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第三章

68.

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✴︎
「では、仕返ししませんか?」
「仕返し?」
「そうです。勇者の箔を今持っているのは、戦士なのでしょう?なら、戦士を殺して、自分が勇者だと名をあげれば、そう一度勇者に戻れるのでは、ありませんか?」
「いや、しかし、こうやって戦士は、生かしてくれた。だから、戦士を殺すわけには……」
 そう言っていると、
「あなたは、勇者でしょうっ!なぜそこまで考える必要があるのです?なぜ律儀である必要があるのです?魔物を殺すことに対しては、なんの罪悪感も抱かないあなたが、戦士を殺すことには、罪悪感を抱くのですか?なぜ抱くのですか?同じように魔獣、魔物、魔族を殺す時にあなたは、抱いていると言えますか?言えませんよね?なのに、なんで人間を殺す時だけ抱くのですか?私が、私が、いったいどれだけの思いで、魔物の世話をしていたと思っているのです。こんな愛くるしい目をしていて、可愛らしい舌を持っている魔物をあなたは、切り刻んでいたのですよ?なら、あんな憎たらしい人間なんて、殺して仕舞えばいいでは、ないですかっ!可愛いものが簡単に殺せるなら、可愛くないものなんて、楽勝でしょ?」
 わからない人間は、心の中に言葉を入れていく。
 消えない。
 消せない。
 そんな言葉を。
 憎いと言う言葉を。
 そして、勇者は、
「殺したい。だから、姿を見せて、力を貸してくれ」
 そう、その人に頼み込むのだった。
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