53 / 508
第3話:落日は野心の果てに
#09
しおりを挟む第10番惑星ゼラン補給基地の巡察を終えたノヴァルナは、総旗艦『ヒテン』のBSIユニット格納庫にいた。そこにはノヴァルナの乗機『センクウNX』と、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチ、キュエル=ヒーラーの親衛隊仕様『シデンSC』、さらに今回はノアの『サイウンCN』に彼女の護衛役であるカレンガミノ姉妹の乗機、親衛隊仕様『ライカSS』が置かれている。
親衛隊『ホロウシュ』がハッチとキュエルだけなのは、残りの機体が全て集中オーバーホールを受けていて使用出来ないのと、この巡察が軍事行動ではない事を強調するためであった。さらにノアやカレンガミノ姉妹の機体がいるのは、第7惑星サパルの宇宙要塞マルネーで要塞と全軍の将兵のために、ノヴァルナとノアのBSHOによるエキジビションマッチの余興を、予定しているからである。
六機のBSIユニットは補給基地の近くで訓練を終え、『ヒテン』へ戻って来たところだった。『サイウンCN』の足元へ降り立ったノアは、んんー…と背筋を伸ばし、上機嫌で言う。
「やっぱり『サイウン』の操縦は、楽しいわぁ」
それはあくまでも“乗り物”として楽しいのであって、戦う事は好きではないのを、隣で頭を掻くノヴァルナは知っている。ただノヴァルナが頭を掻く理由は、好むと好まないに関わらず、ノアの技量は戦闘においても一級品のままだという事だ。今の訓練でも、ノヴァルナとノアの模擬戦闘は、ほぼ互角であった。
「マルネーじゃ、やっつけてあげるから」
パイロットスーツのファスナーを胸元まで下ろしながら、ニコニコとして言うノアに、ノヴァルナは面白くなさそうに「へいへい…」と応じる。エキジビションはチーム戦の予定だが、これがまた難題だ。ノアの護衛のカレンガミノ姉妹は、『ホロウシュ』の前筆頭トゥ・シェイ=マーディンとラン・マリュウ=フォレスタに、以前戦いを挑み、引き分けたほどの技量を持つと来ている。
「あのな、ノア」とノヴァルナ。
「なに?」
「おまえ、まさかキオ・スー家の新当主様に、恥をかかせるつもりじゃねーだろな」
「もちろん―――そのつもりだけど」
「いやいやいや、そこは空気読もうぜ」
ノアの間を置いたわざとらしい突き放しに、顔をしかめるノヴァルナ。ノアはあっけらかんと言い返した。
「なんでよ。あなたと初めて逢った時の決着がまだなんだし、いい機会じゃない」
ノヴァルナとノアの出逢いは、約半年前の『ナグァルラワン暗黒星団域』だが、互いのBSHOで一騎打ちを演じるという、今の二人の関係からは想像もつかないものだった。
ただその時は途中で、ノアが乗っていた御用船の救助に向かい、勝敗がつかないまま、皇国暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされてしまったのだ。
「さてはてめー、俺をハメやがったな?」
このエキジビションマッチは、家老のショウス=ナイドルが旧キオ・スー家の兵士達に対する、融和策の一環としてノヴァルナのところに持ち込ん企画だった。
堅物のナイドルにしては珍しく、面白そうだとつい話に乗ったノヴァルナだが、どうやらオ・ワーリ=シーモア星系の平定がなったこの機会に、『ナグァルラワン暗黒星団域』での決着を目論んだノアが、裏で糸を引いていたようである。
「まぁ、いいじゃないの。あなたが勝てば問題ないんだし」
「………」
白々しい口調で宥めるノアを、ノヴァルナは無言のまま横目で睨んだ。簡単に勝てない相手であるから、ノヴァルナは愚痴をこぼしているのだ。
するとそこに艦橋からノヴァルナへ、インターコムで連絡が入る。当直している総旗艦『ヒテン』の副長からだった。
「おう。なんだ副長?」
インターコムの通話スイッチを押しながら尋ねるノヴァルナ。小さなモニター画面に映し出された副長は、生真面目な口調で報告する。
「我がオ・ワーリ宙域の領域外縁哨戒基地、E―4459から緊急電です」
「緊急電だと? 何が起きた?」
「はっ。損傷したサイドゥ家の軽巡航艦が、救援を求めて来たため、回収したと」
「なに? サイドゥ家の軽巡?」
「は。さらにその巡航艦ですが、ドゥ・ザン=サイドゥ様の二人のご子息、リカード様とレヴァル様が乗られていたとの事です」
それを聞いてノヴァルナの傍らにいたノアが「えっ!?」と声を上げた。その美しい顔がみるみるうちに不安の色に染まり始める。本拠地惑星バサラナルムに暮らす二人の弟が、損傷した軽巡航艦に乗ってオ・ワーリ宙域の端で回収されたと聞けば、実家で何か異変が起こったのではないかと…胸騒ぎを覚えても不思議ではない。
そんなノアの肩にノヴァルナはさりげなく片手を置いて支えてやり、ノヴァルナは真面目な口調で副長に告げた。
「わかった。すぐ艦橋に上がる。関連データを揃えておいてくれ」
▶#10につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる