16 / 60
四重奏連続殺人事件
しおりを挟む
連続殺人の疑い?
回想を巡らしている倉科にえもいわれぬ感覚が走った。
(綾乃に関連する二人の連続死……。何かあったのかなぁ…?)
記憶の連鎖が始まった。福岡のチェリストは榊江利子。名古屋のバイオリニストは鈴木正恵、どちらも裕福な資産家の娘。事故死した方は実家の裕福さを鼻にかけた高慢ちきなお嬢さん。自殺した女性は、よく喋り活動的な感じで、自殺とは縁遠いような印象だった。ビオラは小田貴子…」日本人離れした、ハリウッド女優顔負けのような凄い美人だった。更に記憶を辿れば、彼女達、音大生の実体像が浮かんできた。
「卒業してオーケストラに入るのは、とても難しいの。だから中学か高校で音楽の先生になるのが普通なのよ。でも、それもなかなか大変なの」
綾乃は常々、ぼやいていた。
「普通に企業へ就職すればいいのに」
「一般就職なんてまっぴらよ!」
綾乃が、顔をしかめた。音大卒業生は、通常の企業へ就職することを『一般就職』と言って嫌うようだった。
結局、裕福なお嬢さんたち四人は、音大卒業後も、大学院もしくは専門課程に通いながら、鈴木正恵が実家のコネで見つけてきた四谷の一角にある音楽事務所と契約を結び、BFF(ビューティフル・フオー・フラワー)とのユニット名で四重奏の演奏活動を続けた。演奏会のチケットは彼女達の両親が関係する企業、団体が義理で購入していたようだ。生活のことを考えないまさにお嬢様芸とでも言おうか。良縁が見つかって結婚に至るまでの腰かけとしての演奏活動。
倉科も何度か義理で四重奏の演奏会に付き合ったが、音楽、特にクラシックに全く素養が無いので、眠気を催すばかりだった。その頃、何かの本で、西洋古典音楽を理解するには、まず、我慢して何度も何度も聞くことだと、戦前にドイツ留学したことのある老法学博士が述べていたことを見付け、俺には無理だな、我慢までして聞かなければならないんじゃ……」と諦めたことを思い出した。
しかし、単なる騒音と感じたり、眠気を催したりするのは、奏者の思い即ち思念が聴衆である倉科に伝わって来ないことを意味していると理解できたのはつい最近だ。かの孔子様は「音楽は文字や言葉より強く思いを伝える」として音楽の効用性を認め、その共鳴性を論じている。老法学博士の言う「我慢」とは共鳴性を感応するための準備期間に違いない。それにしても、奏者の思念が強くなければ聴衆との共鳴性を奏でることは不可能だろう。あの四重奏の奏者達にそれがあったかどうか……」。
綾乃と里香の後姿
倉科の持っている当時の記憶及び近頃のネットから得られた情報はこの程度だ。二人の連続死を関連付ける事項は何一つ思い当たらなかった。
なぜ綾乃は、二人の死を憔悴するほど悼んで、落ち込んでいるのだろうか? 他人の目から見ても心配するくらい…。肉親の死去なら頷けるが、他に何かがあるのだろうか……。
(おいおい。お前は何を考えているのだ? 何かあったとしても、今のお前には関係のないことだろう)
倉科は、考えるのをやめて、現実に戻り、そして、何気なく、
「次はアイツの番だったりしてね」
冗談のつもりだったが、里香の表情が険しくなり、
「ひどいっ! 何てこと言うの!」
聞きつけた大林が、大げさに体を揺するようにして揶揄した。
「倉さん、ひどーい」
里香と一緒になって、倉科をなじり始めた。酔いがまわってきたのか、大林は“冷血漢” “愛を信じない不幸な人間” “くそリアリスト”とか脈絡のない批判を倉科に投げかけ、それが結構、里香に受けたのか、二人の会話が弾んでいた。
閉店間際、里香が会計のため席を立った。その後ろ姿に倉科は、ハッと息をのんだ。
(似ている! そっくりだ。綾乃に…)
倉科の記憶に残っている里香の最後の姿だった。
回想を巡らしている倉科にえもいわれぬ感覚が走った。
(綾乃に関連する二人の連続死……。何かあったのかなぁ…?)
記憶の連鎖が始まった。福岡のチェリストは榊江利子。名古屋のバイオリニストは鈴木正恵、どちらも裕福な資産家の娘。事故死した方は実家の裕福さを鼻にかけた高慢ちきなお嬢さん。自殺した女性は、よく喋り活動的な感じで、自殺とは縁遠いような印象だった。ビオラは小田貴子…」日本人離れした、ハリウッド女優顔負けのような凄い美人だった。更に記憶を辿れば、彼女達、音大生の実体像が浮かんできた。
「卒業してオーケストラに入るのは、とても難しいの。だから中学か高校で音楽の先生になるのが普通なのよ。でも、それもなかなか大変なの」
綾乃は常々、ぼやいていた。
「普通に企業へ就職すればいいのに」
「一般就職なんてまっぴらよ!」
綾乃が、顔をしかめた。音大卒業生は、通常の企業へ就職することを『一般就職』と言って嫌うようだった。
結局、裕福なお嬢さんたち四人は、音大卒業後も、大学院もしくは専門課程に通いながら、鈴木正恵が実家のコネで見つけてきた四谷の一角にある音楽事務所と契約を結び、BFF(ビューティフル・フオー・フラワー)とのユニット名で四重奏の演奏活動を続けた。演奏会のチケットは彼女達の両親が関係する企業、団体が義理で購入していたようだ。生活のことを考えないまさにお嬢様芸とでも言おうか。良縁が見つかって結婚に至るまでの腰かけとしての演奏活動。
倉科も何度か義理で四重奏の演奏会に付き合ったが、音楽、特にクラシックに全く素養が無いので、眠気を催すばかりだった。その頃、何かの本で、西洋古典音楽を理解するには、まず、我慢して何度も何度も聞くことだと、戦前にドイツ留学したことのある老法学博士が述べていたことを見付け、俺には無理だな、我慢までして聞かなければならないんじゃ……」と諦めたことを思い出した。
しかし、単なる騒音と感じたり、眠気を催したりするのは、奏者の思い即ち思念が聴衆である倉科に伝わって来ないことを意味していると理解できたのはつい最近だ。かの孔子様は「音楽は文字や言葉より強く思いを伝える」として音楽の効用性を認め、その共鳴性を論じている。老法学博士の言う「我慢」とは共鳴性を感応するための準備期間に違いない。それにしても、奏者の思念が強くなければ聴衆との共鳴性を奏でることは不可能だろう。あの四重奏の奏者達にそれがあったかどうか……」。
綾乃と里香の後姿
倉科の持っている当時の記憶及び近頃のネットから得られた情報はこの程度だ。二人の連続死を関連付ける事項は何一つ思い当たらなかった。
なぜ綾乃は、二人の死を憔悴するほど悼んで、落ち込んでいるのだろうか? 他人の目から見ても心配するくらい…。肉親の死去なら頷けるが、他に何かがあるのだろうか……。
(おいおい。お前は何を考えているのだ? 何かあったとしても、今のお前には関係のないことだろう)
倉科は、考えるのをやめて、現実に戻り、そして、何気なく、
「次はアイツの番だったりしてね」
冗談のつもりだったが、里香の表情が険しくなり、
「ひどいっ! 何てこと言うの!」
聞きつけた大林が、大げさに体を揺するようにして揶揄した。
「倉さん、ひどーい」
里香と一緒になって、倉科をなじり始めた。酔いがまわってきたのか、大林は“冷血漢” “愛を信じない不幸な人間” “くそリアリスト”とか脈絡のない批判を倉科に投げかけ、それが結構、里香に受けたのか、二人の会話が弾んでいた。
閉店間際、里香が会計のため席を立った。その後ろ姿に倉科は、ハッと息をのんだ。
(似ている! そっくりだ。綾乃に…)
倉科の記憶に残っている里香の最後の姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる