278 / 508
第14話:死線を超える風雲児
#01
しおりを挟む戦闘輸送艦『クォルガルード』内部の通路に警報音が鳴り響き、赤く輝く“第一種戦闘態勢”と、“総員戦闘配置”のホログラム文字が、交互に等間隔で天井から抜け出るように降りて来て回転を始める。無論文字だけでなく、女性の電子音声がその言葉を繰り返す。その中を駆ける乗組員達。
一時間後にはもはや、この世に存在してはいないかも知れない命が、それぞれの持ち場に急いでいた。そしてそれはノヴァルナの命であっても同じである。
しかし“死のうは一定”を信条としているノヴァルナは、気負う様子もなく、普段通りの表情で艦橋へ姿を現した。
「ノヴァルナ殿下、艦橋へ」
ドアが開き、ノヴァルナが入って来ると、甲板士官が凛とした声で艦橋内の乗組員へ告げる。すると艦長のマグナー大佐以下、総員が席を立ってノヴァルナに振り向き、一礼した。
それに対し、やはりいつもと変わらず、“よ!”…と右手を軽く挙げたノヴァルナは、艦長席の背後に一段高くして置かれた司令官席へ、ドカリと腰を下ろす。それに合わせ、控えていたササーラとランがすかさず歩み寄って来て、ノヴァルナの傍らに控えた。
艦橋中央にはすでに戦術状況ホログラムが展開され、彼我の情報の主要なものが表示されている。それによると敵『ヴァンドルデン・フォース』艦隊との距離は、およそ1億3千万キロ。艦隊速力は双方の平均値が、光速の約18パーセント。今のままであれば、ほぼ20分後に接敵する計算だ。戦場は第七惑星と第六惑星の公転軌道の間の、第七惑星寄りになるだろう。
その時、オペレーターが新たな情報をもたらした。
「接敵中の哨戒駆逐艦から入電。敵艦隊の戦力、戦艦級3・重巡級2・軽巡級7・駆逐艦級8・軽空母1」
それは敵艦隊の陣容だった。最も重要な情報の一つである。ただこれを聞いたノヴァルナは、僅かに眉をひそめた。バグル=シルの交易ステーションで情報屋に聞いた数より、軽巡や駆逐艦の数が多いのだ。するとそれを察したのか、ササーラがぶっきらぼうに言う。
「数が情報より多いですな」
と言っても情報屋を責める気は、ノヴァルナには毛頭ない。こういった類の情報には多少の誤差はつきものだからである。
ただ、こちらの戦力が不足しているのは否めず、敵の数が情報より減るならともかく増えたのは、正直ありがたくないところだった。いざとなったら自分が『センクウNX』に乗って、出たとこ勝負…これもまた毎度の如くだ。ノヴァルナの顔には、いつもの不敵な笑みが浮かんでいた。
「ま、いいんじゃね?」
一方こちらは『ヴァンドルデン・フォース』の旗艦『ゴルワン』。全長五百メートルを超える巨艦だが、銀河皇国の『ラスマード』型戦艦の一隻で、標準的な艦隊型戦艦である。
『ヴァンドルデン・フォース』には他に二隻の戦艦があるが、どちらも『ゴルワン』より古い型の艦だった。艦隊型戦艦であるから、旗艦型戦艦のような司令部機能と設備は無く、艦橋には司令官席もない。したがって首領のラフ・ザスは、艦橋にいる時は、艦長の席を譲る旨の申し出を断って、ずっと立っていた。
当然、『ゴルワン』の艦橋にも戦術状況ホログラムが展開されており、『クーギス党』の海賊艦隊の情報を映し出している。それを眺めるラフ・ザスの、隣に立つBSI部隊長ベグン=ドフが、「バッハハハ!」と太鼓腹を揺らせて笑う。
「海賊風情が! 調子に乗って、植民星の用心棒を気取りやがって。艦隊戦で我等に対し、勝ち目があるつもりかよ!!」
愉快そうなドフを、冷静な口調で諫めるラフ・ザス。
「侮ってはいかんぞ、ドフ。奴等は宇宙海賊を名乗っているが、元は『シズマ恒星群十三人衆』筆頭の独立管領だ。実戦経験もある」
「そいつは分かってる。しかしその『十三人衆』の内紛で負けて、領地を追い出された負け犬だろ。叩き潰すさ」
それを聞いて表情の少ないラフ・ザスの顔に、微かな苦笑いが浮かんだ。
「負け犬…か」
そう言って一瞬、遠い眼をしたラフ・ザスだが、ドフの申し出に、現実に引き戻される。
「それはそうと首領。奴等の旗艦を俺の『リュウガ』でやらせてくれ」
「ほう…」
「そんでもって、俺がモルタナをとっ捕まえるから、成功したら褒美にあの女を、俺のモノにさせてもらいたいんだ」
ドフの下心剥き出しの言葉に、大きくため息をつくラフ・ザス。だがドフの専用BSHO『リュウガDC』の性能と、パイロットとしての技量は、ラフ・ザスも認めるところであった。才能と性格は別物だという証のような男が、このベグン=ドフであり、『ヴァンドルデン・フォース』の前身である銀河皇国第24恒星間打撃艦隊が、常に最終的な勝利を収めてきたのも、この男と率いるBSI部隊の活躍によるところが大きかったのである。
「わかった…女はくれてやる。好きにしろ。だが我等の勝利が最優先である事を、忘れるな」
「もちろんでさ!」
ニタリと笑い顔になるドフ。次いでラフ・ザスは冷厳な声で、艦橋にいる者達の全員に告げた。
「これは好機である。『クーギス党』艦隊を撃破したのち、我等は第四惑星ザーランダと、ユジェンダルバ星系のあらゆる有人施設に艦砲射撃を加え、完全に焦土と化す。これを果たし、映像を我等の支配する星系全てに流せば、反抗する気を奪えるだろう!…」
▶#02につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる