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風使いと〈斬撃の巫女〉

止める意味

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 図書館にて、刹菜は薄暗いそこに薄明るい天使を前に分厚い本を手にして天使の攻撃たちを避け続けていた。
「ここに残る意味は?」
 天使の問い。
「別に全員でいなくなれば良かったんじゃない」
 その問いに対して刹菜は相変わらずの激しいニヤけを浮かべる。
「外に出さないためさ。外に出たら外の魔法使いが知ってる魔法、全部猿真似出来るんだろう?」
 天使は首を縦に振りつつ言った。
「魂胆は知られていたようね」
 世界中の外にいる魔法使いの知る魔法が全て使える、つまり、外に出たらほぼ無敵である。
 そんな天使は続けた。
「私は本が好きだから出来ればここにいたいけど悪魔憑きを呼ぶというなら」
 光弾、闇の渦、風の刃。全て総て躱して刹菜は魔導書のあるページを開く。
 すると、レーザー光線が放たれて刹菜が指を振るとその方向へと進んでいく。
 その部分は焼き払われて、焦げた本、壊れた棚、床にばらまかれた大量の本。
 更にページを進め、激しい炎を操り刹菜が持つもの以外の全ての本を灰に変えていく。

 一冊、二冊、十冊、百冊、千冊と燃やされていく。

 千冊、百冊、十冊、二冊、一冊と灰に変えられていく。

 刹菜の作戦、知識の削減。
「カンペが無きゃ点数取れないなら魔法使いとしては0点、落第だな」
 得意気な顔とニヤけが混ざり天使の感情を揺さぶる。振れた方向は当然怒り。
「殺す」
 左に伸びる片翼は先が黒く染まり濁り始めていた。
「そう……やはりこの世界は毒。飲まれる前に殺さなきゃ」
「私がイラつくから殺すの間違いじゃないのか? 自分の感情も分からないなんてやっぱ天使は私たちとは違うな」
 軽口を叩く刹菜を叩くように飛んで来て頬を掠めた氷の礫。
 頬を掠めただけな理由、それは紛れもなく刹菜が躱したからに他ならない。
「知識を減らしても私から抜き取るか。記憶を覗かないでエッチ、スケベ、変態!」
 余裕を見せる刹菜に対して大量の氷が飛んで来る。
 刹菜は跳んで壁を走る。
 氷は刹菜を追うように壁に刺さり行く氷たち。それはまるで刹菜の足跡のよう。
「知識は盗めても戦い方は盗めない……チェックメイトだな、嘘だけど」
 薄暗い明かりによって暗く薄らと輝く氷たちはついに刹菜を撃ち落とすことが出来ずに天使への接近を許してしまった。刹菜はポケットより万年筆を取り出して天使の首を打つ。天使は討たれたか、否。無表情で立っていた、平然としていた。
 下位の魔法では倒せない、初めから刹菜が実力で討つことなど出来ないのであった。
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