四重奏連続殺人事件

エノサンサン

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四重奏連続殺人事件

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九州調査の準備

倉科は博多出張の前日、自宅の事務所兼居間から綾乃に電話をした。是非とも、榊江利子の妹、玲子さんと連絡をつけてもらいたかった。
「妹の玲子さんに会って話を聞きたいのだけど、連絡してもらえるかな? もし、面倒なら電話番号を教えてくれないか、直接電話するから」
「駄目よ。直接電話なんかしたら、びっくりするわよ。それに、他人に玲子ちゃんの電話番号を教えるなんて」
 厳しいことを言っている割に、声のトーンは普通だ.御機嫌は麗しいようだ。しかし、『他人』とは……。そうだ、俺は他人に過ぎないのだ。判っているけど、綾乃の口から何のためらいもなく『他人』と言われると、一抹の寂しさを覚えてしまう。倉科は他人としての地位をわきまえた言葉遣いで要望を伝えた。
 「それでは、貴女から連絡して戴けるでしょうか? 今週の金曜日午後四時、博多駅前にあるNホテルのロビーでお会いしたい旨を。できれば、江利子さんの恋人だった方もお連れ願えれば有り難いのですが……」
 倉科の他人行儀な話し方に戸惑ったのか、少し沈黙があった。
 「分かったわ。それで、玲子ちゃんに何て言えばいいの? 知り合いの探偵が会いたいからって言うの?」
「うーん。それはそうですね。変に誤解されても困るから、ここは正直に理由を話したほうがよいでしょう。鈴木正恵さんの父親から依頼されて、江利子さんとの関係を調べているとでも伝えてください」
綾乃はトンチンカンなことを詰問口調で、
「二人の関係? 何なの? まるで二人が悪いことでもしていたみたいじゃない?」
探偵が出てくると、何か悪いこと、不道徳な行動を連想してしまうのだろうか? 何年間か交際していた綾乃ですらこの調子だ……。世間一般の探偵に対する評価は推して知るべし。
「お父さんが、正恵さんの全てについて、知りたがっていて、関係があった皆さんから事情を伺っている、とでも説明してください。変に思われないように上手に話して戴けますか? 親友二人の死について新たな事実を掴むためですので、宜しく」
このように話しながら、倉科は聞き込みの実施方法を組み立てていた。雇用調査、結婚調査等の聞き込みは、第三者から情報を収集ので、不審がられないように、もっともらしい理由をつけたシナリオの作成が重要となる。今回は親族に対してなので、変な理由づけは不要であろうと思われた。倉科は綾乃が榊玲子に上手く説明してくれることを期待して受話器を置いた。
綾乃から連絡があったのは、羽田空港に向かう電車の中だった。倉科の胸ポケットから大音量でワーグナー「ニュールンベルクのマイスタージンガー」が始まった。最近、倉科はこの楽曲が気に入りで、呼び出し音に選択したのだが、音量調節までは上手くいっていなかったようだ。周囲の目を気にしながら、スマホに耳を傾けると、綾乃は、榊玲子と江利子の元恋人が、倉科と会うことを承諾した旨を伝えた。「了解」とだけ答えて、そそくさとスマホを胸ポケットに戻した。車内マナーを大切に。良き探偵は良き社会人たらねばならない。
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