるべき二つの柔らかな感触が存在しない事に。
そうして、一度彼女を抱きしめるのをやめる。
彼女の姿をしっかり見るが、そこに不自然なところはどこにもなかった。綺麗な青みがかった黒髪、小柄で守りたくなるようなスタイル。恥ずかし気に、しかし“まだか”と受け入れている艶やかな表情。そして、Cの二つの山。
当然そこにはあった。あるのだ。だがあの時の謎は何が理由で?
そう思った少年の手は少女の胸を触ろうとする。しかし、不可思議な事にその手は空を切った。どういう事だろうかと不思議に思い、もう少し奥まで手を伸ばしてみる。
そこには、壁があった。
瞬間、少年の中に湧き出でる正しき思い。尊い願い。
ああ、それは二つの山が作り出す幻想の中にこそあるはずなのに!
「僕は、一体何をッ!」
「……なんだよ君のその抵抗スイッチは! 僕のことが好きになった筈だろう! 獣欲に身を任せる筈だろう! なのにどうしてそう、そうなんだ! 一つくらいの欠点見逃してくれても良いじゃないか! スレンダーで何が悪いんだよ!」
「壁が、何を言う!」
「壁って言うなこの巨乳狂がぁ!」
そうして、本日10発目の洗脳リセットビンタが炸裂した。
とどのつまりこの話は。
なんでもできてしまう催眠術の欲望に対して頑張ってブレーキをかける風紀委員の佐伯風花ちゃんが、この親切な皮を被った巨乳狂、御影誠一の強情によってだんだんとその頑張りを放棄していく話である。
⬛︎⬜︎⬛︎
事の始まりは、彼にとって些細なことで彼女にとっては青天の霹靂としかいえなかった出来事。
風花は、他人に優しくする事を心がけている少女である。しかしそれには当然理由がある。彼女は深いコミュニケーションを苦手としており、どこかのグループに所属するということが致命的に苦手だったのだ。それが原因で中学時代はいじめ寸前まで行ったこともあるほどに。
だからこそ、彼女は人に対して自分を好意的な人物であると見せる為に努力を怠らなかった。けれどそれは、一部の者達からは“なんでも頼みを聞く便利な奴”として扱われる事を意味した。
そんな悪いポジションが定着した頃、風花は一人涙を堪えながら押し付けられた教室の掃除を行なっていた。
……そんな時、だった。
「アレ? 佐伯さん一人なん?」
「うん、皆は用事があるみたいでね。代わりに暇な僕がやっているという奴だよ」
この高校ではバイトもできず、友人のいない彼女には遊びに行く話もない。つまり、暇なのは本当であった。何か理由があれば断れたのになぁと思ったのは仕方のないことだろう。
そんな事を考えながら掃除をしていたので彼の表情を全く見ていなかった彼女は、彼のその行動に気付くのが遅れた。
彼は、ごく当たり前のように掃除用具を手に取り、風花の掃除を手伝い始めたのだ。
「じゃ、さっさと終わらせよう」
「ええ……ええ⁉︎いやどうしたんだい御影くん⁉︎君に手伝う理由なんてないじゃないか!」
「いやだって」
「暇なら、手伝っても良いんだろ?」
そんな“してやったり”な少年の表情に、少女の生まれてから一度も起動していなかった乙女回路は火を上げながら高速回転を始めた。
それが、この恋の始まりだった。
⬛︎⬜︎⬛︎
そして、何を起きないまま1年半が過ぎた!
どんなに高速回転しても、風花は17の現在まで交際どころか恋愛にすら触れてこなかった生粋の処女! そんな女がどう頑張ってもその誠実さから地味に人気のある彼のような人間にアプローチをかける事はできずに居た! もし、親しい友人が居たならば彼女の背中を押しただろうが、そんなものは居ない! ずっとずっと当たり前のことをしながら彼の背中を追いかけてきたが、それだけだった!
しかし、そんな彼女に転機が訪れる。
その人は、奇妙な人物だった。中性的であり、ぶっちゃけ性別は最後までよくわからなかった。男と言っても女と言っても信じてしまう、そんな感じだった。
そんな奇妙な彼の話術により、彼女は生まれて初めての恋愛相談を行った。彼、または彼女は聞き上手であり、心の奥にある醜く深いものすら吐き出してしまった。
「ふむ、よくわかった。なら、君に力をあげよう」
「……力?」
「そう、力だ。君は欲望のままこの力を使う事になるかもしれないけど、けど君の純情すぎて痛々しい思いを知ったならそれを応援したくなってしまってね」
「使い方は、心で理解できる。だから、受け取るのかを決めるは君の意思だけだ。君が望むのならば、君にこの、“催眠術”の力を授けよう」
「そっか、それがあれば御影くんだって!」
「受けるかい?」
「受けます!」
「そうか、それは良かった」
そうして、流れ込む不思議な感覚。そうしてわかった。この力はたった一人に対してしか使うことはできないということ。
そして、この力を渡したらそれによって催眠術に関しての記憶は無くなってしまうということ。
「なんで?」
「何を聞いてるのかは分からないんだけれど、このメモのとおりに言うならば」
「“僕はもう、ソレに頼らずに大切なものを手に入れた”だってさ」
「それじゃあね、待ち合わせがもうすぐなんだ。君に渡ったモノが君を幸せにしてくれることを祈ってるよ」
そう言ってその人は去っていった。
あんなに幸せな顔にできる力、それが催眠術なんだとの勘違いを彼女に残して。
⬛︎⬜︎⬛︎
そうして、彼に催眠術をかけてから、一瞬でその喜びは後悔に変わった。望めば、好きだと言ってくれる。望めば、きっと結婚だってしてくれる。望めば、肉体的に愛し合う事も出来るだろう。しかし、それで本当に彼に私の心を伝えられたという事になるのか、心から愛し合うということになるのか? そんな思いが彼女にはあった。
だから彼には、“私のことをよく見て欲しい”とだけ催眠をかけてそれだけにしてしまった。
それくらいのズルなら、彼も許してくれるだろう、そんな思いからの行動だったが
何も! 変わらなかった!
彼は今までと全く変わらないようで、私の事を特別気にしたりは全くしていなかった。
ならば、どうするべきか? 当然催眠である。この時点で彼女はかなり頭にきていた。全く彼女を見る目が変わらないのである! そんなのは恋して暴走する乙女心からは有罪だ!
そうして、彼女は使ってしまった。禁断の催眠術、“私の事をどう思ってるのか本気で答えてよ!”という通常なら終わりのトリガーを。
「佐伯さんは、とても頑張ってると思う。皆に押し付けられてたりもしたのに人に優しくするのをやめないし、最近はちゃんとその人の為に怒ることもできてる。そんな佐伯さんのことは、かなり好きだよ」
まさかの大絶賛⁉︎と少女は思う。しかし、ならばどうして自分を見る目が変わらなかったのか? そんな事を思った瞬間に彼の言葉が続いてしまった。
「でも、胸がない。あれでC……せめてBがあれば俺はガチ惚れしていたかもしれないのに、佐伯さんは無いしなぁ……」
ちなみにそれは、巨乳狂である彼からしたらとんでもない譲歩であり、ほとんど“もうとっくに惚れてる”という事と同義なのだが彼女は気付かない。胸のことはコンプレックスなのだ。
そうして、彼女は本日一度目の催眠解除ビンタを彼に叩き込むのであった。
そして彼女のブレーキが壊れるか、少年の二つの丘を愛する尊い思いが屈するかのデスレースが始まったのだった。
⬛︎⬜︎⬛︎
そして20発ほど催眠解除ビンタを叩き込み、これ以上は彼の顔がアンパ○マンのようになってしまうというわずかに残った理性が今日はこれくらいにしようとさせた。最終下校時刻がやってきたというのもあるのだが。
「ねぇ誠一くん。君はどうしてそんなに僕のことを見てくれているの?キミの優しさはずるいよ」
「……いや佐伯さんどうして名前呼び?」
「”名前呼びくらい普通でしょ?”」
「そういえばそうだね風花ちゃん」
こんな些細なことでも催眠を使わなければ踏み出せない勇気のなさのことを、風花は嫌いになっていった。催眠術師になったことで得られたのは万能感や幸せなどではなく、虚しさと自分への嫌悪感だけだった。
だが、そんな彼女を見逃さない男がここにいる。
それは優しさからではない。自覚していない恋心からでもない。
彼自身の性格からだった。
「ねぇ風花ちゃん、どっか寄ってかない?」
「……あれ?そんな催眠かけたっけ?」
「何言ってるのかよくわかんないけど、なんか自己嫌悪で負のループ来てるっぽいし、近所のゲーセンでも行かない?」
「なんでゲームセンター?」
「ストレス発散ならあそこのパンチングマシンがいいのさ。たまにはモノに当たってもいいんじゃない?風花ちゃんみたいなまじめな娘は」
「……そうだね。どっかの巨乳狂いにストレスを溜められてしまったからね」
「……巨乳狂い?ダ、ダレノコトカナー?」
「隠しているつもりだったのかい君のあれは!?英語の柳先生の胸元ガン見してたじゃないかこの1年半!」
「え!?そこまで噂になってるの俺のこと!?」
「君を見てたからよくわかるって話だよこの馬鹿! ちょっとは貧乳のことを隙になってもいいじゃないか!」
「いや、勘違いをしてるぞ風花ちゃん」
「……なんだい?」
「貧乳は嫌いじゃない! 貧乳にだって夢はある!」
「ならどうして僕を好きになってくれないんだよ!」
「ゼロに何をかけてもゼロだからだ!虚乳は、虚乳は違うんだよ!」
「誰が虚乳だ巨乳狂い!ちゃんとAAはあるよ!ゼロじゃないんだ!」
「嘘だ!」
「本当だよ!君だって触ったじゃないか!」
「そんな、ことが……ッ!?」
「戦慄するほどかい!?」
「というか、なんか聞き捨てならないワードがいろいろ聞こえた気がしたんだけれど」
その誠一の言葉に、風花は思わず催眠をはなつ。”忘れろ”という催眠術師生活(2日目)においてボロを出すというか何かするたびにボロしか出さない彼女の使いなれてしまった術である。
「もしかして、今の勢いに任せて告白しても良かったんじゃないかなぁ?」
そんなことを思いながら、ケロッとしている誠一の”早く行こうぜー”という緩い声を聴く。
その声だけで、今の風花は実は結構幸せだった。そう気づくのは遠くない未来のことである。
⬛︎⬜︎⬛︎
これは、少女が催眠術と出会ったことで始まった話だ。
だが、この二人の恋に、そんなものは不要である。そのことに風花が気が付いたのは催眠術と全く関係のない出来事にて二人が結ばれたときだった。
「あぁ! 好きだ! 好きだよ! 好きです! 君のことが大好きなんだ!」
「そんな、こんな所で!」
「僕はもう自分を抑えられない! さぁ! 一緒に!」
当然の権利のように少女を抱きしめる少年。それは童貞少年特有の力加減の拙さがあり、誤って彼女の体は少年の胸にぶつかってしまった。
しかしそんなこともどうでもいいと思えるくらいに彼女のことが愛おしく、すべてを独占したいと思うほどに彼女のことを愛していた。その体も、心も、全てが自分のものになるのならこんなに幸せなことは無いと思うくらいには。
しかし、少年は気付いてしまった。自分の胸に、あるべき二つの柔らかな感触が存在しない事に。
そうして、一度彼女を抱きしめるのをやめる。
彼女の姿をしっかり見るが、そこに不自然なところはどこにもなかった。綺麗な青みがかった黒髪、小柄で守りたくなるようなスタイル。恥ずかし気に、しかし“まだか”と受け入れている艶やかな表情。そして、Cの二つの山。
当然そこにはあった。あるのだ。だがあの時の謎は何が理由で?
そう思った少年の手は少女の胸を触ろうとする。しかし、不可思議な事にその手は空を切った。どういう事だろうかと不思議に思い、もう少し奥まで手を伸ばしてみる。
そこには、壁があった。
瞬間、少年の中に湧き出でる正しき思い。尊い願い。
ああ、それは二つの山が作り出す幻想の中にこそあるはずなのに!
「僕は、一体何をッ!」
「……なんだよ君のその抵抗スイッチは! 僕のことが好きになった筈だろう! 獣欲に身を任せる筈だろう! なのにどうしてそう、そうなんだ! 一つくらいの欠点見逃してくれても良いじゃないか! スレンダーで何が悪いんだよ!」
「壁が、何を言う!」
「壁って言うなこの巨乳狂がぁ!」
そうして、本日10発目の洗脳リセットビンタが炸裂した。
とどのつまりこの話は。
なんでもできてしまう催眠術の欲望に対して頑張ってブレーキをかける風紀委員の佐伯風花ちゃんが、この親切な皮を被った巨乳狂、御影誠一の強情によってだんだんとその頑張りを放棄していく話である。
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事の始まりは、彼にとって些細なことで彼女にとっては青天の霹靂としかいえなかった出来事。
風花は、他人に優しくする事を心がけている少女である。しかしそれには当然理由がある。彼女は深いコミュニケーションを苦手としており、どこかのグループに所属するということが致命的に苦手だったのだ。それが原因で中学時代はいじめ寸前まで行ったこともあるほどに。
だからこそ、彼女は人に対して自分を好意的な人物であると見せる為に努力を怠らなかった。けれどそれは、一部の者達からは“なんでも頼みを聞く便利な奴”として扱われる事を意味した。
そんな悪いポジションが定着した頃、風花は一人涙を堪えながら押し付けられた教室の掃除を行なっていた。
……そんな時、だった。
「アレ? 佐伯さん一人なん?」
「うん、皆は用事があるみたいでね。代わりに暇な僕がやっているという奴だよ」
この高校ではバイトもできず、友人のいない彼女には遊びに行く話もない。つまり、暇なのは本当であった。何か理由があれば断れたのになぁと思ったのは仕方のないことだろう。
そんな事を考えながら掃除をしていたので彼の表情を全く見ていなかった彼女は、彼のその行動に気付くのが遅れた。
彼は、ごく当たり前のように掃除用具を手に取り、風花の掃除を手伝い始めたのだ。
「じゃ、さっさと終わらせよう」
「ええ……ええ⁉︎いやどうしたんだい御影くん⁉︎君に手伝う理由なんてないじゃないか!」
「いやだって」
「暇なら、手伝っても良いんだろ?」
そんな“してやったり”な少年の表情に、少女の生まれてから一度も起動していなかった乙女回路は火を上げながら高速回転を始めた。
それが、この恋の始まりだった。
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そして、何を起きないまま1年半が過ぎた!
どんなに高速回転しても、風花は17の現在まで交際どころか恋愛にすら触れてこなかった生粋の処女! そんな女がどう頑張ってもその誠実さから地味に人気のある彼のような人間にアプローチをかける事はできずに居た! もし、親しい友人が居たならば彼女の背中を押しただろうが、そんなものは居ない! ずっとずっと当たり前のことをしながら彼の背中を追いかけてきたが、それだけだった!
しかし、そんな彼女に転機が訪れる。
その人は、奇妙な人物だった。中性的であり、ぶっちゃけ性別は最後までよくわからなかった。男と言っても女と言っても信じてしまう、そんな感じだった。
そんな奇妙な彼の話術により、彼女は生まれて初めての恋愛相談を行った。彼、または彼女は聞き上手であり、心の奥にある醜く深いものすら吐き出してしまった。
「ふむ、よくわかった。なら、君に力をあげよう」
「……力?」
「そう、力だ。君は欲望のままこの力を使う事になるかもしれないけど、けど君の純情すぎて痛々しい思いを知ったならそれを応援したくなってしまってね」
「使い方は、心で理解できる。だから、受け取るのかを決めるは君の意思だけだ。君が望むのならば、君にこの、“催眠術”の力を授けよう」
「そっか、それがあれば御影くんだって!」
「受けるかい?」
「受けます!」
「そうか、それは良かった」
そうして、流れ込む不思議な感覚。そうしてわかった。この力はたった一人に対してしか使うことはできないということ。
そして、この力を渡したらそれによって催眠術に関しての記憶は無くなってしまうということ。
「なんで?」
「何を聞いてるのかは分からないんだけれど、このメモのとおりに言うならば」
「“僕はもう、ソレに頼らずに大切なものを手に入れた”だってさ」
「それじゃあね、待ち合わせがもうすぐなんだ。君に渡ったモノが君を幸せにしてくれることを祈ってるよ」
そう言ってその人は去っていった。
あんなに幸せな顔にできる力、それが催眠術なんだとの勘違いを彼女に残して。
⬛︎⬜︎⬛︎
そうして、彼に催眠術をかけてから、一瞬でその喜びは後悔に変わった。望めば、好きだと言ってくれる。望めば、きっと結婚だってしてくれる。望めば、肉体的に愛し合う事も出来るだろう。しかし、それで本当に彼に私の心を伝えられたという事になるのか、心から愛し合うということになるのか? そんな思いが彼女にはあった。
だから彼には、“私のことをよく見て欲しい”とだけ催眠をかけてそれだけにしてしまった。
それくらいのズルなら、彼も許してくれるだろう、そんな思いからの行動だったが
何も! 変わらなかった!
彼は今までと全く変わらないようで、私の事を特別気にしたりは全くしていなかった。
ならば、どうするべきか? 当然催眠である。この時点で彼女はかなり頭にきていた。全く彼女を見る目が変わらないのである! そんなのは恋して暴走する乙女心からは有罪だ!
そうして、彼女は使ってしまった。禁断の催眠術、“私の事をどう思ってるのか本気で答えてよ!”という通常なら終わりのトリガーを。
「佐伯さんは、とても頑張ってると思う。皆に押し付けられてたりもしたのに人に優しくするのをやめないし、最近はちゃんとその人の為に怒ることもできてる。そんな佐伯さんのことは、かなり好きだよ」
まさかの大絶賛⁉︎と少女は思う。しかし、ならばどうして自分を見る目が変わらなかったのか? そんな事を思った瞬間に彼の言葉が続いてしまった。
「でも、胸がない。あれでC……せめてBがあれば俺はガチ惚れしていたかもしれないのに、佐伯さんは無いしなぁ……」
ちなみにそれは、巨乳狂である彼からしたらとんでもない譲歩であり、ほとんど“もうとっくに惚れてる”という事と同義なのだが彼女は気付かない。胸のことはコンプレックスなのだ。
そうして、彼女は本日一度目の催眠解除ビンタを彼に叩き込むのであった。
そして彼女のブレーキが壊れるか、少年の二つの丘を愛する尊い思いが屈するかのデスレースが始まったのだった。
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そして20発ほど催眠解除ビンタを叩き込み、これ以上は彼の顔がアンパ○マンのようになってしまうというわずかに残った理性が今日はこれくらいにしようとさせた。最終下校時刻がやってきたというのもあるのだが。
「ねぇ誠一くん。君はどうしてそんなに僕のことを見てくれているの?キミの優しさはずるいよ」
「……いや佐伯さんどうして名前呼び?」
「”名前呼びくらい普通でしょ?”」
「そういえばそうだね風花ちゃん」
こんな些細なことでも催眠を使わなければ踏み出せない勇気のなさのことを、風花は嫌いになっていった。催眠術師になったことで得られたのは万能感や幸せなどではなく、虚しさと自分への嫌悪感だけだった。
だが、そんな彼女を見逃さない男がここにいる。
それは優しさからではない。自覚していない恋心からでもない。
彼自身の性格からだった。
「ねぇ風花ちゃん、どっか寄ってかない?」
「……あれ?そんな催眠かけたっけ?」
「何言ってるのかよくわかんないけど、なんか自己嫌悪で負のループ来てるっぽいし、近所のゲーセンでも行かない?」
「なんでゲームセンター?」
「ストレス発散ならあそこのパンチングマシンがいいのさ。たまにはモノに当たってもいいんじゃない?風花ちゃんみたいなまじめな娘は」
「……そうだね。どっかの巨乳狂いにストレスを溜められてしまったからね」
「……巨乳狂い?ダ、ダレノコトカナー?」
「隠しているつもりだったのかい君のあれは!?英語の柳先生の胸元ガン見してたじゃないかこの1年半!」
「え!?そこまで噂になってるの俺のこと!?」
「君を見てたからよくわかるって話だよこの馬鹿! ちょっとは貧乳のことを隙になってもいいじゃないか!」
「いや、勘違いをしてるぞ風花ちゃん」
「……なんだい?」
「貧乳は嫌いじゃない! 貧乳にだって夢はある!」
「ならどうして僕を好きになってくれないんだよ!」
「ゼロに何をかけてもゼロだからだ!虚乳は、虚乳は違うんだよ!」
「誰が虚乳だ巨乳狂い!ちゃんとAAはあるよ!ゼロじゃないんだ!」
「嘘だ!」
「本当だよ!君だって触ったじゃないか!」
「そんな、ことが……ッ!?」
「戦慄するほどかい!?」
「というか、なんか聞き捨てならないワードがいろいろ聞こえた気がしたんだけれど」
その誠一の言葉に、風花は思わず催眠をはなつ。”忘れろ”という催眠術師生活(2日目)においてボロを出すというか何かするたびにボロしか出さない彼女の使いなれてしまった術である。
「もしかして、今の勢いに任せて告白しても良かったんじゃないかなぁ?」
そんなことを思いながら、ケロッとしている誠一の”早く行こうぜー”という緩い声を聴く。
その声だけで、今の風花は実は結構幸せだった。そう気づくのは遠くない未来のことである。
⬛︎⬜︎⬛︎
これは、少女が催眠術と出会ったことで始まった話だ。
だが、この二人の恋に、そんなものは不要である。そのことに風花が気が付いたのは催眠術と全く関係のない出来事にて二人が結ばれたときだった。
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