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第9話:退くべからざるもの
#00
しおりを挟むノヴァルナ・ダン=ウォーダが、イノス星系へ軍を進めるその前日―――
アイノンザン星系は、ノヴァルナの本拠地星系オ・ワーリ=シーモアからおよそ580光年の距離、ミノネリラ宙域との国境近くに位置する恒星系であった。
第四惑星アイノゼアに星系首都を置き、星系内には約三十億の人口がある。ここを領地としているのが、ノヴァルナの従兄弟となるヴァルキス=ウォーダだ。
ヴァルキス=ウォーダはこの時二十二歳。亜麻色の長髪は前髪が左目を隠しており、細身の体は切れ味の鋭い刀剣のようにも思えた。亡き父親はノヴァルナの父ヒディラスと、モルザン星系を有していたヴァルツの弟、ヴェルザーである。
早朝のアイノンザン城ではそのヴァルキスが、朝の光を浴びる庭園で、三人の家老から報告を聞いていた。
「キオ・スー家が我等に対し、艦隊を?」
前髪を指で直しながらヴァルキスは尋ねた。
「はっ…どうやらノヴァルナ様は、イノス星系へ出陣したあとに、我等がオ・ワーリ=シーモア星系へ侵攻する可能性を、危惧しておられるようで…」
一人の家老が告げると、別の家老が付け加える。
「この機に乗じ、イル・ワークランのカダール様と手を組めば…確かに、弱体化した今のキオ・スー家を滅ぼす事は、容易いかと存じます」
ヴァルキスは軽く身を屈めると、植え込みの中で泡立つように咲いている、水色の花に手を伸ばながら、小さく「ふむ…」と声を漏らした。そして誰に向けたふうも無く言葉を続ける。
「全ては我等、アイノンザン=ウォーダ家の望み次第…か」
その言葉に家老達は僅かに身を乗り出した。
「さよう…時が参った、と申すべきかと」
「すでに我が艦隊の再整備も、完了しております」
「どのように致されますか?」
イル・ワークラン=ウォーダ家のカダールは、ノヴァルナをひどく憎んでいると聞く。手を組むと申し出れば喜んで応じるだろう。それに自分もあのウォーダ一族の恥さらしのような、ノヴァルナは好きではないが―――
「弟のヴァルマスを呼んでくれ。話がある…と」
自分の考えを纏めたヴァルキスは、家老達を振り向いてそう告げた………
▶#01につづく
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