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第3話:落日は野心の果てに
#09
しおりを挟む第10番惑星ゼラン補給基地の巡察を終えたノヴァルナは、総旗艦『ヒテン』のBSIユニット格納庫にいた。そこにはノヴァルナの乗機『センクウNX』と、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチ、キュエル=ヒーラーの親衛隊仕様『シデンSC』、さらに今回はノアの『サイウンCN』に彼女の護衛役であるカレンガミノ姉妹の乗機、親衛隊仕様『ライカSS』が置かれている。
親衛隊『ホロウシュ』がハッチとキュエルだけなのは、残りの機体が全て集中オーバーホールを受けていて使用出来ないのと、この巡察が軍事行動ではない事を強調するためであった。さらにノアやカレンガミノ姉妹の機体がいるのは、第7惑星サパルの宇宙要塞マルネーで要塞と全軍の将兵のために、ノヴァルナとノアのBSHOによるエキジビションマッチの余興を、予定しているからである。
六機のBSIユニットは補給基地の近くで訓練を終え、『ヒテン』へ戻って来たところだった。『サイウンCN』の足元へ降り立ったノアは、んんー…と背筋を伸ばし、上機嫌で言う。
「やっぱり『サイウン』の操縦は、楽しいわぁ」
それはあくまでも“乗り物”として楽しいのであって、戦う事は好きではないのを、隣で頭を掻くノヴァルナは知っている。ただノヴァルナが頭を掻く理由は、好むと好まないに関わらず、ノアの技量は戦闘においても一級品のままだという事だ。今の訓練でも、ノヴァルナとノアの模擬戦闘は、ほぼ互角であった。
「マルネーじゃ、やっつけてあげるから」
パイロットスーツのファスナーを胸元まで下ろしながら、ニコニコとして言うノアに、ノヴァルナは面白くなさそうに「へいへい…」と応じる。エキジビションはチーム戦の予定だが、これがまた難題だ。ノアの護衛のカレンガミノ姉妹は、『ホロウシュ』の前筆頭トゥ・シェイ=マーディンとラン・マリュウ=フォレスタに、以前戦いを挑み、引き分けたほどの技量を持つと来ている。
「あのな、ノア」とノヴァルナ。
「なに?」
「おまえ、まさかキオ・スー家の新当主様に、恥をかかせるつもりじゃねーだろな」
「もちろん―――そのつもりだけど」
「いやいやいや、そこは空気読もうぜ」
ノアの間を置いたわざとらしい突き放しに、顔をしかめるノヴァルナ。ノアはあっけらかんと言い返した。
「なんでよ。あなたと初めて逢った時の決着がまだなんだし、いい機会じゃない」
ノヴァルナとノアの出逢いは、約半年前の『ナグァルラワン暗黒星団域』だが、互いのBSHOで一騎打ちを演じるという、今の二人の関係からは想像もつかないものだった。
ただその時は途中で、ノアが乗っていた御用船の救助に向かい、勝敗がつかないまま、皇国暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされてしまったのだ。
「さてはてめー、俺をハメやがったな?」
このエキジビションマッチは、家老のショウス=ナイドルが旧キオ・スー家の兵士達に対する、融和策の一環としてノヴァルナのところに持ち込ん企画だった。
堅物のナイドルにしては珍しく、面白そうだとつい話に乗ったノヴァルナだが、どうやらオ・ワーリ=シーモア星系の平定がなったこの機会に、『ナグァルラワン暗黒星団域』での決着を目論んだノアが、裏で糸を引いていたようである。
「まぁ、いいじゃないの。あなたが勝てば問題ないんだし」
「………」
白々しい口調で宥めるノアを、ノヴァルナは無言のまま横目で睨んだ。簡単に勝てない相手であるから、ノヴァルナは愚痴をこぼしているのだ。
するとそこに艦橋からノヴァルナへ、インターコムで連絡が入る。当直している総旗艦『ヒテン』の副長からだった。
「おう。なんだ副長?」
インターコムの通話スイッチを押しながら尋ねるノヴァルナ。小さなモニター画面に映し出された副長は、生真面目な口調で報告する。
「我がオ・ワーリ宙域の領域外縁哨戒基地、E―4459から緊急電です」
「緊急電だと? 何が起きた?」
「はっ。損傷したサイドゥ家の軽巡航艦が、救援を求めて来たため、回収したと」
「なに? サイドゥ家の軽巡?」
「は。さらにその巡航艦ですが、ドゥ・ザン=サイドゥ様の二人のご子息、リカード様とレヴァル様が乗られていたとの事です」
それを聞いてノヴァルナの傍らにいたノアが「えっ!?」と声を上げた。その美しい顔がみるみるうちに不安の色に染まり始める。本拠地惑星バサラナルムに暮らす二人の弟が、損傷した軽巡航艦に乗ってオ・ワーリ宙域の端で回収されたと聞けば、実家で何か異変が起こったのではないかと…胸騒ぎを覚えても不思議ではない。
そんなノアの肩にノヴァルナはさりげなく片手を置いて支えてやり、ノヴァルナは真面目な口調で副長に告げた。
「わかった。すぐ艦橋に上がる。関連データを揃えておいてくれ」
▶#10につづく
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