破壊の創造

焼魚圭

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最後の戦い

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 夜空の下、二人の少年は寝転がり疲れに身を任せていた。
「終わりましたね」
「やったよ、これでめでたしってことだ」
 輝く星空はどのような正座を描いているのだろうか、二人共に分からない。しかし、そうした星たちにも神話や占いといった様々なオカルトを、魔法の親戚のような分野を描いた人物たちがいることだけは分かっていた。
「この星空たちを結んでこれまでの勝利までの記憶でも思い描いてみようか」
 特に考えることも無しに展開されたものなのだろう。ただただ星の瞬く夜空を落書き帳だと思い込んでいるだけの種族の発言に過ぎなかった。
「いいですよ、ですけど」
 一つ、徐宇には疑問となる点が存在していた。
「ジョーの降臨をどうやって止めたのか思い出せないんです」
 記憶の中に装填されていない。降臨の儀式そのものが嘘だったかのように記憶から綺麗さっぱり消え去ってしまっていた。
「不思議だね、実は俺も」
 寒斗の記憶にすら無いということはジョーの方から何かを仕掛けられたのかも知れない。もしくは覚えていられないほどに必死だったとでも思えるだろうか。
 空っぽの記憶からは呼び起こすことの出来るものなど何もない。故に幾つでも想像の星を瞬かせることは出来た。
 思い出すことの叶わないものはともかく、周辺の記憶だけでも取りだそうと思考、脳、身体に刻まれた感覚を駆け巡らせて空を彩っていく。
 寒斗もまた同じように思い出しているのだろうか、それともまた異なる感覚で引き出しているのだろうか。
 それでも思い出すことに大きく変わりは無いと言うこと、それを心に留めながら二人して語り合う。


  ☆


 寒斗が投げ飛ばされた後、残された徐宇に教師は歩み寄る。向けられる手招きにより徐宇の身体は否応なしに引き寄せられる。
「なんだよ……これ」
 徐宇の身体は相手の意のままなのだろうか。教師は大人の面でしっかりと徐宇の瞳を覗き込む。
「純粋な男だ」
 そんな言葉の裏にはどのような感情が隠されているのだろう、考える前に教師の言葉が答えを報せていた。
「大人になってもそれを保っていればさぞ気持ち悪いことだろう」
 飽くまでも人としてしか見ていないようだ。人間という名の供物、意のままに命を呼び出すための人間という名の家畜。
「殺しても構わないが、ジョー様のお身体だ」
 出来る限り傷つけたくないのだろう。それこそ大切な人の材料なのだから。
「お前など所詮は創られた命でしかない、それを把握してその身捧げよ」
「いやだ」
 好き放題に言ってくれる人物、彼の思い通りにさせるつもりなど毛頭無かった。
「俺の命は俺のものだ、デザインがどうとか知らねえな」
 徐宇が構えを取る。それと共に教師もまた、チョークを構えて板に擦りつけるように文字を書き始めた。
 それを止めるべく走り出したものの、確かにずっと動いているはずだったものの、徐宇は追いつくことが出来ない。立ち止まっているはずの男に指一本触れられない。
「数学術式」
「術式破壊を創造、早々に消えてくれ」
 そんな軽い口を動かして薄っぺらな言葉一つを放り込むだけで術式を破るに至る。
「なんだと」
 そこから迫る男子高校生、構えた拳は教師のほうへと向かっていく。
 しかしながら教師の方も出来の悪い生徒の思いのままに行かせるつもりはなかった。
 板を更に取り出して綴られた公式を展開する。
「禁則を設ける、貴方の魔法の使用は禁じられた」
 魔法封じ、いかに自在な創造の能力を持っていたところでそれを使うことすら許さないという形であれば対抗も出来ない。
「おれは魔法以外にも持ってんだ」
 魔力を纏わせた拳を振り上げる。
「魔力の爆発反応か」
 新しい板を徐宇に向けて。
 ただそれだけのこと。
 それだけで徐宇の足は滑り視界は地と接していた。
「これで何も出来ることは無いだろう」
 そう述べて教師が寄って来る。このままでは死の体験学習、地獄への社会科見学、死の世界の職業体験からの就職が決まってしまう。
 動こうにもなぜだか身動きの一つも取ることが出来ない。それこそがこの教師が板に綴った数式を現実に変える魔法なのだろうか。
「その身体を、ジョー様に」
 歩み寄る、堂々と確実に、徐宇を殺す者が願望の為に動いていた。
――流石にもう無理か
 悟ってしまった。このまま突き進んだところでもう助かることはない。抵抗の一つも為し得ない身体で生存の継続を成し得ることなど無いのだ。
 そうして全てを諦めようとしたその時のことだった。
 突然教師のネクタイが切れて風に流され行く。
 咄嗟の出来事に気を取られて足を止めた教師へと迫る何かがそこにはあった。
「させるか」
 その声の音源は屋上から落ちたはずではなかっただろうか。
 考える暇も与えるまでも無く教師の足首に足を引っ掛け見事なまでに動きの大きな転倒を作り上げる。
「先輩」
 徐宇が呼んだ相手が今まさにそこに立っていた。いつになく得意げな笑みは感情の余裕を剥がされたようにも見えてしまう。
「救出の創造、からの駆け上がり、大変だったよ」
 二人が整え向けた視線の先、よろめきながら立ち上がる教師は手の甲にミントグリーンの幾何学模様を描いていた。
「一時降臨、この身を生け贄にしてでもだ」
 教師は果たして人生そのものの教師と呼べる程に立派なものだっただろうか、少なくとも徐宇の目にはそう映ることは無い。
「ジョー様が降臨なされば我が身も大切な人も再び生の道を歩むことが叶う」
 点を仰ぎ妄言としか思えない言葉を吐く人物の滑稽な姿。そんな異様な様子を見ながら寒斗は大きなため息をついて徐宇と目を合わせる。
「どれだけ執着してるんだろうな」
「そういう宗教なんですよ」
「だから流行らないんだ」
 再び目を向けたそこには既に教師の姿はなく、代わりに形を持っているようないないような、そんな曖昧な何かが在った。
「あれを倒せば良いんだな」
「勝利を創造します」
「もちろん、相手の計画の破壊も創造してやるとも」
 二人は各々に戦闘手段に誇りを携えて構える。
「行こう、しっかりとついて来るんだ」
「先輩こそ、人生から落とされないで下さい」
 交わし合う言葉を合図に二人は決死の覚悟で走り出した。
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