5 / 12
女子高生『川海 晴香』の集団下校
しおりを挟む
晴香は歩く。ありきたりで変わりのない、しかし本人にとっては代わりの無い大切な居場所のこの街を。一日の授業に打ちのめされて疲れた身体を見慣れた建物やスーパーマーケットが実家のように受け入れてくれる。歩いて歩いて、バス停のある歩道の側にかつて自動販売機があった場所、そこにひとりの子どもがひとり立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
あまりにも寂しそうなその子どもについつい話し掛けてしまうのであった。子どもは瞳を涙で濡らしながら言った。
「あのね、昨日までここに自動販売機があったんだけど、無くなったの。どうして?」
晴香は記憶を辿りこの場所のことを思い出す。こんなところに自動販売機があった日など昨日一昨日などと言った最近のことではなくて果たしていつだっただろう。思い出そうにも具体的な日にちなど追憶の日差しに掻き消されてしまって分からない。
そんなむかし話を昨日と語る子どもは幽霊に違いなかった。
「きっと大人にも大人の都合があって持って行っちゃったんだよ」
答えた途端、景色の中で子どもの姿だけがブレていく。晴香がその光景に気を取られた隙をついて子どもは晴香の背中に乗り始めるのであった。
「どうしよう……天音に怒られちゃう」
しかし、どうしようもこうしようも頼ることの出来る人物など天音以外にいなかった。故に普通に道を進んで行く。
横断歩道を渡り歩道に踏み入れたその時、妙に大きなカエルが跳ねているのを目にした。驚きを覚えつつも微笑ましく思っていた晴香だったが、すぐに表情は凍り付く。自転車が走って近付いて来た。まるでカエルがいることに気がついていないように曲がる気配すら見せない。跳ねるカエルを撥ねる勢いであった。
「危ない!」
咄嗟に出た叫びは自転車の動きを鈍らせ揺らす。それでひとつの命が救われたのであった。
「良かった」
安堵のため息をつく晴香の元へとカエルが懸命に跳ね続けて近付いて行く。縮む距離、やがて晴香の元へとたどり着いて取り憑いたのであった。
「あっ、またお化けだった」
天音の無賃労働を更に増やしてしまった晴香の足取りは重くなっていく。
「幽霊に取り憑かれたから重いだけ、取り憑かれたから重いだけ……」
想いを無視して歩き続ける。負の感情は更に負の存在を呼び起こし、動物霊たちが後ろに列を成し始めた。オマケに途中で見かけた地蔵に救いを求める気持ちでお参りしたところ、更に人の霊が増え、物の怪率いて集団下校、と言った状態であった。
重い足取りでどうにかたどり着いたアパート、いつもならもっと軽く上ることのできる階段も今の晴香ではあまりにも重たくてしんどい。
「ああ、一段…………二段……」
表情はとても生きているように思えなかった。生きた心地のしない死んだ顔をした生者は愛しの退魔師の元へと向かうために重苦しい身体を引き摺るように階段を上っていく。
「最近太ったからかなぁ、キツいよ……幸せ太りで見放されたらツラいよね」
息切れは怪異の重さと体重の増加、悪いと想う心によって加速していく。上って上ってどうにか上ってようやく行き着いた二階。廊下を歩いて天音の住まう部屋のドアを見つけて呼び鈴を鳴らす。
ドアはものの数秒で開いた。
「今日も来たね妖怪ていくあうと……」
流石の天音も息を詰まらせた。晴香の周りは大量の霊たちで溢れ返っていたのだから。
天音は口を震わせながらどうにか叫びを形にした。
「斬新な百鬼夜行だな!」
ドアは閉じられたのであった。
「どうしたの?」
あまりにも寂しそうなその子どもについつい話し掛けてしまうのであった。子どもは瞳を涙で濡らしながら言った。
「あのね、昨日までここに自動販売機があったんだけど、無くなったの。どうして?」
晴香は記憶を辿りこの場所のことを思い出す。こんなところに自動販売機があった日など昨日一昨日などと言った最近のことではなくて果たしていつだっただろう。思い出そうにも具体的な日にちなど追憶の日差しに掻き消されてしまって分からない。
そんなむかし話を昨日と語る子どもは幽霊に違いなかった。
「きっと大人にも大人の都合があって持って行っちゃったんだよ」
答えた途端、景色の中で子どもの姿だけがブレていく。晴香がその光景に気を取られた隙をついて子どもは晴香の背中に乗り始めるのであった。
「どうしよう……天音に怒られちゃう」
しかし、どうしようもこうしようも頼ることの出来る人物など天音以外にいなかった。故に普通に道を進んで行く。
横断歩道を渡り歩道に踏み入れたその時、妙に大きなカエルが跳ねているのを目にした。驚きを覚えつつも微笑ましく思っていた晴香だったが、すぐに表情は凍り付く。自転車が走って近付いて来た。まるでカエルがいることに気がついていないように曲がる気配すら見せない。跳ねるカエルを撥ねる勢いであった。
「危ない!」
咄嗟に出た叫びは自転車の動きを鈍らせ揺らす。それでひとつの命が救われたのであった。
「良かった」
安堵のため息をつく晴香の元へとカエルが懸命に跳ね続けて近付いて行く。縮む距離、やがて晴香の元へとたどり着いて取り憑いたのであった。
「あっ、またお化けだった」
天音の無賃労働を更に増やしてしまった晴香の足取りは重くなっていく。
「幽霊に取り憑かれたから重いだけ、取り憑かれたから重いだけ……」
想いを無視して歩き続ける。負の感情は更に負の存在を呼び起こし、動物霊たちが後ろに列を成し始めた。オマケに途中で見かけた地蔵に救いを求める気持ちでお参りしたところ、更に人の霊が増え、物の怪率いて集団下校、と言った状態であった。
重い足取りでどうにかたどり着いたアパート、いつもならもっと軽く上ることのできる階段も今の晴香ではあまりにも重たくてしんどい。
「ああ、一段…………二段……」
表情はとても生きているように思えなかった。生きた心地のしない死んだ顔をした生者は愛しの退魔師の元へと向かうために重苦しい身体を引き摺るように階段を上っていく。
「最近太ったからかなぁ、キツいよ……幸せ太りで見放されたらツラいよね」
息切れは怪異の重さと体重の増加、悪いと想う心によって加速していく。上って上ってどうにか上ってようやく行き着いた二階。廊下を歩いて天音の住まう部屋のドアを見つけて呼び鈴を鳴らす。
ドアはものの数秒で開いた。
「今日も来たね妖怪ていくあうと……」
流石の天音も息を詰まらせた。晴香の周りは大量の霊たちで溢れ返っていたのだから。
天音は口を震わせながらどうにか叫びを形にした。
「斬新な百鬼夜行だな!」
ドアは閉じられたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~
黒鴉そら
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」
自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。
全然関係ない第三者がおこなっていく復讐?
そこまでざまぁ要素は強くないです。
最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる