退魔師『雨空 天音』の業務録

焼魚圭

文字の大きさ
3 / 12

退魔師『雨空 天音』の激怒

しおりを挟む
 天音はカーテンを開いた。外は目を刺すような眩しさでお出迎え。そこから差し込んで来る光につい顔をしかめてしまう。
 窓を開ける。ダラしない天音は換気など中々行わない。埃っぽい部屋となってしまったそこにたまに足を踏み入れる少女が毎度説教を授けるのだ、それはもう天音としては避けたいことの中でも最上級。
「今日は来るなよ、明日も来るなよ……永遠に来るなよ」
 家事炊事、殆どを任せ切りなあの少女を厭わしく思いつつも、心の底に溜まった想いを正直に零してしまう。
「やっぱり来て、毎日来て……ずっとここに」
 呼び鈴が鳴り、天音はドアを開ける。そこに立っている少女、紫色のリボンで髪を結った少女、川海 晴香の姿、背の向こうにいる存在を確認するやいなや、天音は声を荒らげた。
「やっぱりもう来るな! この妖怪ていくあうとめ」
 いつも通りの無賃労働の持ち込み。晴香は不満を立て続けに言い続けるも天音はそれらの言葉に何一つ耳を貸さずに晴香の影に潜む数多の目を睨み付けて扇子を扇ぎ陽の光に溶かした。
「まったく、アンタと来たら毎度毎度何か持ち帰って来て。妖怪亡霊物の怪、その内ネタ切れ起こして何も憑かなくなれば良いのに」
「ゴメンなさい」
 晴香は本気で頭を下げていた。真面目過ぎて天音の冗談を時々本気で捉えてしまうのだった。天音は冗談を加える。
「無償で祓う数が多過ぎたら本来入るはずの儲けがからっきし入らない錯覚に陥るしそしたらひもじく思えてきて悲しいの、分かっておくれ」
 晴香を部屋に招き入れてソファに座らせる。
「はて、アタシが緑茶なんか入れようなんてもう何年ぶりか。抹茶なんかはもう入れられるかも分からないし緑茶でいいね」
 急須を取り出してお茶を淹れる。湯のみに注がれた深い緑色のそれは湯気と共に美しい香りを運んで晴香の鼻腔をくすぐる。
 天音は湯のみに口をつけ、一度頷いてそれを晴香に出すのであった。
「って……天音の口付け!」
「リップサービスさ」
「それってそういう意味じゃない」
 分かってる、そう言って笑っていた。そうしてふたりは幸せを心いっぱいに味わっていたものだが、このひと時の幸せを壊す依頼のための呼び鈴が鳴り響いた。
「さて、金づるか」
 天音はドアを開けて依頼人を招き入れた。それは金髪がかった茶髪で芸術的なまでに顔が整った女性。女性は突然話し始めた。
「私、貧乏神に取り憑かれているのよ」
 美人の方をしばらく凝視して大きなため息をついた。
「なるほどね、貧乏神かぁ。誰かの金持ってくくらいならアタシの贅肉持ってって欲しいものね。太ももとかお腹とか二の腕とかさ」
「天音普通に細いと思うけど?」
 晴香の肩を抱いて天音は妖しく微笑む。
「太くはないかも知れないけど脂肪の付き方がダラしないのさ、お分かり?」
 何も分からない晴香はそれでも頷くしかなかった。天音は女性の方に目を向けて訊ねる。
「で、何かに取り憑かれたようには見えないけど、あと晴香以上の美人は嫌いだけど、話だけは耳に入れておこうか」
 女性は話し始めた。
「私、どれだけ頑張ってもお金が出て行って貯まらないのよ。お客さんとお話しながはお酒を注ぐような仕事をしてて、給料や支払い代金とは別にいっぱい貢いでもらってるのに」
「なるほど、で?」
 女性は俯く。
「それだけです」
 天音は女性を鋭い目付きで睨み付ける。
「それだけ? お金は何に飛ばしてんのさ。もしや毎日ご飯がステーキとかじゃあないだろうね」
 その問いに晴香はつい吹き出してしまっていた。
 女性は気まずそうに目を斜め下に向けて視線を逸らして答える。
「保湿液、その日の気分に合わせた化粧品、コスメ、美貌を保つためのマッサージその他色々……」
 女性の方に扇子が向けられた。
「なるほどねぇ、つまり……アンタ自身が貧乏神ってワケ」
 怯えた顔をして両手を挙げて降参の意を示す女性に対して、天音はとても生き生きとした凶暴な笑顔を浮かべていた。
「つまり……アンタを祓えばいいってワケ。ね、イラつく美人さん」
「待って」
 しかし、その言葉は虚しく響いて届くこともなかった。
「悪霊退散!」
「ちょっ」
「退散っ! 退散っ!」
「だから待って」
「邪気退散!」
「いやだから」
「煩悩焼却! 問答無用! 心頭滅却!」
「助け」
「黙れ美人、成仏しろ! 滅却滅却滅却っ!」
 とても愉快な仕事なのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~

黒鴉そら
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」 自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。 全然関係ない第三者がおこなっていく復讐? そこまでざまぁ要素は強くないです。 最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...