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第11話:銀河道中風雲児
#09
しおりを挟む同じ頃、ノヴァルナ達とは別ルートでアルーマ天光閣へ帰るノアも、すっかりご立腹だった。無論さっきのノヴァルナが、露天風呂でやらかした事に対してだ。
“…まったく、何よあいつ。いつもムチャクチャだけど、今日は特に分別が無いのにも程があるわ!”
ノア的には自分の裸を見られるのはともかく、他の女性達の裸までノヴァルナが眼にしたのが面白くない。後ろの方で女性『ホロウシュ』のキュエルが、「さっきのノヴァルナ様、サイテーだよね」と、小声で誰かに愚痴るのが聞こえて来る。それに対してノアは、自分の事のように顔を赤らめた。
すると向こうの方で複数の男達の喚声が聞こえて来始める。ノヴァルナ達が例の大男達に殴り掛かったのだ。ただ事情を知らないノア達は、またノヴァルナ達が悪ふざけを始めたのだと勘違いする。
「ねー、マリーナ姉様。向こうの方でまた兄様達が騒いでるよ」
フェアンが告げると、マリーナは呆れたような口調で応じた。
「ほんと…みんな、子供なんだから」
ところが、こちらにも怪しい男達が二十人ほど、前方からやって来る。ノヴァルナ達の方へ現れた大男と対照的に、こちらはスキンヘッドの左側に髑髏のタトゥーを入れた、目つきの悪い男が率いていた。
この連中の姿を見て、ランがさりげなく先頭へ出る。スキンヘッドの男はニヤつきながら、ノア達に近づいて来て口を開いた。
「こいつぁ、なんともまた…キレイどころが、揃ってるじゃねぇか?」
さらにスキンヘッドの男の傍らに、小太りの男が出て来て、同じようにニヤつきながら言う。
「うひょう。マジ、いいオンナばかりだぜ!」
それに対して表情を殺したランが、抑揚の無い声で応じた。
「何か用ですか?」
だがランの姿を、上から下まで舐めるように見たスキンヘッドの男は、問い掛けに答えず、小太りの男に語り掛ける。
「見ろよ、このネーチャン。すげぇ美人の宇宙ギツネだぜ」
その“宇宙ギツネ”という言葉に、女性『ホロウシュ』やノヴァルナの妹達は、サッ!…と顔色を変え、目付きを鋭くした。“宇宙ギツネ”とはランの種族、フォクシア星人を揶揄する蔑称だからだ。もしこの場にノヴァルナがいたなら、瞬時に男達を殴り飛ばしていたであろう。しかし当のランは動じる素振りもなく、男達に告げる。
「用が無いなら、通して下さい」
「用ならあるぜぇ―――」とスキンヘッドの男。
「折角こうして鉢合わせしたんだし。俺達と飲みに行かねぇか?」
「お断りします」
明確に即答するラン。それでも二人の男は粘着質の視線をランに注いで、さらに言い放った。
「いいじゃねぇか、ネーチャン。あんたみたいな美人の宇宙ギツネは、見た事ねぇんだ。楽しもうぜ」
「そういやさぁ、宇宙ギツネの女は抱かれてもいい相手にしか、尻尾を触らせねぇとかいう話…あれ、本当なのかぁ?」
「………」
ランが黙っていると、小太りの男は有ろうことか、ランの尻尾に手を伸ばそうとする。愛してもいない者に意識的に尻尾を触られるのは、フォクシア星人にとって屈辱以外の何ものでもない。
「おら、なんとか言えよ」
その時、小太りの男の手をランではなく、ノアの手がピシャリと払いのけた。
「いい加減にしなさい!」
強い口調で小太りの男を詰るノア。
「ああん?…なんだ、ねーちゃん」
挑戦的な眼を向けて来る小太りの男だが、普段からノヴァルナと互角以上に張り合っている、気の強いノアがその程度で怯むはずもない。
「彼女は私の友人です。侮辱的な言葉は許しません!」
ノアにそう言われて、ランは僅かに目を見開いた。ラン自身もノヴァルナの婚約者であるノア姫との、微妙な距離感を日頃から密かに意識していたからだ。
「ほぉお。許さないなら、どうするってんだァ!?」
スキンヘッドの男が、これ見よがしにノアに絡んで来る。そして小太りの男は、再びランの尻尾を掴もうとする。それを見たノアはランに命じる。
「フォレスタ。交戦を許可!」
その言葉が終わらないうちに、ランは小太りの男の手首を掴み、捩じり上げていた。「いててててて!」と情けない声を出す小太りの男。ノアには分かっていた。ランが実力で抵抗しようとしないのは、命令がないからだと。ノアやノヴァルナの妹の護衛が任務であって、自分に絡んで来る相手に対して独断で抵抗し、問題を大きくするわけにはいかないのだ。だからノアはランに交戦を許可したのである。
「この女。痛い目、見てぇのか!!」
スキンヘッドの男が、目の前のノアに掴みかかろうとする。素早くノアが下がると、両脇からノアの護衛役のメイアとマイアが進み出て、二人同時でスキンヘッドの男を殴りつけた。
そんなランとカレンガミノ姉妹に、男の仲間達が襲い掛かろうとするがジュゼ=ナ・カーガ、キュエル=ヒーラー、キスティス=ハーシェルの三人も飛び出して迎え撃つ。三人も上官のランに対する侮蔑的な言葉を、腹に据えかねていたのだ。
三人とも元は若手の男性『ホロウシュ』と同じく、ナグヤ市のスラム街で暮らしていた名うてのならず者少女で、暴力沙汰も日常茶飯事。それがノヴァルナに召し抱えられてから格闘術を学び、並みの男では太刀打ちできないまでになっている。下顎への強烈なパンチ、膝を砕くローキックに相手を失神させる首締めと、群がる男どもを次々と排除する。
そして当然、荒々しいだけの男がランとカレンガミノ姉妹とまとも戦って、勝ち目など全くなかった。二人、三人と、競い合うように向かって来る相手を、路上へ打ち倒してゆく。ノアも充分戦えるだけの技量は持っているが、ここは後退して、フェアンとマリーナを背後に庇っていた。
そのノアが感じたところでは、男達は単に自分達と偶然出くわしたのではなく、意図的であるように思える。そこでノアはカレンガミノ姉妹に指示を出した。
「メイア、マイア。最初に絡んで来た者を捕らえて。何らかの目的があったのか、尋問するのです」
命令を聞いたメイアとマイアは、足元を四つん這いになって逃げ去ろうとする、スキンヘッドの男の尻を、二人同時で蹴り飛ばした………
▶#10につづく
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