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始まり

一真、オペレーション・エクスキューション!

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 ビニール傘を持って走り始めた一真。腕に巻かれた時計の針が示す時間は23時57分。床を踏み進む一真は呪いの罠を身に受けながら傘を振り下ろした。
『当たらずの呪い』
 振り下ろした傘は将輝を避けて床を裂いていた。
「さて、終わりにするか」
 将輝の手に握られてたそれはこの前のものと同じ禍々しい大剣。しかし一真はこの前のものよりも危ない事を渦巻く気配から見て取った。
「この前のより禍々しいな」
「分かるなら嬉しいぜ、何せお前の傘を壊せるように練り直したからな」
 振るわれる大剣、それは空間をも斬るように禍々しく鋭い気配を撒き散らしていた。一真は遠ざかって将輝を睨みつける。
「睨んでるだけじゃお前の後ろの荷物が死ぬぜ。あっ、そうか。あんなのが死んでも関係ないか」
 将輝を睨みつける瞳に憎しみや殺意が籠り、感情は穢れた濁りだけで満たされ汚れで真っ白な真っ黒に見えた。
「よくも俺の好きな人をバカにしてくれたな」
 そんな無駄な時間は那雪にかけられた呪いの執行の時までの猶予を削っていた。
「3、2、1、はい死亡」
 そう高らかに告げた将輝だったが、その瞳に映る那雪の姿はどう見ても生きて立っていた。
「何故だ」
 その隙を逃すまいと一真は将輝に突撃した。
「貴様何をした」
「なゆきちのおまじないさ。呪いと同じ呪の字を使うのに不思議だよな」
 あの夜に那雪が一真にかけた呪い、その力によって一真が死なない限りは那雪は生きている。那雪の呪いが死の呪いに押し負けるのは時間の問題な事は一真も分かっていた。故にこう叫ぶのであった。
「延長戦が終わる前に叩き潰す!」
 那雪の方に目線を向けながらも突撃する一真を大剣が狙い落ちる。それをどうにか躱し後ろへ回り込んだその時、那雪の身体が半透明に透き通る。
『狙撃』
 一真の耳に届いた床からの攻撃の音。飛び退いて回避して一真は壁を蹴って天井を蹴って傘を振り下ろす。その時には那雪の身体の色は元に戻っていた。
ーなゆきちの命は俺の行動にかかってるー
心にそれを刻み付け、想いと共に振り下ろされた傘であったが大剣によって受け止められて一真の身体は壁に飛ばされ叩きつけられた。
「バカめ」
『砲撃』
 左手を突き出してそう唱えた将輝。その左手に禍々しい闇が生成され、闇は大きくなっていく。
「さあ、2人とも終わりだ」
 ほくそ笑んだ将輝の手から闇の光線が放たれようとしたその時、闇は爆ぜた。己の意も介さぬ謎の暴発に将輝はただ目を丸くしていた。
「ぐあっ! 何故だ」
 一真は尻ポケットに入っている携帯電話が震えるのを感じた。
「街はもうお前の爆弾じゃねえぞ。もう終わりだ」
 一真は将輝の顔面めがけて傘を振った。しかし将輝もタダでは死なぬぞとばかりに脆くなりそして朽ちて崩れ行く大剣で受け止めた。打ち合った2振りの剣は共に砕けて地に転がる。一真は手に残った傘の
持ち手を放り捨てて将輝の顔面を素早く殴り付けた。その衝撃によろめき顔を顰めて姿勢を崩した将輝に続けて回し蹴りをお見舞いする。その足が捕らえて痛みを与えたその顔から飛ばされて地へと倒れたのであった。
「終わった、なゆきち、これで助かったんだ」
 那雪は一真に駆け寄ってしがみついて怯えを露わにしたのであった。
「怖かったよ、もう死ぬかと思った。一真……ありがと」
 一真は窓の外の景色を指した。
「見てみてよ、これが今なゆきちが生きてる世界だ」
 那雪が眼鏡越しに見たその景色は少しばかり明るい闇空に散りばめられた輝きたちがそれぞれに生きていることを叫ぶような、そんな世界だった。
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