残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-

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第一戦 VSシリウス 少年と臆病者の剣《チキンソード》

第一戦最終話 刻まれた痛みと微かな希望

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 戦いは終わり、世界は修正された。

 奏が負っていた多くの手傷は消失し、薙ぎ倒された多くの家屋は元通りになり

 そして、死んだ命だけが、戻ってこなかった。

「どうして?」
「……それがわからないから、僕たちは色々頑張ってる」

 そうして握りしめた曲剣だったもの。今は警棒に戻っているものをじっと見つめて、足柄へと返還した。

「私にも、手伝わせて欲しい。明太子やユージみたく」
「……彼らは勝手にやってるだけなんだけどね」
「なら、私も勝手にやる」

 そんな言葉を泣きながら言う少女は、とても痛々しい。

 それでも、その言葉に否と答えなくてはならない。今の自分たちがその力を必要としているのだとしても。

「警察官の端くれとして、君みたいな子供がこの件に関わるのを僕は認められない。……けれど」

 しかし。それで全てを否定してしまう事ができるほど足柄圭一という男は冷たくなりきれずにいる。大切なのは、彼女を戦力として確保することではなく、彼女の明日が健やかなものであるようにすることなのだから。

 それは、普段はだらしない姿しか見せない先輩警察官から学んだ、最も大切な足柄圭一の信念だった。

「僕自身は、戦う力がある事と、戦う義務がある事は別だと思ってる。だから、君が戦いたいと思った事は頭ごなしに否定はしないつもりだ。けど、忘れないで欲しい。それは義務じゃない。大切な人達が殺されたから復讐しなきゃいけないなんて理屈はないんだ。忘れないで」

 その言葉を聞くと、どこか安心したように彼女は笑い、眠りについた。

 その小さな体を抱きとめて、足柄は思う。

 命令の有無は関係なく、泣いている子の前に出れないのは警察官として、男としてクソだと。

「先輩、ちょっとお願いしたい事があるんですけど……」
「誰かが行かなきゃならない話だ。推薦はしておいてやるよ。“署内最強”」
「……ありがとうございます」
「殊勝になるな気持ち悪い。お前はお前らしく居ればいいんだよ」

 そうして、足柄圭一は再び“じゅーじゅん”としての活動を再開するのだった。

 ■□■

 それから再び入院をした琢磨達。裕司はダメージを負っていないし構わないと言ったのだが、警察権限で押し切られた。

 そこには、栗本の自分のそばで勝手に中に入られた事の恨みがないとは言わない。根に持つタイプなのだ。

 それから少し経ち、氷華の手術があと一週間後に迫ったその時、第二のワールドが解放された。

 そこは、相変わらずのソルディアル王国。しかし、そこには多くの騎士がいて、多くの戦士がいた。

 そして、現実での事件に関係のある者なら絶対に見過ごせない人々がいた。

「嘘だろ、あんたはあの時!」
「……父さん、母さん?」

 裕司が驚いたのは、戦うと決めたその日から頭に焼き付いていた男性が武器屋の新しい店員として扱われていた事。

 そして、奏が驚いたのは、彼女の両親がこの国で結ばれようとしている中年夫婦として見られていた事。

 どちらも夢のようで、しかしある可能性を頭に過らせるには十分なものだった。


 ■□■

「ヤァ、無事じゃないね明太子クン」
「心臓の検査とかいつものことなので、相対的には無事ですよ」
「そこに慣れないで欲しいと思うんだけどな……」

 そんな会話と共に琢磨の病室にやってきたのは帝大の二人、白衣カタコト美女牧野と、情けなさ詐欺の末吉だ。

 彼らは、琢磨の病室でこれまでの事、これからの事を話し合うと聞いて無理に時間を作ってやってきてくれたのだ、魂の研究者として。

「あなた達、何?」
「ニンゲンのつもりだヨ、私はね」
「そういう事じゃないでしょ先輩。帝大の末吉と牧野です。以前話した“仮説”について君たちの意見が聞きたくてね」

 そうして話し始めた。

 異界の魂だけを表に出す性質の事。
 なのに、どうして死んだ者の肉体までこの世から消えてしまうのか。

 それは、体が必要だからという理由だ。

「それに、メディちゃんから聞いた魂の成長とボスキャラのシリウスの話を合わせると、こんな可能性が出てくる」

 消えた人々は、まだ生きており、どこかで死にかけ続けて魂を養殖させられているのでないかと。いずれその魂をどうにかするのだろうけれど、おそらく今はまだ間に合うということ。

 それは、とても甘い希望であり……




 ■□■

「誰、ですか? あなた達」

 ■□■





 少女にとっては、さらなる苦しみと涙をもたらすものてしかなかった。


 しかし、その涙が地に落ちる事はなかった。

「ま、つまり彼らはまだ生きていて、これから助けられるって事だよねコレ。やる気が出てきたよ」
「足柄、さん?」
「じゅーじゅんね。筆ペンちゃん」

 一人の優男が、その涙を拭ったからだ。

「ていうか明太子! こういうラブコメは君がやりなよ! 僕がやると事案なんだから! ハラスメントでBANされたらガチで泣くよ!」
「最後まで格好つけて下さいよそこは」
「えー、そんなの僕のノリじゃないし」

 戦うと決めた者達は、しかしその心を折る事なく前に進む。この謎を解き奪われた命を取り戻す為、という明確な理由が出来たことにより。

 いつかそれが、明確な破滅を生む事になると分からずに。

 ■□■




 管理AIの所有しているコンソールルームにて、マテリアと一人の騎士が新たに作られた世界を見ていた。


「ロベルト、本格的に始まりましたね」
「……ああ、これで戦いは本格的なモノになる。魂の奪い合いだな」
「ですが、あなたにとっては嬉しい事なのではありませんか? 仇を討つ機会が巡ってくるのですから」
「そんなもんを望む奴なら、そもそも俺は惚れたりしてねぇよ」

 そんな言葉をかけた騎士の声は、平坦だった。本人も仇討ちを望む機会を望んでいないわけではないのだから。

「それで、聖剣は見つかりましたか?」
「んなもん、そこらじゅうに転がってるよ」
「聖剣信仰の話ではありません。本物の、命を司る聖なる剣の事です」
「……見つけてたら、とっくの昔に俺が引き抜いてるよ。アレがありゃ、俺はまた戦う事ができるからな。見てるしかないって、かなり辛いんだぜ」
「それには同意します。幾度となく指示を出したくなりましたから。不可能でしたけれど」
「……お互い、厄介な縛りをつけられたな」
「ですが、それ以上に収穫がありました」

 そうして、マテリアはあるデータをロベルトに見せた。それは魂の強さを数値化したものだ。

「彼女の力が有れば、スケジュールをもっと早められるかも知れません。彼女を鍛えてはくれませんか?」
「無理だ」
「……それは何故?」
「不向きなんだよこの娘には。録画を確認したが、そもそもの身体の動きが鈍い。生命転換ライフフォースでの強化のせいで見えてないが、強化した状態でコレだぞ? んなのただのカモだ」
「……ままなりませんね」
「それが人生って奴だ……だが、だからこそ輝く魂ってのは確かにある。俺は一人それを見た」

 その言葉に、マテリアは呆れてため息を吐く。

「ロベルト。何故あなたはこんな時にでも前を向いていられるのですか? 私にはわかりません。私はもはや惰性でタスクをこなしているだけでしかありません。主なき今、私たちの意味はもうないのかも知れないのに」
「んなもん決まってるだろ」
「それは?」


「なんとなく、だよ」


 その言葉に、答えを期待していたマテリアは少し残念に思い、視線をロベルトからコンソールへと移した。

「わかりませんね、感情とは」
「お前にもあるだろうに」
「ええ、ですが私には感情を完全に理解する事はできないのです。魂が足りませんから」

 そんな事を話しながら、ロベルトは席を立った。彼のタスクをこなす為にだ。

「んじゃ、俺はこの辺で」
「ロベルト。あなたはスケジュール通りに動いて下さい。現在の、日本の一都市に残響異界が出現し続けているのは奇跡でしかありません。戦える者を、広く」
「……そんなに簡単に見つかるもんかね? 命懸けで戦える奴なんざ」

 その言葉を最後に、彼はコンソールルームからワールドへと転移していった。


 ■□■

 琢磨はいつもの時間に目が覚めた。命を込めて剣を振り続けた事と、彼の心臓に起きた発作が原因での入院は、大事をとって2日ほど様子を見る事になったのだ。せっかく中学校に通えているというのに、これでは昔と同じだと、琢磨は思った。

「おはよう、琢磨くん」
「おはよう、氷華」

 この、心臓に悪いモーニングコールも含めて。

「個人病室とはいえ、距離が近くないか?」
「いいじゃない、甘えたい気分なの」

 当たり前のように琢磨に抱きついている氷華。言葉の上でこそ平然と、いつも通りにしている。だが、その身体からは僅かな震えが伝わっていた。

「……俺が死んでも、もう大丈夫だろ?」
「大丈夫じゃなくても行った癖に。そんなにあの娘の事を好きになったの? 琢磨くんは」
「言うな」
「ねぇ、本気で伝わってない? 私の気持ち。私は死にたくないけれど、あなたの為になら、あなたと一緒なら死んでもいいくらいにはあなたが好きなのよ」


「そういう所だけが、俺は苦手だ」


 琢磨は言葉を飾らずにそう言った。琢磨にとって氷華は、言い方を考えずに言えば“自分が人間だと定義する為の道具”としてしか認識して居ないのだ。その心の、異質すぎる感性によって。

 氷華は琢磨を利用して命を繋ぎ、琢磨は氷華を利用して“ニンゲン”の最低ラインを確保している。そんな関係だと、琢磨は思っている。


 そうでないなら、彼の心は止まってしまうのだから。

「……やっぱり駄目ね、この程度じゃまだ動揺もしてくれない」

 それがわかって居ても、御影氷華は行動し続ける。何故なら、押して押して押しまくる事が彼女のスタイルなのだから。

 そう言って、半分ほど本気で震えていた、逆にいえば半分は意図的に震えさせていたその手を止めた。

 別に、琢磨に愛されている確信が欲しい訳ではないのだ。別に、琢磨の心全てが欲しい訳ではないのだ。

 ただ、言葉にした通り死ぬのは一緒がいい。そんな言葉だけが、先程の言葉の真実だった。

 だからこそ琢磨は氷華の狂愛を受け止めきれずに居る。彼が受け入れてしまえば、きっと氷華は死を受け入れてしまえるから。

 “愛する人と共に死にたい価値観”を、琢磨は氷華を見て憧れてしまっているから。

 だから、今はまだ彼女を受け入れない。琢磨自身が、愛についての答えを掴み取るまでは。





「しかし、どうして筆ペンさんと恋仲になりそうだって思い込んだんだ?」
「茜さんのラブセンサーよ」
「いきなりそのワードやめよう。うん」
「じゃあ恋愛嗅覚。彼女が見たところによると、彼女恋を始めてるみたいなのよ。いろいろあってまだ気付けないだろうけれど」
「まぁ、人の恋路にどうこうはしないのが無難だな。馬に蹴られて死ぬのはごめんだ」
「そうね。じゃあ、話しは変わるのだけど……」


 そうして、昔に戻ったかのように朝の会話を楽しむ二人。

 彼らは、恋人関係ではない。もうほとんど決着はついているが、愛を追う女と追われる男の関係だ。

 だが、それとは別にして死に対して妙な価値観を備えているこの14歳達は、理由もなく気があっている。そこの関係には、約束も契約も彼らの思惑も特に関係はなく。


 故に傍目には、仲のいい恋人同士に見えるのだった。

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