最低な出会いから濃密な愛を知る

あん蜜

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第三十三話 星空を眺めながら

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「今から夜空見んぞ」

 その夜の夕食後、宣言通り早めに仕事を終えたベンに言われた言葉は意外なものだった。
 
「……夜空、ですか?」

「今日は雲ひとつねぇ。数多の星が綺麗に見えるはずだ。空見んの好きだろ?」

「……はいっ!」

 ベンとともに広いバルコニーへと移動すると、そこにはマットが置かれてあった。

「帰った時に用意しておいたんだ。これなら見上げる必要ねぇ。寝転んでりゃいいだけだからな」

 並んで横になり、ベンが灯りを消す。
 空にはキラキラと輝く星たちがあちらこちらで存在感を放っており、とても綺麗だ。

「わぁ…………!!」

「綺麗だな」

「はい……っ」

 じっと眺めているうちに、心が晴れ渡るような、澄んだ気持ちになっていくのがわかった。

(はぁ…………なんて綺麗なのかしら…………)

 ゆったりと星空を観賞する時間に幸せを感じながら、ふと、前から気になっていたことを聞ける機会ではないかと思った。チラッチラッと時折顔を傾けてベンを見ていると、不意にベンがくすくすと笑った。

「……?」

「ふははっ……ソフィア、何か言いてぇなら言ってくれ。何黙ってチラチラ様子うかがってんだ」

「っ……」

(バレてた!)

「その…………ずっと、気になっていたことが……」

「なんだ?」

「……お相手探しの会のことなのですが……。ベン様は、私が参加することをご存じだったのかなとか、その……」

 私が子どもの頃にベンと会っていたことを知ってから、お相手探しの会で再会した夜のことを振り返った時、様々な疑問や気になることが山ほどできたのに、中々聞けないでいた。

「そうだな。そりゃ気になるわな」

「はい……」

「ソフィアの予想通り、参加することを知ってた。つか……ソフィアが参加することになったのは俺のせいでもあるんだよな」

「……えっ?」

「驚かせちまうだろうが、元々ソフィアは俺と見合いするはずだったんだ」

「えぇ!?」

 衝撃過ぎて声が大きくなる。

「どこから話そうか悩むが……せっかくの機会だ。じっくり話すとすっか」

 私はゴクリと唾を飲み、ベンの方へと体を少し傾けた。

「今思えば、俺はソフィアと初めて会った時から、将来結婚する可能性を感じていたのかもしれねぇ」

「……えっ……!」

「初めて会ったあの日、ソフィアはまだ子どもだからな、恋愛感情こそ抱かなかったが、ソフィアが俺の料理を幸せそうに頬張ってさ、全身で『美味しい』ことを表現してんのが嬉しくてたまらなかったんだよなぁ……」

「……!」

「だから、ソフィアが社交の場に出るようになったら会えるのを楽しみにしてた。この頃から俺は料理を振る舞ったことがきっかけでソフィアの親父さんと仲良くなってな。親父さんや社交の場で再会したジェシカ嬢からソフィアの話をよく聞いてたこともあって、一方的にソフィアの近況は知ってた」

「! そうだったのですか……!」

「んで、一年くらい前だったか、用事でグレイン家に行った時、偶然ソフィアの姿を目にしてな。なぜかそん時思ったんだよ、また俺の料理でしびれさせてぇ、ってな」

「っ……!」

「そっからソフィアのことが頭から離れねぇくて……。すぐ親父さんに婚約を申し出たんだが、このまま見合いの形じゃあ社交の場が嫌いなソフィアは話を受けてくれねぇかもしんねーし、受けてもらえたとして警戒されて中々二人きりになれねぇのもなんだし、お相手探しの会への参加を持ちかけたんだ」

「……そ、そのような経緯が…………っ」

「驚いたか?」

「はい……」

 驚いたものの、様々な点と点が繋がりすっきりした気持ちになった。が、まだ一つだけ腑に落ちていないことがあった。

「ベン様っ……で、ではなぜあの夜っ……あ、えと…………あぁっ」

「ははは! 何あわててんだ。ゆっくりでいい」

「~~っ……お相手探しの会でお声がけくださった時、ど、どうしてあのような……ご、強引な感じだったのですか……っ!?」

(ベン様は基本的に強引だけれどっ……)

「ん? 強引だったか?」

「強引でしたわっ! だ、だって唇、に……っ! もぅっ! わかってらっしゃるくせに……!」

 ベンは楽しそうに笑うと、私を横からやさしく抱きしめた。

「まぁ、確かに強引だったな。ははは!」

「笑い事ではございませんわっ! 強引なだけでなく、信じられないことも口になさっていたじゃないですか……」

「ん? なんかおかしなこと言ったか?」

「っ…………か……体の相性がどうとか……っ! そのようなことをおっしゃるよりも、前に一度出会っていたことや、父と姉と知り合いなことなどを教えてくださればよかったのに……!」

「まぁまぁ、そう膨れなさんな」

 そう言って頭を撫でられる。

「~~~~っ……そうやって撫でればいいと思ってるんだから……」

「バレバレだな」

 ベンは嬉しそうに笑うと、私のおでこにキスをした。

「言っとくけどな、俺は思ってることしか言わねぇからな。全部本心だ」

「っ……!」

「まぁ結果として、あぁいうアプローチも悪くなかったんじゃねぇか? なっ?」

「……そ、それは……」

 ベンの手が私の耳に触れる。

「ひゃっ……んぁぁ……ベ、ベン様っ……」

 やさしく、ぞくぞく感じるところばかりが撫でられる。

「~~……~~~~っ」

「で? さっき相性のことを言っていたが、実際良かっただろ?」

「~~~~っ!!」

「ん? 違うのか?」

「っ……………………」

「黙ってるってこたぁ、図星だな」

「っ……んぅぅぅ……」

 よくわからない声が出てしまいながら、ベンの胸に顔をうずめるようにくっつけた。

「ったく……いちいち可愛すぎんだよソフィアは」

 ぎゅううっと抱きしめられ、途端にこの後のことに意識が移り、体温がぼわっと上昇した。

「なぁ、ソフィア」

「……はい……」

「今、エロいこと考えてんだろ」

「にゃっ……!?」

「今すぐ裸で絡まりてぇんだな」

「しょっ……そ、んなことはっ……っ」

「安心しろ。このまま寝るわけねぇだろ」

 そう言ってベンが体を起こしたので私も立ち上がる。

「まずは風呂だな。一緒に入んぞ」

「……ひぇっ!?」
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