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第14話:死線を超える風雲児
#01
しおりを挟む戦闘輸送艦『クォルガルード』内部の通路に警報音が鳴り響き、赤く輝く“第一種戦闘態勢”と、“総員戦闘配置”のホログラム文字が、交互に等間隔で天井から抜け出るように降りて来て回転を始める。無論文字だけでなく、女性の電子音声がその言葉を繰り返す。その中を駆ける乗組員達。
一時間後にはもはや、この世に存在してはいないかも知れない命が、それぞれの持ち場に急いでいた。そしてそれはノヴァルナの命であっても同じである。
しかし“死のうは一定”を信条としているノヴァルナは、気負う様子もなく、普段通りの表情で艦橋へ姿を現した。
「ノヴァルナ殿下、艦橋へ」
ドアが開き、ノヴァルナが入って来ると、甲板士官が凛とした声で艦橋内の乗組員へ告げる。すると艦長のマグナー大佐以下、総員が席を立ってノヴァルナに振り向き、一礼した。
それに対し、やはりいつもと変わらず、“よ!”…と右手を軽く挙げたノヴァルナは、艦長席の背後に一段高くして置かれた司令官席へ、ドカリと腰を下ろす。それに合わせ、控えていたササーラとランがすかさず歩み寄って来て、ノヴァルナの傍らに控えた。
艦橋中央にはすでに戦術状況ホログラムが展開され、彼我の情報の主要なものが表示されている。それによると敵『ヴァンドルデン・フォース』艦隊との距離は、およそ1億3千万キロ。艦隊速力は双方の平均値が、光速の約18パーセント。今のままであれば、ほぼ20分後に接敵する計算だ。戦場は第七惑星と第六惑星の公転軌道の間の、第七惑星寄りになるだろう。
その時、オペレーターが新たな情報をもたらした。
「接敵中の哨戒駆逐艦から入電。敵艦隊の戦力、戦艦級3・重巡級2・軽巡級7・駆逐艦級8・軽空母1」
それは敵艦隊の陣容だった。最も重要な情報の一つである。ただこれを聞いたノヴァルナは、僅かに眉をひそめた。バグル=シルの交易ステーションで情報屋に聞いた数より、軽巡や駆逐艦の数が多いのだ。するとそれを察したのか、ササーラがぶっきらぼうに言う。
「数が情報より多いですな」
と言っても情報屋を責める気は、ノヴァルナには毛頭ない。こういった類の情報には多少の誤差はつきものだからである。
ただ、こちらの戦力が不足しているのは否めず、敵の数が情報より減るならともかく増えたのは、正直ありがたくないところだった。いざとなったら自分が『センクウNX』に乗って、出たとこ勝負…これもまた毎度の如くだ。ノヴァルナの顔には、いつもの不敵な笑みが浮かんでいた。
「ま、いいんじゃね?」
一方こちらは『ヴァンドルデン・フォース』の旗艦『ゴルワン』。全長五百メートルを超える巨艦だが、銀河皇国の『ラスマード』型戦艦の一隻で、標準的な艦隊型戦艦である。
『ヴァンドルデン・フォース』には他に二隻の戦艦があるが、どちらも『ゴルワン』より古い型の艦だった。艦隊型戦艦であるから、旗艦型戦艦のような司令部機能と設備は無く、艦橋には司令官席もない。したがって首領のラフ・ザスは、艦橋にいる時は、艦長の席を譲る旨の申し出を断って、ずっと立っていた。
当然、『ゴルワン』の艦橋にも戦術状況ホログラムが展開されており、『クーギス党』の海賊艦隊の情報を映し出している。それを眺めるラフ・ザスの、隣に立つBSI部隊長ベグン=ドフが、「バッハハハ!」と太鼓腹を揺らせて笑う。
「海賊風情が! 調子に乗って、植民星の用心棒を気取りやがって。艦隊戦で我等に対し、勝ち目があるつもりかよ!!」
愉快そうなドフを、冷静な口調で諫めるラフ・ザス。
「侮ってはいかんぞ、ドフ。奴等は宇宙海賊を名乗っているが、元は『シズマ恒星群十三人衆』筆頭の独立管領だ。実戦経験もある」
「そいつは分かってる。しかしその『十三人衆』の内紛で負けて、領地を追い出された負け犬だろ。叩き潰すさ」
それを聞いて表情の少ないラフ・ザスの顔に、微かな苦笑いが浮かんだ。
「負け犬…か」
そう言って一瞬、遠い眼をしたラフ・ザスだが、ドフの申し出に、現実に引き戻される。
「それはそうと首領。奴等の旗艦を俺の『リュウガ』でやらせてくれ」
「ほう…」
「そんでもって、俺がモルタナをとっ捕まえるから、成功したら褒美にあの女を、俺のモノにさせてもらいたいんだ」
ドフの下心剥き出しの言葉に、大きくため息をつくラフ・ザス。だがドフの専用BSHO『リュウガDC』の性能と、パイロットとしての技量は、ラフ・ザスも認めるところであった。才能と性格は別物だという証のような男が、このベグン=ドフであり、『ヴァンドルデン・フォース』の前身である銀河皇国第24恒星間打撃艦隊が、常に最終的な勝利を収めてきたのも、この男と率いるBSI部隊の活躍によるところが大きかったのである。
「わかった…女はくれてやる。好きにしろ。だが我等の勝利が最優先である事を、忘れるな」
「もちろんでさ!」
ニタリと笑い顔になるドフ。次いでラフ・ザスは冷厳な声で、艦橋にいる者達の全員に告げた。
「これは好機である。『クーギス党』艦隊を撃破したのち、我等は第四惑星ザーランダと、ユジェンダルバ星系のあらゆる有人施設に艦砲射撃を加え、完全に焦土と化す。これを果たし、映像を我等の支配する星系全てに流せば、反抗する気を奪えるだろう!…」
▶#02につづく
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