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それからは寝れない日々が続いた
あの日見えてしまった''好き''だと告げたときの愛らしい彼女の顔が頭から離れない

あの顔を僕じゃない男がさせているのかと思うと心臓が張り裂けそうになった

同時に彼女が僕を好きになることはないのだという現実に酷く絶望した

僕は彼女に一度だって、好きと言われたことがない

忘れたかった
入学してからは、誘ってきた誰とも知らない女を抱いていった
もちろん避妊には徹底した

行為中は、余計なことを考えなくてすんで楽だった

あぁ、気持ち悪い
好きでもない女とするこの行為も
好きでもない女を抱いている自分も

そんなことを考えてるうちに、時間が過ぎていく

でもその作業ともいえる行為が終われば虚無感に襲われた
何をしているんだろうと
彼女に合わせる顔がないと
彼女はこんな自分をみてどう思うだろう
きっと軽蔑される
彼女に好きな人が別にいるとはいえ、僕は婚約者である彼女を裏切っているのだから

こんなことをしたかったわけじゃない
こんなことをしても意味がないことくらいわかってる

わかっていても、どうしても耐えられなかった

少しでも考える時間をなくしたかった


入学してから彼女と会うことはなかった

会おうと思えば会えたけど、多分今の状態で会ってしまえば平静ではいられない

だから頑なに会うことを拒んだ

それから一年がたち、彼女が入学してきた

久しぶりに会えるのかと思うと緊張と嬉しさでソワソワしていると、知らない女に呼び出された
仕方なくいけば一度関係をもったことのある女らしかった

正直いちいち覚えてないし、関係を持つ前に必ずお互いに気持ちはないことを確認している

あくまで体だけの関係

それなのに最近構ってくれないと言われ、イライラが募っていった

適当に話を流していたのに、最後だからとキスをしてきた
まぁ寸前のところでかわして頬に当たっただけだったが
行為中にだって誰ともしていないのに、

「おい、今何をしようとした?」

「え、、え?」

「あぁ、君は自分の命が惜しくないみたいだ」

そう言うと女の顔から血の気が引いていくのがわかった

「ク、、クリス様、、?」

「僕たちはこんなことをする仲じゃないよね」

「ご、、ごめんなさ、、っ」

「君はさ、僕の婚約者に勝てるところがあると思ってる?そうでもなきゃあんなことできないもんね」

「そ、それは、っ、、その、」

「ないよ」

「え、、?」

「レティに勝てる人間なんてこの世に存在しないんだよ。君なんて足元にも及ばない。言ってる意味、わかる?」

「は、はいっ」

「うん?どうしたの?顔色が悪いね、大丈夫?まぁとにかく、二度とあんな馬鹿な真似はしないことだね」

僕がそう笑いかけると逃げるようにしてその場から去って行った

自分で蒔いた種だから仕方はないけれど、、

「クソっ」

それから顔を洗い、彼女に会いに行った


そして久しぶりに会ったレティはさらに美しくなっていた

見惚れてボーっとしてしまいハッとして、久しぶりに緊張しながらもいつものように好きなことを伝えると
彼女は悲しそうに辛そうに、、
それでいて困惑の色を見せた

まさかとは思ったけれど、さっきのを見られたのかという考えにいきついた

いや、そうでなくても僕の噂を耳にしたのかもしれない

絶対に知られたくなかった
純粋で誰よりも綺麗な彼女が、、こんな自分を知れば軽蔑される

その瞬間何もかもがどうでも良くなった

それからは彼女の前でも他の女との関係を隠すことはなくなった

それでもそのことについて、彼女は何も言わない
ただ笑顔を貼りつけてそれを見ている
自分を巻き込まないで欲しいとただそれだけ、、
でも確かそうなるのも当たり前なのかもしれない
婚約者とはいえ好きでもない男が、誰と何をしようと何も思わないのだろう
でもこれまで信頼はしてくれていただろう彼女が、あの時あんな顔をしたということは軽蔑されたことには間違いない
最近では婚約を解消してほしいと言われるようになった

仕方ない
それだけのことを僕はしている
軽蔑されて当たり前だ

それでも僕は彼女を手放すことができない
彼女に触れることが出来なくてもいい
彼女の心が他のやつにあるとしても
もう、形だけでも婚約、結婚して、僕のそばに居てくれればそれでいい

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お読みくださりありがとうございました!
引き続き、読んでくださると嬉しいです☺️
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