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第10話:花の都へ風雲児
#00
しおりを挟むセッツー宙域、オ・ザーカ星系第四惑星ガルシナ―――
白い闇…と呼んでも過言ではない、深い霧の中で重厚な鐘の音が響き渡る。
新興宗教団体イーゴン教団の本部、イシャー・ホーガンの鐘の音である。
上空から見ると星の形をしたイシャー・ホーガンは、縦横が約五キロもある一つの構造体となっており、それ自体が十層に分かれた都市であった。星形の五つの先端にはそれぞれに、高さが二千メートルはある塔が建てられて、鳴り響く鐘はその塔の最上部にある。
ゆっくりと…一定間隔で鳴る響く鐘を聴覚に捉えつつ、イシャー・ホーガンの中央に設けられたドーム状の大聖堂では、およそ十三万人の信徒を前に、壇上に立つ宗大師ケーニルス=イーゴンが摂理を説いていた。
ケーニルスは五十代半ばのヒト種で、スキンヘッドに細い眉。そして意志の強そうな大きな眼が特徴である。身に纏うゆったりとした白銀の法衣には、錦糸で瀟洒な刺繍が施されている。
「…であるからにして、時間と空間を超越する輪廻こそが、真なる進化。我等をさらなる高き存在へと導くのであります。死は生の終焉ではありません。解脱した魂は空間の紐を紡ぎ、輪廻の流れに乗ってまた甦る。我等の体を構成する遺伝子がそうであるように、空間の紐は輪廻を繰り返す事によって螺旋となり、未来へ…さらなる高き存在へと向かっていくのであります」
イーゴン教は、一神教でもなければ多神教でもない。科学を肯定し、科学文明の発展と魂の輪廻が、宇宙に住まう知的生命体を、より高位の存在へ進化させていくという事を教義の第一としている。
「今の生涯の終わりが、次の生涯をさらに飛躍させるための礎となるよう、日々己が研鑽に努めようではありませんか!!」
ケーニルスが声量を上げて訴えると、大聖堂に集まった十三万人を超える聴衆は一斉に、「おおおおお…」と波濤のような感嘆の声を漏らし、次いでそれは歓声に変わった。
その歓喜の声の中、説教を終えたケーニルス=イーゴンは、胸の前でイーゴン式に両手を組み、深く、慎まやかに一礼する。それでもなお霧に包まれたイシャー・ホーガンに、今朝も宗大師を讃える信徒の声と拍手の止むことは無かった………
▶#01につづく
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