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第12話:風雲児あばれ旅
#13
しおりを挟む『クォルガルード』の乗員を使った人海戦術で、ノヴァルナらが戦闘で発生した瓦礫などを集め終えたのは翌日の夕方であった。その間に『クォルガルード』は、戦闘で軽傷を負った旅館従業員や、観光客の治療も行っている。
同じ日の午後には、見慣れないシャトルが降下して来て、『アクレイド傭兵団』のエージェントと名乗る男が、ノヴァルナのもとを訪れた。今回の件に対する補償についての、子細な擦り合わせが目的だということであり、これにノヴァルナは、エテルナら旅館主達と直接交渉するように命じる。迅速な対応を見せた辺り、あのハノーヴァという人物の真意はともかく、補償に関しては筋を通すつもりのようである。
「そんじゃまぁ…そろそろ行くか」
概ね道筋はついたと判断したノヴァルナが、そう切り出したのは瓦礫の片づけに目途がついた、その日の夕食の場だった。自分達の目的は皇都キヨウを訪れる事であって、行程から言えばまだ半分しか来ていないのだ。それにすでに、この惑星ガヌーバで四日も余分に時間を使っていた。
「ようやくご出立?」
『ホロウシュ』達と一堂に会した夕食の席で、ノヴァルナの隣に座るノアが、ようやく自分達の旅の目的を思い出したのか?…と言わんばかりに問い質す。
「おう…んで、次の立ち寄り先は、どこだったっけか?」
これだもの…と、小さく頭を左右に振ったノアは、次の寄港地を告げた。
「レンダ星系第三惑星リスラントよ」
「おう、それそれ。じゃ、明日の朝、出発な」
唐突な物言いだが、『ホロウシュ』は黙ってお辞儀をした。自分達の主君のこういった言動には、もう慣らされてしまっているからだ。
するとその直後、末席にしたトゥ・キーツ=キノッサが何を思ったか、跳ね上がるように立ち上がり、直立不動の姿勢を取ると、「ノヴァルナ様!」と大声で呼びかけた。片方の眉を上げ、怪訝そうな顔をしたノヴァルナはキノッサに尋ねる。
「なんだ? キノッサ」
「お願いがございます!!!!」
ノヴァルナを呼んだ時より、さらに大きな声で告げるキノッサ。隣に座っていたセゾ=イーテスがその声の大きさに、迷惑そうに顔を背けた。
「なんだ?…いいから言ってみ?」
主君の問いに、キノッサはいつにない硬い表情で答える。
「事のついでに、ネイミアの星を救ってやって頂きたく、このキノッサ、一生のお願いを申し上げまする!」
それを聞いたノヴァルナはますます怪訝そうな顔になった。
「はぁ? 小賢しいてめーが、“一生のお願い”だと?…それにネイミアってなぁなんだ?…人か?」
ネイミアの名を出されても、すぐにピンと来ないノヴァルナに、ノアが肩を軽く叩いて教える。
「ネイミアって、ほら。キノッサが助けた、ならず者に襲われてた女の子」
「あー」
一瞬天井を見上げて、間の抜けた返事をしたノヴァルナだったが、女絡みと知ると、すぐに人の悪い笑みを浮かべた。
「話を聞こうじゃねーか。キノッサ、こっち来い!」
「ははっ!」
硬い表情のままノヴァルナの前へ、小走りに駆け寄るキノッサ。対するノヴァルナも人の悪い笑みのまま、問いかける。
「んで? おめーの女が、どうしたって?」
隣のノアが、ノヴァルナの横柄な物言いに「ちょっと!…」と注意し、底意地の悪さを窘める。ただキノッサも自分が仕えるノヴァルナの性格は知っていた。この程度の圧力に屈するぐらいなら、“一生のお願い”などと口にするな、という意味合いだ。
他の『ホロウシュ』達もニヤニヤとプレッシャーをかけ始める中、キノッサは真面目な口調でノヴァルナの問いに応じた。
「私の女ではありません。彼女はネイミア=マルストス。彼女の故郷の惑星ザーランダは危機に瀕しており、救援の手を求めて周辺の星々を巡っていたのです」
「ふーん…」
気のない返事をするノヴァルナだが、隣でその横顔を眺めていたノアは、“あらら…”という表情を浮かべる。表向きは大して興味が無さそうな反応であっても、その実は眼がキラキラと輝いている事に気付いたからだ。
ノアが視線をキノッサに移すと、キノッサはいつもの、どこかふざけたような態度も見せず、ノヴァルナに訴えていた。
「じ、実はノヴァルナ様にお会い頂こうと、隣の間に本人を待たせております。まずは本人の訴えを聞いて頂いて、ご判断を」
「わかった。呼んで来い」
ノヴァルナが頷いて応じると、キノッサは再び小走りになり、部屋を後にする。そしてものの一分も経たないうちに、ネイミアと連れの二人の男を連れて、戻って来た。ネイミアとは一応の面識があるノヴァルナだったが、会ったのが留守中の襲撃後でゴタゴタしていた時であり、ちゃんとした面会は初めてとなる。
キノッサに促され、神妙な面持ちでノヴァルナの前に進み出たネイミアと、二人の連れの男はその場で片膝をついた。改めて見るネイミアは栗毛のショートヘアが健康的で、純朴な雰囲気の中に可憐な印象がある。
「今更、はじめましての挨拶もなんだが…俺はノヴァルナ・ダン=ウォーダ。こう見えてもキオ・スー=ウォーダ家の当主だ」
ノヴァルナがそう言うと、ネイミアはぎこちなさを感じる声で挨拶した。
「わ…惑星ザーランダから参りました、ネイミア=マルストスと申します。こっちのふ…二人は、ロクスークとヘイファーツ。私の父が経営する農園の従業員です」
「…で? 俺に何をどうして欲しいって?」
椅子の背もたれに寄りかかり、胸をそらし気味にして、ここでもあえて突き放すような言い方をするノヴァルナ。ただ緊張はしても、ネイミアの眼差しには強い意志が宿っていた。
「ノヴァルナ殿下に、私の惑星を救って頂きたいのです」
「それは今、コイツから聞いた―――」
キノッサを指差したノヴァルナは、さらに尋ねる。
「しかし“惑星を救え”とは、また随分デカい話じゃねーか。どういう事だ?」
ノヴァルナの求めに応じて、ネイミアは事情を話し始めた。
ネイミアの住む惑星ザーランダは中立宙域の、キヨウ宙域側の端にあり、オウ・ルミル宙域星大名ロッガ家の領域近くにある。農業と畜産業、そして漁業といった第一次産業が主体の植民惑星だ。
ザーランダが第四惑星として属するユジェンダルバ星系は、ある皇国貴族が領有する荘園星系であったが、三年前のミョルジ家のヤヴァルト宙域侵攻で、支配していた貴族は、有力貴族ハル・モートン=ホルソミカと共に、エテューゼ宙域に逃亡した。
支配貴族に放置されたユジェンダルバ星系は、中央から派遣された星系防衛艦隊の士官までも撤退。事実上の防衛戦力がゼロとなってしまった。そこへ現れるようになったのが、ミョルジ家との戦いに敗れた旧皇国軍艦隊の残党である。
彼等はユジェンダルバ星系から、約11光年離れたリガント星系に根城を置き、周辺の植民惑星を荒らし始めた。
皇国軍残党のやり口は周到で、使用可能な対宇宙火器を保有している惑星には手を出さず、ザーランダのような防衛力のない惑星を襲う。しかも全てを略奪するのではなく、住民がギリギリのレベルで生活できるだけの物資は残していくのだ。つまり“生かさず殺さず”の状況というわけである。そして半年ごとに残党は、宇宙艦隊で生産品を収奪に訪れるのであった。
「私達をはじめ、略奪を受けている植民惑星は、この窮状を皇国や近くのロッガ家に訴えましたが、いずれも取り合ってもらえず…最後の手段として、戦って頂ける方を自分達の手で探そうと、旅に出たのです」
ここまでの経緯に続き、旅の目的を告げたネイミアに、ノヴァルナは淡々と言葉を返す。
「…で、俺に白羽の矢を立てたってワケか」
「無理で勝手なお願いだと承知しています。しかしそこを何とか私達に、お力を!…お力をお貸しください!」
「………」
無言でネイミア達を見据えるノヴァルナに、キノッサはゴクリ…と喉を鳴らした。
▶#14につづく
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