33 / 37
第三十三話 星空を眺めながら
しおりを挟む
「今から夜空見んぞ」
その夜の夕食後、宣言通り早めに仕事を終えたベンに言われた言葉は意外なものだった。
「……夜空、ですか?」
「今日は雲ひとつねぇ。数多の星が綺麗に見えるはずだ。空見んの好きだろ?」
「……はいっ!」
ベンとともに広いバルコニーへと移動すると、そこにはマットが置かれてあった。
「帰った時に用意しておいたんだ。これなら見上げる必要ねぇ。寝転んでりゃいいだけだからな」
並んで横になり、ベンが灯りを消す。
空にはキラキラと輝く星たちがあちらこちらで存在感を放っており、とても綺麗だ。
「わぁ…………!!」
「綺麗だな」
「はい……っ」
じっと眺めているうちに、心が晴れ渡るような、澄んだ気持ちになっていくのがわかった。
(はぁ…………なんて綺麗なのかしら…………)
ゆったりと星空を観賞する時間に幸せを感じながら、ふと、前から気になっていたことを聞ける機会ではないかと思った。チラッチラッと時折顔を傾けてベンを見ていると、不意にベンがくすくすと笑った。
「……?」
「ふははっ……ソフィア、何か言いてぇなら言ってくれ。何黙ってチラチラ様子うかがってんだ」
「っ……」
(バレてた!)
「その…………ずっと、気になっていたことが……」
「なんだ?」
「……お相手探しの会のことなのですが……。ベン様は、私が参加することをご存じだったのかなとか、その……」
私が子どもの頃にベンと会っていたことを知ってから、お相手探しの会で再会した夜のことを振り返った時、様々な疑問や気になることが山ほどできたのに、中々聞けないでいた。
「そうだな。そりゃ気になるわな」
「はい……」
「ソフィアの予想通り、参加することを知ってた。つか……ソフィアが参加することになったのは俺のせいでもあるんだよな」
「……えっ?」
「驚かせちまうだろうが、元々ソフィアは俺と見合いするはずだったんだ」
「えぇ!?」
衝撃過ぎて声が大きくなる。
「どこから話そうか悩むが……せっかくの機会だ。じっくり話すとすっか」
私はゴクリと唾を飲み、ベンの方へと体を少し傾けた。
「今思えば、俺はソフィアと初めて会った時から、将来結婚する可能性を感じていたのかもしれねぇ」
「……えっ……!」
「初めて会ったあの日、ソフィアはまだ子どもだからな、恋愛感情こそ抱かなかったが、ソフィアが俺の料理を幸せそうに頬張ってさ、全身で『美味しい』ことを表現してんのが嬉しくてたまらなかったんだよなぁ……」
「……!」
「だから、ソフィアが社交の場に出るようになったら会えるのを楽しみにしてた。この頃から俺は料理を振る舞ったことがきっかけでソフィアの親父さんと仲良くなってな。親父さんや社交の場で再会したジェシカ嬢からソフィアの話をよく聞いてたこともあって、一方的にソフィアの近況は知ってた」
「! そうだったのですか……!」
「んで、一年くらい前だったか、用事でグレイン家に行った時、偶然ソフィアの姿を目にしてな。なぜかそん時思ったんだよ、また俺の料理でしびれさせてぇ、ってな」
「っ……!」
「そっからソフィアのことが頭から離れねぇくて……。すぐ親父さんに婚約を申し出たんだが、このまま見合いの形じゃあ社交の場が嫌いなソフィアは話を受けてくれねぇかもしんねーし、受けてもらえたとして警戒されて中々二人きりになれねぇのもなんだし、お相手探しの会への参加を持ちかけたんだ」
「……そ、そのような経緯が…………っ」
「驚いたか?」
「はい……」
驚いたものの、様々な点と点が繋がりすっきりした気持ちになった。が、まだ一つだけ腑に落ちていないことがあった。
「ベン様っ……で、ではなぜあの夜っ……あ、えと…………あぁっ」
「ははは! 何あわててんだ。ゆっくりでいい」
「~~っ……お相手探しの会でお声がけくださった時、ど、どうしてあのような……ご、強引な感じだったのですか……っ!?」
(ベン様は基本的に強引だけれどっ……)
「ん? 強引だったか?」
「強引でしたわっ! だ、だって唇、に……っ! もぅっ! わかってらっしゃるくせに……!」
ベンは楽しそうに笑うと、私を横からやさしく抱きしめた。
「まぁ、確かに強引だったな。ははは!」
「笑い事ではございませんわっ! 強引なだけでなく、信じられないことも口になさっていたじゃないですか……」
「ん? なんかおかしなこと言ったか?」
「っ…………か……体の相性がどうとか……っ! そのようなことをおっしゃるよりも、前に一度出会っていたことや、父と姉と知り合いなことなどを教えてくださればよかったのに……!」
「まぁまぁ、そう膨れなさんな」
そう言って頭を撫でられる。
「~~~~っ……そうやって撫でればいいと思ってるんだから……」
「バレバレだな」
ベンは嬉しそうに笑うと、私のおでこにキスをした。
「言っとくけどな、俺は思ってることしか言わねぇからな。全部本心だ」
「っ……!」
「まぁ結果として、あぁいうアプローチも悪くなかったんじゃねぇか? なっ?」
「……そ、それは……」
ベンの手が私の耳に触れる。
「ひゃっ……んぁぁ……ベ、ベン様っ……」
やさしく、ぞくぞく感じるところばかりが撫でられる。
「~~……~~~~っ」
「で? さっき相性のことを言っていたが、実際良かっただろ?」
「~~~~っ!!」
「ん? 違うのか?」
「っ……………………」
「黙ってるってこたぁ、図星だな」
「っ……んぅぅぅ……」
よくわからない声が出てしまいながら、ベンの胸に顔をうずめるようにくっつけた。
「ったく……いちいち可愛すぎんだよソフィアは」
ぎゅううっと抱きしめられ、途端にこの後のことに意識が移り、体温がぼわっと上昇した。
「なぁ、ソフィア」
「……はい……」
「今、エロいこと考えてんだろ」
「にゃっ……!?」
「今すぐ裸で絡まりてぇんだな」
「しょっ……そ、んなことはっ……っ」
「安心しろ。このまま寝るわけねぇだろ」
そう言ってベンが体を起こしたので私も立ち上がる。
「まずは風呂だな。一緒に入んぞ」
「……ひぇっ!?」
その夜の夕食後、宣言通り早めに仕事を終えたベンに言われた言葉は意外なものだった。
「……夜空、ですか?」
「今日は雲ひとつねぇ。数多の星が綺麗に見えるはずだ。空見んの好きだろ?」
「……はいっ!」
ベンとともに広いバルコニーへと移動すると、そこにはマットが置かれてあった。
「帰った時に用意しておいたんだ。これなら見上げる必要ねぇ。寝転んでりゃいいだけだからな」
並んで横になり、ベンが灯りを消す。
空にはキラキラと輝く星たちがあちらこちらで存在感を放っており、とても綺麗だ。
「わぁ…………!!」
「綺麗だな」
「はい……っ」
じっと眺めているうちに、心が晴れ渡るような、澄んだ気持ちになっていくのがわかった。
(はぁ…………なんて綺麗なのかしら…………)
ゆったりと星空を観賞する時間に幸せを感じながら、ふと、前から気になっていたことを聞ける機会ではないかと思った。チラッチラッと時折顔を傾けてベンを見ていると、不意にベンがくすくすと笑った。
「……?」
「ふははっ……ソフィア、何か言いてぇなら言ってくれ。何黙ってチラチラ様子うかがってんだ」
「っ……」
(バレてた!)
「その…………ずっと、気になっていたことが……」
「なんだ?」
「……お相手探しの会のことなのですが……。ベン様は、私が参加することをご存じだったのかなとか、その……」
私が子どもの頃にベンと会っていたことを知ってから、お相手探しの会で再会した夜のことを振り返った時、様々な疑問や気になることが山ほどできたのに、中々聞けないでいた。
「そうだな。そりゃ気になるわな」
「はい……」
「ソフィアの予想通り、参加することを知ってた。つか……ソフィアが参加することになったのは俺のせいでもあるんだよな」
「……えっ?」
「驚かせちまうだろうが、元々ソフィアは俺と見合いするはずだったんだ」
「えぇ!?」
衝撃過ぎて声が大きくなる。
「どこから話そうか悩むが……せっかくの機会だ。じっくり話すとすっか」
私はゴクリと唾を飲み、ベンの方へと体を少し傾けた。
「今思えば、俺はソフィアと初めて会った時から、将来結婚する可能性を感じていたのかもしれねぇ」
「……えっ……!」
「初めて会ったあの日、ソフィアはまだ子どもだからな、恋愛感情こそ抱かなかったが、ソフィアが俺の料理を幸せそうに頬張ってさ、全身で『美味しい』ことを表現してんのが嬉しくてたまらなかったんだよなぁ……」
「……!」
「だから、ソフィアが社交の場に出るようになったら会えるのを楽しみにしてた。この頃から俺は料理を振る舞ったことがきっかけでソフィアの親父さんと仲良くなってな。親父さんや社交の場で再会したジェシカ嬢からソフィアの話をよく聞いてたこともあって、一方的にソフィアの近況は知ってた」
「! そうだったのですか……!」
「んで、一年くらい前だったか、用事でグレイン家に行った時、偶然ソフィアの姿を目にしてな。なぜかそん時思ったんだよ、また俺の料理でしびれさせてぇ、ってな」
「っ……!」
「そっからソフィアのことが頭から離れねぇくて……。すぐ親父さんに婚約を申し出たんだが、このまま見合いの形じゃあ社交の場が嫌いなソフィアは話を受けてくれねぇかもしんねーし、受けてもらえたとして警戒されて中々二人きりになれねぇのもなんだし、お相手探しの会への参加を持ちかけたんだ」
「……そ、そのような経緯が…………っ」
「驚いたか?」
「はい……」
驚いたものの、様々な点と点が繋がりすっきりした気持ちになった。が、まだ一つだけ腑に落ちていないことがあった。
「ベン様っ……で、ではなぜあの夜っ……あ、えと…………あぁっ」
「ははは! 何あわててんだ。ゆっくりでいい」
「~~っ……お相手探しの会でお声がけくださった時、ど、どうしてあのような……ご、強引な感じだったのですか……っ!?」
(ベン様は基本的に強引だけれどっ……)
「ん? 強引だったか?」
「強引でしたわっ! だ、だって唇、に……っ! もぅっ! わかってらっしゃるくせに……!」
ベンは楽しそうに笑うと、私を横からやさしく抱きしめた。
「まぁ、確かに強引だったな。ははは!」
「笑い事ではございませんわっ! 強引なだけでなく、信じられないことも口になさっていたじゃないですか……」
「ん? なんかおかしなこと言ったか?」
「っ…………か……体の相性がどうとか……っ! そのようなことをおっしゃるよりも、前に一度出会っていたことや、父と姉と知り合いなことなどを教えてくださればよかったのに……!」
「まぁまぁ、そう膨れなさんな」
そう言って頭を撫でられる。
「~~~~っ……そうやって撫でればいいと思ってるんだから……」
「バレバレだな」
ベンは嬉しそうに笑うと、私のおでこにキスをした。
「言っとくけどな、俺は思ってることしか言わねぇからな。全部本心だ」
「っ……!」
「まぁ結果として、あぁいうアプローチも悪くなかったんじゃねぇか? なっ?」
「……そ、それは……」
ベンの手が私の耳に触れる。
「ひゃっ……んぁぁ……ベ、ベン様っ……」
やさしく、ぞくぞく感じるところばかりが撫でられる。
「~~……~~~~っ」
「で? さっき相性のことを言っていたが、実際良かっただろ?」
「~~~~っ!!」
「ん? 違うのか?」
「っ……………………」
「黙ってるってこたぁ、図星だな」
「っ……んぅぅぅ……」
よくわからない声が出てしまいながら、ベンの胸に顔をうずめるようにくっつけた。
「ったく……いちいち可愛すぎんだよソフィアは」
ぎゅううっと抱きしめられ、途端にこの後のことに意識が移り、体温がぼわっと上昇した。
「なぁ、ソフィア」
「……はい……」
「今、エロいこと考えてんだろ」
「にゃっ……!?」
「今すぐ裸で絡まりてぇんだな」
「しょっ……そ、んなことはっ……っ」
「安心しろ。このまま寝るわけねぇだろ」
そう言ってベンが体を起こしたので私も立ち上がる。
「まずは風呂だな。一緒に入んぞ」
「……ひぇっ!?」
10
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる