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第13話:烈風、疾風、風雲児
#18
しおりを挟む一方、ノア姫とノヴァルナの二人の妹を乗せた『ラブリー・ドーター』は、二日をかけて、皇都星系ヤヴァルトへ到着した。『クーギス党』で一番の快速輸送艦ならではの早さであり、他の船であったならば、さらに一日かかるとこだ。
ラウンジの船窓から見える宇宙空間は変り映えはしないが、それを眺めるノアには感慨があった。
それはおよそ三年前、ノアは皇都惑星キヨウの、キヨウ皇国大学へ留学していたからだ。その頃はまだ父ドゥ・ザンと母オルミラは健在で、次元物理学を学びながらも、星大名家の姫として、父の望む相手との政略結婚の定めを、受け入れていたのである。
ところが、ヤヴァルト宙域と皇都へのミョルジ家の侵攻が高まったため、ノアは母国のミノネリラへ戻る事となった。そしてその途中、ノヴァルナ・ダン=ウォーダという若者と、運命的な出逢いを果たしたのだ。
“ノバくん、ちゃんとご飯食べてるかなぁ?………”
感慨に思いを巡らせても、結局はノヴァルナの事に行き着いてしまう自分に、ノアは苦笑いを浮かべた。すると向かい側に座るマリーナとフェアンが、ノアの表情に気付いて口を開く。
「あ、ノア義姉様ニヤニヤ…ノヴァルナ兄様の事、考えてたんでしょお?」
「ん?…え?…ええっ?…」
軽い感じと裏腹に洞察力の鋭いフェアンの、ズバリとした指摘にノアはたじろがずにいられなかった。ノアのそんな態度に反応し、マリーナが落ち着き払った声で告げる。
「義姉様がご心肺なさらずとも、兄上でしたら義姉様のお言いつけ通り、ちゃんと食事をとられていますわ」
なんでそれが分かった!?…という眼をするノアは、胸の内で呟いた。
“やっぱりこの子達…侮れないわね”
そこへ艦を指揮している『クーギス党』の頭領、ヨッズダルガがやって来る。
「ノア姫さん、妹姫さん達。もうあと五時間ほどで、キヨウに着くぜ」
武骨で荒くれ者のヨッズダルガだが、それでも大事な客人だけに、ノアやノヴァルナの妹達に対する口調には気遣いが感じられた。
「ありがとうございます」
明るく礼を言うノアだが、ヨッズダルガの表情はどこか緊張しているようだ。そしてその理由はすぐ判明する。
「そんで…悪いが、警戒態勢に入らせてもらう」
それを聞いて眉をひそめるノア。
「警戒態勢…ですか?」
「ああ…実は、キヨウの航路管制局から通告があってな。キヨウ周辺で、略奪集団が出現してるらしい」
「略奪集団?」
頷いたヨッズダルガは、片手で頭を掻きながら応じた。
「時々現れては、キヨウを荒らし回っててな。だが心配ねぇ。『ホロウシュ』の嬢ちゃん達が護衛に出てくれる」
ノヴァルナはノアや妹達の護衛としてジュゼ=ナ・カーガ、キュエル=ヒーラーにキスティス=ハーシェルの三人の女性『ホロウシュ』を、専用機の親衛隊仕様機『シデンSC』と共に、『ラブリー・ドーター』へ送り込んでいたのである。
三人は輸送艦『ラブリー・ドーター』の船倉に置かれた、自分の機体の中ですでに待機している。そしてさらに同じ船倉にはノアの『サイウンCN』と、カレンガミノ姉妹の『ライカSC』も置かれていた。その代わり、『ラブリー・ドーター』が普段搭載している海賊船―――宙雷艇を改造したものは全て、乗員ごとノヴァルナの『クォルガルード』へ運び込まれている。
ヨッズダルガの言葉を聞き、傍らに控えていたメイアとマイアの、カレンガミノ双子姉妹が、二人同時に席を立ち、声を揃えてノアに問いかけた。
「私達も出ましょうか?」
それに対しノアは、首を左右に振って告げる。
「いいえ。ここは『ホロウシュ』に任せましょう。貴女達は一応『ライカ』に搭乗して待機。援護態勢をお願いします」
そして最後に、「私の『サイウン』も、出られるようにしておいて下さい」と付け加え、椅子に座り直した。さらにヨッズダルガに振り向いたノアは、「では、頭領様。よろしくお願いしますね」と笑顔を見せる。
清楚な美女からそう言われては、ヨッズダルガも気合が入ろうというものだ。
「おおぅ、任せとくんなせぇ!!」
フェアンがびっくりして、指で耳を塞ぐほどの出したヨッズダルガは、自分の胸板を拳でドン!…と叩いた。その後ろ姿を微笑ましく見送ったノアは、マリーナとフェアンに小さく頷いて見せた。
「二人とも、心配しなくて大丈夫よ」
それを聞いてフェアンは明るく「もっちろん!」と応じ、マリーナは無言で頷き返す。ノヴァルナの親衛隊、『ホロウシュ』の強さは尋常ではなく、カレンガミノ姉妹の強さはそれを上回る。しかもノアに至れば、ノヴァルナと互角に戦うほどのBSIパイロットだ。多少の事で動じる必要はない。
ただ再び船窓の外に眼を遣ったノアは、表情を引き締めた。皇都キヨウの治安が悪化しているとは聞いていたが、来訪して早々、自分達が略奪集団に対して、警戒態勢を取らねばならないとは思っていなかったからだ。すると立ち去ったばかりのヨッズダルガから、インターコムで連絡が入る。
「今、皇国貴族のヤーシナってお方から通信があってな。ミョルジ家に護衛艦を出してもらえるよう手配したそうだ。安心してくれだと」
状況の好転に胸を撫で下ろすノアだったが、その一方、護衛に出動したのが皇国軍ではなく、ミョルジ家の宇宙艦だというところに、今の皇国中央の世情を感じずにはいられなかった………
▶#19につづく
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