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第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達

封印の間での戦い 中編

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 戦いは、続く。

 メディがタクマのウィンドウを操作して物質化したのは矢の束。

 それをイレースに投げ渡すと、風でそれを一本以外矢筒の中に入れたイレースは、残りの一本でタクマを狙う泥の騎士を射抜いた。そしてそのイレースを狙う弾丸を別の騎士が放つもそれをロックスはこともなげにはじき返し、そこに意識が向いた敵をタクマが切り殺す。

 傍らで光が嵐のように敵を切り刻んでいるのに比べれば大した数ではないが、それれでも少しづつ敵は減っていっていた。

 ……この、泥の雨さえなければ。

『ロックス様! 来ます!』
「あーもうめんどくさい!」

 天井から明らかにタクマ達を狙い打っている泥の雨が落ちてくる。最初こそ風にて全て弾き飛ばしたが、今ではロックスの盾から放たれる生命転換ライフフォースに属性を付けないで放つ技によって弾くだけに落ち着いていた。

 雨が降る間隔は無作為だが、雨の降る時間はさほど長くない。だからこそロックスを傘にして、イレースとタクマがそこを守るという戦術が作られていた。

 ただし、この雨の中では光で雨を消し飛ばしているラズワルド王以外は泥のゲートを開いたものしか動けていない。極力ゲートを開かせないように、開いても即座に殺すようにタクマ達は視野を広く保っているが、それでも漏れは出てくる。

「あの大剣使い大技溜めてます! イレースさん!」

 そのタクマの言葉に反応して矢を放つイレースだったが、その矢はコアへと命中しなかった。込められた魂の量は十分で、しかも大剣使いは反応できていなかったのにだ。

 イレースは、その矢の着弾点のズレから、これまでは当たっていた矢が外れた理由を即座に推察した。

「雨の重さが均等じゃないからか……タクマ! 風で吹っ飛ばして!」
「……消耗させられてんな、コレは!」

 しかし、その原因がわかっても対処法は限られている。何せこの三人の生命転換ライフフォースの属性は風が2人に重力が一人。攻めも守りも技術でごまかしてはいるが、根本的に手札が少ないのだ。なので大技をたびたび使わなくてはいけない。

 そうしてタクマの放ったコントロール放棄の技、暴風により一時的に大剣使いまでの道は開く。
 しかし大剣使いも泥から放たれる雷をこちらに放とうとしていた。が、暴風の風を完全に読み切ったイレースの一射により雷の大剣は放たれる前に絶命した。

『雨が止みます! 皆様、お気をつけて』
「気を付けてどうにかなるなら何てことないのにね!」
「イレース! 愚痴いちいち愚痴を挟むな! 士気が下がったらどうする!」
「気にする人誰もいないじゃない!」
「それもそうだが!」

 そのロックスの言葉に、笑いがこぼれるタクマとメディ。

 殺し合いの最中であるのに語り合える仲間がいる。
 それが、不思議と心地が良かった。

 タクマは別段、つながりに飢えているわけではない。しかし、こうした本性の出る激戦の最中にてここまで心に殺意以外のモノがあるのは初めてだった。

 案外、これが友情なのかもしれない。そんなことをタクマが思うと、メディは微笑みながらそれを肯定した。

『人間らしくなりましたね、マスター』
「……こんな状況じゃなきゃ、素直に喜べるんだがな!」

 そうしてタクマは剣を振る。温かさとは別にある。自分の中の殺意も否定しないで、さらけ出すために。

 タクマの精神の成長には理由はない。もともと育っていたものが顕在化しただけなのだから。
 だが、その気づきこそが彼のきっかけだった。

 憧れの人物普通の善人利用しあう相方想ってくれる人、大切な家族。
 そんなタクマの大切なものに友人というものがあることに気づいたときに、タクマは一度開きかけたそれに自然に手をかけて。

『マスター、それは今ではありません』

 そうメディに止められた。

「これがゲートなのか」
『はい。ですが、きっかけを掴んだからといってその万能感に酔っぱらい、3分かそこらで戦闘不能になるリスクはここで追うべきではないかと』
「あ、メディさんめっちゃ怒ってる」
『当然です。私はマスターが望まない結末に走るようなことは絶対にさせませんので』

 と、戦いの中とは思えない会話をタクマとメディは行っていた。
 もちろん、この会話中も戦闘は継続して行っている。一秒だろうと気を抜けば死ぬ戦場ではあるが、逆に言えば一秒未満の戦いの波の引いたときに一呼吸置くくらいはできるのだ。

 もちろんそれはこの乱戦の最中で見切れる広い視野があればこそだが。

「タクマ! そろそろ動きに慣れられる頃! ギアを上げて!」
「お前を下がらせられるほどに余裕はない! 陽動と近接を続けてくれ!」
「了解!」

 そんな無茶を必要だからと押し付けあう3人は、とてもいいチームだった。

 それから5分ほど、タクマ達は戦いを続けた。
 イレースの蛇のように曲がる矢に慣れられて、ロックスのカバー範囲も見切られて、タクマの動きも封殺され始めたが。3人はそれでも戦い続けた。それは、ロックスとイレースの完璧なコンビネーションにタクマという異物が混ざったことによる本人たちにも予想外の連携が生まれ続けているからだった。

 そうしてタクマ達が戦い続けたとき、ふと周囲の敵の波が完全に引いた。

 生産可能数を殺しきったのだろうかと甘いことを一瞬考えたところで、タクマは頭を振る。そんな生易しいものがあるのならラズワルド王を1週間もの間戦い続けさせることは不可能だ。

 だが、なんにせよ始めるのは会話からだ。

「……あ」

 もっとも、タクマは様々な戦いの経験を即座に最適化することに頭を回しすぎたせいで、なんの用事で王に会いに来たのかを忘れる体たらくだったが。なんだかんだと考えるが、根本的にタクマは脳筋なのだ。

『こんばんはラズワルド王。私たちは稀人の先部隊です。王が窮地にあると聞き、実力者を選抜してここにきました』
「ありがとう精霊の方。まさか私たちの側の増援が来るとは思っていなくてね。これでもかなり驚いているんだよ」
『それで、こうやって敵が引く理由はわかりますか?』
「初めてだ。が、おそらく力を溜めているのだろう。私たちを殺せるだけの力を」
『では、私とマスターはこれから上に行き、泥の雨の使い手、泥の騎士の生産場所などを確認してまいります』
「なら、戦士ロックスと戦士イレースは私の元で援護をしてくれるのかい?」
『お嫌でなければ、ですが』
「感謝するよ精霊の方。彼らは戦士団屈指の実力者だ、味方になってくれるのは心強い」

「なんか勝手に私たちの行動決められてない?」
「イレース、俺とお前は休まないと魂が枯渇するぞ。実質一択だろうが」
「うちのメディがすいません」
「まぁ構わないんだけどね。けどタクマ。別行動するならその前に矢の補給頂戴。まだ戦いは終わってないんでしょう?」
「はい。むしろここからこの封印の間をどう防衛するのかが肝です。本隊かアルフォンスが来てくれるなら話は早いんですけどね」
『マスター、王との話途中です。脇を見ないでください』
「……ハイ」

 そんなメディの下に敷かれているタクマを見てロックスとイレースは顔をほころばせる。
 これからより厳しい戦いの中に赴くだろう二人の緊張感のなさと信じあっている声色を感じて。

 ■□■

 タクマは単身で王族の隠し通路を進み、城へと出る。
 そこには、当然いてしかるべき城で働く者たちの姿はなかった。泥に飲まれたのだろう。

 自然に警戒しながら封印の間の真上になっていた大広間の床を見る。
 そこはあの泥にまみれて、凄惨な場と化していた。
 あの泥の原材料は人間の命。であるならば、それがゴミのように捨てられているのはなんと表現するべきかタクマは迷った。

「到着! ですわ!」
「思いのほか早く付けたな」
「なんでもいい。泥の雨なんぞやった奴は速攻でぶっ殺す!」
「メガネはキャラを取り繕え」

 そんな空気を破壊するのが彼ら3人。プリンセス・ドリル一行だ。

「あらタクマさん。下はどうなっていまして?」
「いったん波が引いたみたいな感じです。敵が力を溜めてるみたいだと」
「ならばどうする? ここを張るか?」
「いいえ、私はこのメガネにかけて敵を見つけ出して見せましょう!」
「だが泥の雨を潰さないと俺たちはともかく本隊が瞬殺されるぞ」
「……面倒ですわね!」

 そんなとき、唐突にランスの先端から作られるドリルを床に当てるプリンセス・ドリル。

 そのドリルはたった3秒ほどで確かに上と下の連絡用の穴を貫いた。分厚い石の壁をブチ抜いて。

「さぁ、タクマさんは下でお休みになってくださいな。上の監視と探索は私たちが。連絡はこの穴があれば可能でしょう? ──勝利条件を勘違いしてはなりませんよ?」
「じゃあ、連絡は大声でですね」
「ええ。それでは、またあとで」

 そうして上の様子を確認する手段を手に入れたタクマはその穴から飛び降りて、着地した。

 風のクッションは一応作ったが、高さは4mほどだったのでタクマなら普通に着地できただろう。彼の好むVRゲームの中には五点接地がマストな変態的ゲームもあるのだ。

「上に仲間がいたので、そっちに任せてきました」
「……王城に穴を開けるか、その発想はなかったな」

 そうして、タクマ達とラズワルド王は一時の休息をとるのであった。
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