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第12話:風雲児あばれ旅
#07
しおりを挟む避難者が集まって来る天光閣では、『オ・カーミ』のエテルナや従業員に交じって、キノッサがネイミアと彼女の連れの二人と共に、エントランス前で逃げて来る人々を迎え入れていた。
「皆さん、大丈夫ッスよ。慌てないで奥へどうぞ!」
「落ち着いて。怪我をなさった方はいませんか?」
そんな二人の耳に、傭兵達のBSIの足音が響いて来る。その方向を振り向くキノッサとネイミア。見れば一機の『ミツルギ』が、天光閣の向かい側の緩やかな坂を降りようとしていた。威嚇に超電磁ライフルの銃口がこちらを向いている。同様にそれを見た、避難者達から一斉に悲鳴が上がる。
「キーツ!」
怯えた表情でキノッサに駆け寄るネイミア。
「ネイも建物の中に入るッス!」
「でもまだ外に人が!」
クッ!…と歯を食いしばり、キノッサはこちらに銃口を向けている『ミツルギ』を、鋭い眼差しで睨みつけた。
その超電磁ライフルを構えている『ミツルギ』のパイロットへ、隊長のウォドルから通信が入る。
「おい。ライフルは使うな。威力があり過ぎる」
それに対し、パイロットは舌なめずりをして応じた。
「へへ。大丈夫ですって。屋根を掠めるだけです」
そうは言いながらも、屋根の一部を破壊して落下した瓦礫に当たり、人死にが出る可能性までは口にしない。むしろそういったものを期待している表情だ。『ミツルギ』の指が超電磁ライフルのトリガーを引こうとする。
するとその時―――
まずアルーマ峡谷上空にやや離れて待機していた、『アクレイド傭兵団』の大型輸送艦の絃側に爆発が起きた。
何事かと上空を見上げる『ミツルギ』のパイロット達。その中には天光閣の屋根を撃ち抜こうとしていたパイロットもいる。爆発が起きた大型輸送艦は、黒煙を上げながら緊急退避を開始。その脇を通過する青いビーム。やがて『アクレイド傭兵団』の船と入れ替わりに、アルーマ峡谷上空に進入してきたのは戦闘輸送艦『クォルガルード』だ。
身構える傭兵団の『ミツルギ』の頭上で、『クォルガルード』の舷側の扉が開いて、二つの人型機動兵器が、晴れたアルーマ峡谷の空を背景に、黒いシルエットとなって飛び出した。
「BSIユニットだと!?」
ウォドルが叫ぶと、一機が空中で超電磁ライフルぶっ放す。放たれた銃弾は、天光閣を狙っていた『ミツルギ』の頭部を粉々に砕いて、尻餅をつかせた。そこへもう一機が追い打ち、両腕を破壊して瞬時に戦闘力を奪う。
その間につむじ風を起こして着地した、二機の人型機動兵器を見て、ウォドルは呻くように言った。
「あれはBSIじゃねぇ…BSHOか!?」
地上に舞い降りし二機のBSHO.黒銀色に輝くボディの一機、その左のショルダーアーマーに描かれる家紋は『流星揚羽蝶』―――
クリムゾンレッドとジェットブラックのボディも美しいもう一機、その左のショルダーアーマーに描かれるは『打波五光星』―――
陸戦仕様『ミツルギ』に乗るパイロットの一人が、「なんだ、てめぇらは!?」と誰何する。待ってましたとばかりに応える、黒銀色のBSHOのパイロット。
「なに、知らざぁ言って聞かせてやるぜ。悪党共、よっく聞きやがれ!」
そう言っておいて一拍置き、あとは一気に名乗りを上げる。
「遍く銀河に知ろしめす、天下御免の風雲児。疾風迅雷、電光石火。オ・ワーリ、ウォーダの家に生を受け、悪評判もなんのその、守歌代わりに高枕。囲む敵にも怯まずに、八面六臂で打ち破る。泣く子も黙る古今無双の星大名、ノヴァルナ・ダン=ウォーダたぁ、俺のこった。恐れ入ったか!!!!」
「………」
まるでどこかの星の古典文芸のような、芝居じみた名乗り口上を聞かされて、唖然とする『アクレイド傭兵団』。『センクウNX』に乗るノヴァルナは、満足げな表情でノアの『サイウンCN』を振り向いて告げる。
「どだ? カッコよくキマッたろ?」
だがノアはため息交じりに言い返した。
「まぁ…いつかみたいに、『ムシャレンジャー』の名乗りをやられるよりは、マシでしょうけど…」
「それな。実はどっちやるか、迷ったんだよなぁ…」
「迷わなくてよろしい」
冷たく突き放すノアだったが、そう言いながらも、ノヴァルナが名乗りを終えるまでに相手が攻撃してきた場合に備え、即座にライフルを撃てるよう、邪魔をさせない反撃態勢を取っていた。結局はノアも、こういうノリは嫌いではないらしい。
しかも『アクレイド傭兵団』に生じたその隙を突くように、『クォルガルード』が四つの飛翔体を射出する。それは空中で六本の細いフレームを伸ばすと、その間にエネルギーシールドを展開した。大型戦闘艦が艦隊戦で使用する、遠隔操作式の防御兵器AES(アクティブエネルギーシールド)だ。
エネルギーシールドを展開した四基のAESは急降下し、四方から天光閣を囲むように地上スレスレで制止した。こうなるともはや天光閣に、銃撃を浴びせる事は不可能である。
「ノヴァルナ・ダン=ウォーダ…だと?」
全周波数帯で放った名乗りを聞いて、レバントンは頬の筋肉を引き攣らせた。一方のウォドルは歯噛みしながら、疑念を口にする。
「襲撃を二日早めたのが…なぜ分かった!?」
それを聞いたノヴァルナは「アッハハハハハ!」と高笑い。煌めく眼光でずばりと言ってのけた。
「てめぇら三下悪党の考えなんざぁ、こちとら端からお見通しよ!!」
▶#08につづく
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