銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第10話:花の都へ風雲児

#08

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 『クォルガルード』がキラメルラ宇宙港に到着すると、ノヴァルナ達は早速、艦の格納庫にBSIユニットとともに、積み込んでいたバイクを持ち出した。艦が補給と整備を行う間、フェアンの要望を容れて、ルシナスの海洋娯楽施設へ向かう事にしたのである。

「行くぞ、てめぇら!」

 ノヴァルナの号令で、キラメルラの街に繰り出したバイクは全部で十一台。これに、ノヴァルナのバイクのタンデムシートにはマリーナ。ノアのバイクのタンデムシートにはフェアンが乗っていた。目指すは水着を買うためのショッピングモールだ。

「私、こういう田舎の暴走族みたいなノリ、好きじゃないんだけどなぁ…」

 徒党を組んで荒っぽい運転を見せるノヴァルナと『ホロウシュ』に、その中に加わっているノアは苦笑を浮かべる。『ホロウシュ』達はナグヤ時代のノヴァルナとの暴走行為が身に沁みついているのか、つい車体を左右に振ったりしてしまう者もいるからだ。
 ノアの独り言を、ヘルメットに内蔵された通話装置で聞いた、タンデムシートのフェアンは提案する。

「ねぇ、ノア義姉様ねえさまぁ。ノヴァルナ兄様にいさまを、ブッちぎっちゃおうよぉ!」

 フェアンはフェアンで、兄のバイクの後部座席に、姉のマリーナが乗っているのが面白くないのだった。人懐こさが取り柄の一つのフェアンは、ノアの事も最初に出会った時から大好きなのだが、それでも兄の後部座席に座る意味は別次元だ。
 そんなフェアンを、ノアも気に入っていた。ノヴァルナの婚約者として、以前のナグヤ=ウォーダ家に来て、右も左もわからない状態で、一番最初に懐いてきてくれたのがフェアンだったからだ。

「そうね。やっちゃおうか」

 フェアンの言葉に乗っかって、ニコリと微笑んだノアは、バイクのスロットルを上げた。加速を始めるノアとフェアンのバイク。本人が聞いたら絶対に全否定するはずだが、元々お転婆姫のノアであるから、乗り気になっても不思議ではない。
 速度を上げたノアのバイクは、先頭を走っていたノヴァルナを追い抜いて、さらに距離を取り始める。

「兄様、おっ先ぃーーーー!」

 後ろを振り返って手を振るフェアン。

「んああ!?」

 しかめっ面をしたノヴァルナは、タンデムシートのマリーナに告げた。

「マリーナ、しっかり掴まってろ!」

 ノヴァルナとしては、ノアとフェアンからの挑戦を、受けて立たないわけにはいかない。そうでなくともこのところ、ノアのバイクの運転技術が向上し、押され気味になっているからだ。
 
 飛び出していったノアとノヴァルナに慌てたのは、『ホロウシュ』とカレンガミノ姉妹である。徒党を組んで暴走族感を出しているが、彼等はノアとノヴァルナの護衛の役目を担っているからだ。
 しかし本気を出して走り出したノアとノヴァルナには、『ホロウシュ』達の腕を持ってしても、なかなか追いつく事が出来ない。しかもタンデムシートにマリーナやフェアンを乗せてはいても、ノアとノヴァルナが操るバイク『ルキランZVC-686R』は、マニアから“お宝”と呼ばれているほど、『ホロウシュ』達の乗るバイクと性能において、一線を画しているのだ。

「いっちゃーーく!」

 目指すショッピングモールの駐車場に、僅差で先に到着したノアのバイクから、跳ねるように降りたフェアンがはしゃいで言う。それに対し遅れて着いたノヴァルナは、ヘルメットを脱ぎながら、負け惜しみっぽく言い返した。

「へん。まぁ乗ってるヤツの、体重差ってトコだな」

 するとそれに反応したのは、ノヴァルナのバイクのタンデムシートに座っていたマリーナである。

「ちょっと、兄上。聞き捨てなりませんわね。体重差とはどういう意味でしょう?…まるでわたくしが、イチより―――」

「いやいやいや、俺の体重って話だろ」

 困惑気味に取り繕うノヴァルナの様子にノアは苦笑した。ちょくちょく妙なところでノヴァルナに突っかかるマリーナだが、ノヴァルナのもとへ来て以来、これがこの子の兄に対する甘え方なのだと、理解できるようになったからだ。

 やがて『ホロウシュ』達も到着し、一番最後になったナルマルザ=ササーラに、ノヴァルナは言い放った。

「おーし。今日の昼メシは、ササーラのおごりだかんな!」

「えええっ!?」

 いかつい容姿に似合わず頓狂な声を上げたササーラに、ノヴァルナは「アッハハハハ!」と、いつもの如く高笑いを放つ。

「ほら、兄様。早くお買い物行こう!」

 ノヴァルナの手を取ったフェアンは、もう片方の手でノアの手を取り、「ノア義姉様も早くー!」と明るい声を出して、ショッピングモールの入り口に向けて引っ張りだした。ノヴァルナとノアをまとめて独り占めしようとする積極的なフェアンに、さすがのマリーナも内心穏やかでない声で告げる。

「もぅ、イチ。お待ちなさい!」

 フェアンを追って行くマリーナの後ろ姿に、ササーラは目を細めた。そこにランが歩いて来て隣に立つ。

「こうして見ると…カルツェ様をお許しになられた、二年前のノヴァルナ様のご判断…間違いではなかったのかも知れんな」

 ササーラの言葉に「そうだな…」と応じるラン。二年前の叛乱の時、もし降伏したカルツェをノヴァルナが処刑していたら、この兄と妹達は今のような仲でいられたであろうか…親衛隊としてノヴァルナに忠義を尽くすのは無論だが、一方でこの年下の若者を見守る年長者の観点から、純粋に人としてのノヴァルナの幸福を願わずにはいられなかった。

 そんな二人の想いを知ってか知らずか、フェアンは朗らかに言った。

「兄様も義姉様ねえさまも、あたし大好き!」



 同じ頃、オ・ワーリ宙域とミ・ガーワ宙域を隔てる国境付近―――

 マスラナークと呼ばれるその惑星は、およそ百年前に廃棄された銀河皇国の植民星であった。元は入植計画に不備があり、予定された数の入植者が集まらなかった事が発端だが、廃棄を決定的にした理由は惑星環境の改造に失敗し、年間平均気温が一気に五度も上昇、惑星全土で砂漠化が起き始めたためである。

 ただこの惑星マスラナークには、現在も住んでいる者がいる。それはこのマスラナークが、オ・ワーリ宙域とミ・ガーワ宙域を結ぶ、非合法の交易中継地の一つとなっているからだ。しかし非合法であっても売上金の一部を、この周辺を勢力下に置くオ・ワーリ宙域とミ・ガーワ宙域、双方の独立管領に収めているため、取り締まられる恐れはほとんどない。

 赤茶色の砂煙が舞う、廃墟に近い都市。かつてマスラナークの首都となるはずであった都市だ。その中心部に立つ三角柱のタワービルには、窓の幾つかに明かりが点いている。ビルの周辺は他の建物を建てるための整備地のままで、そこに何隻もの貨物宇宙船が着陸していた。このタワービルがいわゆる“交易ステーション”というわけである。

 その明かりが灯る一室にカーネギー=シヴァはいた。側近のキッツァートと共に質素な椅子に腰かけている。どうやらここは商談室のようで、椅子とテーブルのワンセットごとに仕切板が区切っており、ブース分けされていた。実際カーネギー姫の前後のブースでは、片方でヒト種と異星人、もう片方で異星人同士が商談中のようである。

 こういう場所は初めてなのか、カーネギーは時々不安げに辺りに目を遣る。一方のユーリスは内心では分からないが、少なくとも見た目は平静そうだった。

 そこに仕切板の開口部を軽くノックする音が聞こえ、カーネギーは僅かに肩をすくめてそちらを振り向く。すると視線の先に船員姿の三人の男。一人は見覚えのある顔だ。それはウォーダ家とイマーガラ家を停戦状態へ持ち込むため二年前、カーネギーが友好協定を結んだ、旧ミ・ガーワ宙域領主で皇国貴族キラルーク家の当主ライアンだった。現在はイマーガラ家で家老職にあるライアンは、カーネギーと目を合わせると、表情を緩めて会釈し、カーネギーの向かい側に座る。そしてあと二人の男もライアンの隣に座る。

「お久しゅう、カーネギー姫。このようなところまでご足労をかけて、申し訳ありません」

 ライアンが詫びを入れると、カーネギーは緊張した表情のまま「い、いいえ…こちらこそ此度はご手配、痛み入ります」と応じた。ライアンは一つ頷くと、同行して来た二人の男を紹介した。

「こちらは皇国貴族イズバルト家の御当主ジョルダ殿。そしてこちらがニノージョン星系独立管領のトルドー=ハルトリス殿…お二方とも、かねてから申し上げておりました通り、オ・ワーリ宙域におけるノヴァルナ様の治世を、良くは思っておられませぬゆえ、我らの思いに賛同したいと―――」




 

▶#09につづく
 
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