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ホムンクルス計画

綾香と悠菜

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 月の輝く夜の中、少女はふたりで歩いていた。
「えへへ、ゆうなは今日も月よりも輝いてる」
「綾香こそ可愛いよ、性格が月より明るいの、綾香くらいだから」
 綾香は踊りながら歩道の線をはみ出し歩いていた。上機嫌な少女、天草 綾香と大人しく美しい少女、荒尾 悠菜は今日も仲良しこよし、本来はいけない夜のお出かけをしていた。
「ゆうな、わたしこんなに踊れるんだよ。月夜の下で踊る美女と大人しく花のように可愛い乙女、いいよね」
「綾香、私が可愛いって本当に思ってる?」
 綾香は白線に立ち、指を振りながら答えた。
「ノン、ノン、ノンフィクション、ホントのホントでホンキのホンキ」
「危ない!」
 普段から聞くことのないその叫び声。
 叫び声の主は綾香を道路の端へと投げつけたのであった。
 綾香は驚き目を白黒させるも、次に見た光景に更に驚くのであった。
 それはトラックの直進。愛する存在がきっとそのトラックに撥ねられて綾香の代わりに生命を落とすのであろう。
「させない」
 その言葉を放った綾香の服は青白い炎によって燃え上がる。燃え盛りし炎が消えたそこにあったのは和服のそで。
 炎は完全に消えて、綾香が纏っていたのは月下に薄らと輝く美しき和服。髪には大きな花のかんざしが刺さっており、綾香の姿はとても美しかった。
 綾香はトラックに撥ねられた悠菜の姿を見つけて手を胸に当てる。
「待ってて! 絶対に助けるから 」
 綾香の両手は薄らと燃え上がる青い炎がまとわりついていた。
 その手は悠菜の身体に当てられ、綾香は魂が出て行かないようにその身体と魂をただただ縛り付けて救急車を呼びそれを待つだけ。
 それまではただひたすら身体と魂を縛り続けているのであった。
 それが、天草 綾香〈亡霊の魔女〉の力の1部であるのだ。
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