霞の森の魔女

焼魚圭

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霞の森

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 ふたりで味わう普通で特別な昼ごはんの後、森を再び歩き始める。リリアンヌの不安に対する感情は奥へと進むほどに強く濃くなっていく。向かっている方向は分からずとも、駅にいる時と比べてみれば確実にあの霧へ、電車の中から見た恐怖へと近付いていることは間違いないのだから。
 歩き進み深く暗く、やがて森の澄んだ空気に微かに湿った白が混ざり始める。
-あぁ、やはり-
 それは景色を白く染め上げてしまうほどに深い霞。辺りを見渡すことすら許さない霞は視界だけでなく冷静な心すら奪い取って隠してしまう。
-このままだと……迷う-
 隣りで辺りを見渡して見渡し切れない景色を見ようと頑張るアーシャの手を握って、アーシャの瞳を覗き込みながら指示を出す。
「戻ろう、来た道を戻るだけ……きっと出来る」
「でも、魔女たちに研究を」
「ここは危ない」
 恐怖心だけが突き出す言葉、その声には何処かトゲがあった。ただの恐怖からの余裕の無さ、強い声から出る弱い言葉。
 アーシャはそれを知ってか知らずか頷いて、ふたりは引き返して行く。走り、駆け、進んで戻る。しかし、その足が踏むものはいつまで経っても変わらぬ土と草の感触。
「迷った!」
 リリアンヌは暗い物の広がる心で、恐怖に脚を震わせながらも、辺りを見渡していく。視界に広がる景色はどこまでも広がる白によって支配されていた。霞の不思議な力の成したことなのか、それとも方向感覚が狂ってしまっただけなのか、来た道を戻っていたはずのふたりは進めど走れど元の場所へと帰ることなど叶わない。
 いつまでも抜け出せないリリアンヌたちはまるで霞に喰われてしまったよう。
 しばらく走っていたふたりはめのまえに黒い影の姿を捉えて立ち止まる。見える黒い影は次第に大きくなっていく。近付いて来ているのだ。朧気だった姿はやがてくっきりとはっきりと形を見せ始める。硬そうな茶色の身体、4本の足を持つ獣、脚や背中からは細い枝のようなものが伸びていて、尻尾は蛇の形をしていた。
「何だ」
 驚き慌てて後ろを振り返ろうとしたリリアンヌだったが、隣りに立つ少女、アーシャは獣と睨み合いながらポケットから手袋を取り出していた。それを手にはめて試験管を取り出す。
「私の研究成果……本当はもっと平和の為に使いたかったんだけど、今回は平和にたどり着く為の架け橋にするね」
 試験管から取り出したもの、それは青い輝きを放つ鉱物。その光は白い霞を引き裂きその鋭さはリリアンヌの視界を焼いていく。眩しい残像はリリアンヌの目に残り続けた。
「魔界鉱物。魔力を受けて爆発を繰り返す『輝く石』だよ。発電のためのエネルギーを生み出したり病に侵された細胞を焼けるんじゃないかって注目されてるの」
 青白く鋭い輝きに獣は目を伏せて縮んでいた。アーシャは走り、獣をその輝きで斬り裂いた。獣は植物の姿となり、朽ち果てた。そしてふたりは白い霞に覆われて、殆ど見えないその辺りを見回しながら耳を澄ましていて、気がついてしまった。

 白い霞の中、常に不気味な笑い声が響いていることに。
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