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続脱出
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そこは閉ざされた世界、結界と世界の境界線の闇、何も見通すことの出来ない純粋なる黒に不純なる存在が入り込んでしまったが為だろうか。闇は弱みたるんで柔らかな色を現わし始めた。
この世界は果たして何があるというのだろう。見渡す限り何もないという何かを認識するような矛盾した空間。
境界の理解への道のりは果てしなく遠く、必要のない今は考えることさえ投げ捨ててしまう程のものだった。
そんな得体の知れない場所で立っているのか進んでいるのか、座っているのか止まっているのか一切理解できない彼らは異様な感覚に震えては震えの実感のなさに更に怯えるという無限に広がる気持ち悪さを味わう羽目を受けていた。
「ここに」
「ええ、居るはず、引きこもりやってると思う」
途端に墨を想わせる黒が目の前に現れた。ぬるぬるとうねるように動き、思考も存在の理由も姿形も何も分からない何者か。
「動かなきゃ何も変わらない、変えられない」
「ちょっ、霧葉」
ペーパーナイフを振り、何者かに叩きつけるように振り下ろす。それは何もかもを切った、そう確信していた霧葉は目の前にて突き付けられた現実に驚愕の想いを示し始めた。
ペーパーナイフは見事に受け止められ、黒い身体はそれを包み込もうと触手を伸ばし始める。
目を震わせて固まる霧葉の手を素早くつかみ味雲はその身体を回収して触手をお揃いのペーパーナイフで打ち払う。
伸びる触手、晴香の姿を持ったネコはその一本一本に宿る禍々しさに身を震わせながら天音にしがみつこうとするものの、キヌがそれを阻止して抱き締める。
甘菜はいつの間に取り出したのだろうか、その手に持っている卒塔婆を振り回して触手たちを叩き除けては行くものの、一切傷を負わせることが叶わないことを確認して天音に声を掛ける。
「アレ、何よ」
その問いかけは天音の口から何を引き出すことが出来ただろう。
「分からない、アタシが敗れたなにか」
一度は世界で対面した天音にもその正体はつかめていないという現状。打破する手段はないものだろうか。
触手はただひたすら霧葉たちを狙ってはその手を振り回す。この黒々とした物体の蔓延る状況、闇だった場所に改めて闇を蔓延らせる存在を睨み付けて味雲は訊ねた。
「この境界、姉貴なら壊せるんじゃないか」
このままではきっと全員が敗れてしまうのみ、命尽きるその時まであの結界の中に閉じ込められるかこの場で命尽き果てるか。それはけっして迎えてはならない最悪の結末だった。
「姉貴が張った結界の境界線。怪異は絡みついていてもどこかに綻びがあるはずだ」
天音はうねる存在を見つめ、その目を素早く他へと移す。当然のように別の場所へ、やがては後ろへと振り返り、口を開きながら歩み始めた。
「境界の向こう、結界に繋がるはずだったあの道の向こうに今広がる空間」
進んで、歩んで、一歩二歩三歩。
突然天音の姿が全ての人々の目から消え去った。向こうに何があるというのだろう。今は天音を信じて事を進める他ない。彼女のことを信じて霧葉は左手に、味雲は右手に。お揃いのペーパーナイフを握りしめる。
途端の出来事だった。これまで何ひとつ分からない、不明の塊を演じ切っていた何かが小刻みに震え始めた。濁り切っていて分からない、綺麗な理解にまではたどり着かせない。しかしながら色のついた情を感じさせた初めての行動だった。
それから数字を刻むだけの時を与えずして動き始めた。
触手は無秩序に暴れ、周囲を、無をも叩きつけて全てを生かさぬとばかりに境界を蝕み始めた。その動きの中にどこか苦しさを、恐怖を感じている様を見て取って味雲と霧葉は動きを揃えてペーパーナイフを振り回す。
甘菜の卒塔婆は数多の触手に飲まれ、キヌは妖術を散らしながら宇歌を守りながら相手の姿を、全容を探りながら見えないモノにもどかしさを覚えていた。
それからどれだけの時が経っただろう。
うねる闇の背景となっていた境界は薄れながら割れて行く。
この場に残るすべての者を出迎えたのは澄んだ青空、天音もまたそこに立っていて、太陽の輝きを浴びていた。
「ここは……世界に戻った」
しかしながら味雲は事実をその目で捉えていた。結界から人々を世界に戻せば終わりなどと言う単純な幕引きではないという事実を。
目の前に広がる景色の中に混ざる異物、得体の知れない何かは知れたなにかへと姿を変えていた。
闇の触手だと思っていたそれは地面につくほどに伸びた黒い髪、猫背の女は歪み切った口から呪詛を吐いてただただすべてに対しての恨みを吐き続けていた。
一方で味雲たちの側には更にもうひとり、オリーブ色の服を纏った女がうねる黄金の髪を風に流しながら立っていた。鋭い目で晴香の姿を見つめて勢いよく声を響かせた。
「救急!」
その声に込められた情は真剣そのもの。言の葉に逆らう者ことなく合わせて動き出す人々、全員が揃いも揃って整えた服を纏い、素早く駆け寄って地に倒れている晴香を抱え、赤と白に塗られた大きな車の中へと運び込んで行く。
「はて、人々の恨みを集めし陰気の塊よ、アンタらには敵わない純度で葬り去って見せよう」
パイプに口を当て、煙を吸って哀れなる影を睨み付けて煙を吐いた。
その瞬間、水色の髪の少女が飛び込んだ。新たなる刺客は自らの力を練り、背を伸ばして杖を持ち、緑がかったドレスを華麗に躍らせながら杖を振る。
注がれた輝きは青空に透き通り、太陽に溶け込み降り注ぐ。そこからは一瞬だった。
影は消え去っていた。誰が見るまでもなく前触れのひとつもその目に認めることを認めないままに痕跡まで残さずに消し去っていた。
残された人々はようやくひと息つくことを許されたようだった。
それから数日後、白くて粗末な着物を身に着けた女が紫色のリボンで髪を結んだ若い女と歩いていた。ふたりの笑顔は紛れもない本物で、ようやく何もかもがめでたく終わったのだと味雲は霧葉と向き合って微笑んで見せた。
この世界は果たして何があるというのだろう。見渡す限り何もないという何かを認識するような矛盾した空間。
境界の理解への道のりは果てしなく遠く、必要のない今は考えることさえ投げ捨ててしまう程のものだった。
そんな得体の知れない場所で立っているのか進んでいるのか、座っているのか止まっているのか一切理解できない彼らは異様な感覚に震えては震えの実感のなさに更に怯えるという無限に広がる気持ち悪さを味わう羽目を受けていた。
「ここに」
「ええ、居るはず、引きこもりやってると思う」
途端に墨を想わせる黒が目の前に現れた。ぬるぬるとうねるように動き、思考も存在の理由も姿形も何も分からない何者か。
「動かなきゃ何も変わらない、変えられない」
「ちょっ、霧葉」
ペーパーナイフを振り、何者かに叩きつけるように振り下ろす。それは何もかもを切った、そう確信していた霧葉は目の前にて突き付けられた現実に驚愕の想いを示し始めた。
ペーパーナイフは見事に受け止められ、黒い身体はそれを包み込もうと触手を伸ばし始める。
目を震わせて固まる霧葉の手を素早くつかみ味雲はその身体を回収して触手をお揃いのペーパーナイフで打ち払う。
伸びる触手、晴香の姿を持ったネコはその一本一本に宿る禍々しさに身を震わせながら天音にしがみつこうとするものの、キヌがそれを阻止して抱き締める。
甘菜はいつの間に取り出したのだろうか、その手に持っている卒塔婆を振り回して触手たちを叩き除けては行くものの、一切傷を負わせることが叶わないことを確認して天音に声を掛ける。
「アレ、何よ」
その問いかけは天音の口から何を引き出すことが出来ただろう。
「分からない、アタシが敗れたなにか」
一度は世界で対面した天音にもその正体はつかめていないという現状。打破する手段はないものだろうか。
触手はただひたすら霧葉たちを狙ってはその手を振り回す。この黒々とした物体の蔓延る状況、闇だった場所に改めて闇を蔓延らせる存在を睨み付けて味雲は訊ねた。
「この境界、姉貴なら壊せるんじゃないか」
このままではきっと全員が敗れてしまうのみ、命尽きるその時まであの結界の中に閉じ込められるかこの場で命尽き果てるか。それはけっして迎えてはならない最悪の結末だった。
「姉貴が張った結界の境界線。怪異は絡みついていてもどこかに綻びがあるはずだ」
天音はうねる存在を見つめ、その目を素早く他へと移す。当然のように別の場所へ、やがては後ろへと振り返り、口を開きながら歩み始めた。
「境界の向こう、結界に繋がるはずだったあの道の向こうに今広がる空間」
進んで、歩んで、一歩二歩三歩。
突然天音の姿が全ての人々の目から消え去った。向こうに何があるというのだろう。今は天音を信じて事を進める他ない。彼女のことを信じて霧葉は左手に、味雲は右手に。お揃いのペーパーナイフを握りしめる。
途端の出来事だった。これまで何ひとつ分からない、不明の塊を演じ切っていた何かが小刻みに震え始めた。濁り切っていて分からない、綺麗な理解にまではたどり着かせない。しかしながら色のついた情を感じさせた初めての行動だった。
それから数字を刻むだけの時を与えずして動き始めた。
触手は無秩序に暴れ、周囲を、無をも叩きつけて全てを生かさぬとばかりに境界を蝕み始めた。その動きの中にどこか苦しさを、恐怖を感じている様を見て取って味雲と霧葉は動きを揃えてペーパーナイフを振り回す。
甘菜の卒塔婆は数多の触手に飲まれ、キヌは妖術を散らしながら宇歌を守りながら相手の姿を、全容を探りながら見えないモノにもどかしさを覚えていた。
それからどれだけの時が経っただろう。
うねる闇の背景となっていた境界は薄れながら割れて行く。
この場に残るすべての者を出迎えたのは澄んだ青空、天音もまたそこに立っていて、太陽の輝きを浴びていた。
「ここは……世界に戻った」
しかしながら味雲は事実をその目で捉えていた。結界から人々を世界に戻せば終わりなどと言う単純な幕引きではないという事実を。
目の前に広がる景色の中に混ざる異物、得体の知れない何かは知れたなにかへと姿を変えていた。
闇の触手だと思っていたそれは地面につくほどに伸びた黒い髪、猫背の女は歪み切った口から呪詛を吐いてただただすべてに対しての恨みを吐き続けていた。
一方で味雲たちの側には更にもうひとり、オリーブ色の服を纏った女がうねる黄金の髪を風に流しながら立っていた。鋭い目で晴香の姿を見つめて勢いよく声を響かせた。
「救急!」
その声に込められた情は真剣そのもの。言の葉に逆らう者ことなく合わせて動き出す人々、全員が揃いも揃って整えた服を纏い、素早く駆け寄って地に倒れている晴香を抱え、赤と白に塗られた大きな車の中へと運び込んで行く。
「はて、人々の恨みを集めし陰気の塊よ、アンタらには敵わない純度で葬り去って見せよう」
パイプに口を当て、煙を吸って哀れなる影を睨み付けて煙を吐いた。
その瞬間、水色の髪の少女が飛び込んだ。新たなる刺客は自らの力を練り、背を伸ばして杖を持ち、緑がかったドレスを華麗に躍らせながら杖を振る。
注がれた輝きは青空に透き通り、太陽に溶け込み降り注ぐ。そこからは一瞬だった。
影は消え去っていた。誰が見るまでもなく前触れのひとつもその目に認めることを認めないままに痕跡まで残さずに消し去っていた。
残された人々はようやくひと息つくことを許されたようだった。
それから数日後、白くて粗末な着物を身に着けた女が紫色のリボンで髪を結んだ若い女と歩いていた。ふたりの笑顔は紛れもない本物で、ようやく何もかもがめでたく終わったのだと味雲は霧葉と向き合って微笑んで見せた。
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