銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第15話:風雲児VS星帥皇

#05

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 さて、ここで再び忘れ去られていた存在の、ギルターツ=イースキーが派遣したノヴァルナ殺害部隊である。

 キネイ=クーケン率いるイースキー家陸戦特殊部隊は、ノヴァルナの家臣でいまだに謀叛を企む、クラード=トゥズークから旅の行程情報を得て、中立宙域のアンソルヴァ星系第五惑星ルシナスで、ノヴァルナ一行を襲撃したものの失敗。
 その後彼等は、次のノヴァルナ達の寄港地ミートック星系第二惑星ガヌーバで、再度襲撃を計画したのだが、そこにギルターツの嫡男オルグターツから、思いもしなかった横槍が入り、部隊の指揮権をオルグターツが送り込んだ二人の側近にして愛人、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマに奪われてしまった。

 そしてビーダとラクシャスは惑星ガヌーバではなく、その次の寄港地レンダ星系第三惑星リスラントで、自分が連れて来た増援部隊と合わせた大規模な待ち伏せ作戦を行うよう命令を下したのだが、知っての通り、ノヴァルナ達はリスラントへは向かわず予定を変更して、ユジェンダルバ星系で『ヴァンドルデン・フォース』と戦ったため、彼等の待ち伏せは思い切り空振りしたのである。

 四日経っても五日経っても一向に現れないノヴァルナ達に、さすがにこれはおかしいと感じたビーダとラクシャスが、皇国の航路管理局のデータに何度目かのアクセスを行うと、なんと数日前に申請された『クォルガルード』の航路変更が、今更のように表示されていたのだった。
 これは現在の銀河皇国行政の杜撰さを、如実に表しているとも言える。かつてはほぼ、リアルタイムで表示されていた管理局の航路情報も、内乱による機能不全に陥ってこの有様というわけだ。

 そんな彼等は、二隻の仮装巡航艦『エラントン』と『ワーガロン』を疾駆させ、必死の思いでヤヴァルト星系へやって来た。ビーダとラクシャスとしては、作戦を仕掛けて逃げられたならともかく、主君のオルグターツに「出逢えませんでした」などと報告できようはずもない。



「まあったく! とんでもないわ!!」

 ヤヴァルト星系最外縁部に超空間転移を終えた『ワーガロン』の艦橋で、女言葉を使うビーダ(男)が、身をよじらせて苛立たしく言い放った。

「少佐。キヨウに着いたら即! 行動開始よ! すぐに大うつけちゃんと、ノア姫ちゃんの居場所を割り出して」

 ビーダの荒い言いように対し、クーケン少佐は何ら感情を表に出さず、短く「かしこまりました…」と淡々と応答する。ただビーダはそれが気に喰わないらしい。

「ちょっとぉ。もう少し気合の入った返事したらどうなの。もう!」

 そんなビーダをスキンヘッドの男装姿の女性ラクシャスが、こちらは男性調の言葉遣いで宥める。

「少し落ち着け。奴等も着いたばかりで、すぐにオ・ワーリへ帰るわけではない。必ず襲撃のチャンスは来る」

 ラクシャスにそう言われ、ビーダは小さくため息をついて応じた。

「そうね。最悪の場合…ノア姫ちゃんだけでも、お持ち帰りしましょう」
 
 しかし実はビーダとラクシャス達に遅れる事一日、ようやくノヴァルナを乗せた『クォルガルード』が、ヤヴァルト星系へと到着したのである。これは『ヴァンドルデン・フォース』の捕虜達を、途中のビルガシア星系で降ろしていたため、ビーダとラクシャス達に追い抜かされたのであった。

 それに『クォルガルード』では、些か問題が起きている。戦力が修理を完全に終えたノヴァルナの『センクウNX』と、ヨリューダッカ=ハッチの『シデンSC』の、合わせて二機だけとなっていたのだ。

 ノヴァルナの専用艦だけあって、『クォルガルード』には『センクウNX』を、もう一機組み立てられるほどの予備パーツが積まれていた。しかし『ホロウシュ』達の『シデンSC』はそういうわけにもいかず、機体間で使えるパーツをやり取りするしかない。
 それでもランとササーラの『シデンSC』は、『ヴァンドルデン・フォース』のベグン=ドフとの戦いで大破し、とても戦闘に出られるような状態ではなく、またカール=モ・リーラの機体も、同じ戦いの最終局面で敵艦の自爆に巻き込まれ、機体を半壊させてしまっていたのだ。

 それにハッチの機体もそれなりに損害を受けていたため、モ・リーラの機体から仕えるパーツを移植して、一応は動ける…という状態だ。これではキヨウに出没しているという、BSIユニットを保有する略奪集団を討伐して、皇国行政府へ存在をアピールし、星帥皇テルーザとの会見への道筋をつける計画を『センクウNX』と、ハッチの『シデンSC』だけで実行しなければならない。

 『クォルガルード』の格納庫で、自分も『センクウNX』の整備を手伝っているノヴァルナ。その傍らで助手をしているキノッサは、思い出したようにノヴァルナへ意見した。

御大将おんたいしょう。やっぱ、やめときましょうよ」

「あ? なんで?」

 翻意を促すキノッサの言葉にノヴァルナは、『センクウNX』の踵のダンパーを調整しながら、ぶっきらぼうな声を発する。

「やっぱ、危ないですって」

「てめーが戦うワケじゃ、ねーじゃん。そんなザコなんざ、俺の『センクウ』だけでも充分さ…てか、ハイドロスパナ取ってくれ」

「へい」

 命じられるままにキノッサは、足元にあったハイドロスパナを拾い上げ、『センクウNX』の踵に向いたままのノヴァルナに手渡す。

「とは言え、油断は禁物ッスよ…あ、じゃあノヴァルナ様。ノア様と合流したら、『サイウン』と双子さんに手伝ってもらうのはどうッスか?」

 それを聞き、真顔になったノヴァルナはキノッサを振り向いて、平手でペン!…と頭を張り飛ばした。

「バカてめぇ。んな、アイツを図に乗らせるようなマネ、できっか!!」
 
 ノアと彼女の護衛役カレンガミノ双子姉妹の機体は、『クーギス党』の高速輸送艦『ラブリードーター』に積み替えられており、完全稼働が可能なはずだ。それにノアも姉妹もパイロットの技量は、ノヴァルナと『ホロウシュ』に勝るとも劣らない。
 無論、事情を話せば、快く略奪集団退治に協力してくれるだろう。だが三人は戦闘要員ではないし、危険な目には遭わせたくない。そしてノヴァルナ的にはそれ以外にも、ノア達を戦わせたくない理由があった。そのような要請をノアにすれば、これ見よがしな上から目線で、出て来られるに違いないという事だ。

 ところがノヴァルナの、“ノアにこれ以上、偉そうにされたくない”という、その辺りの子供じみた意地の張りようは、キノッサも見抜いていた。ベグン=ドフとのドッグファイトでも発動した、ノヴァルナの特異な能力―――同じ能力を持つドフが“トランサー”と呼んだ能力を絡めて、再び翻意を説こうとする。

「そうは仰っても、“いきなりプッツン”の力が、いつでも使えるわけじゃないんスよね。つまんない意地張ってないで、万が一に備えておいた方が、いいんじゃないッスか?」

「なんだその、“いきなりプッツン”て?」

「いや、あの急にBSHOの操縦が、凄くなるヤツ…」

「“トランサー”だってーの! 勝手に変な名前つけんな!」

「名前はともかく、御大将はその力を好きな時に、発動出来ないんスよね?」

 キノッサにずけずけと言われて、ノヴァルナは嫌そうな顔になる。

「んなもん、必要ねーよ」

 とは言うもののノヴァルナは、ベグン=ドフが自分の意思で“トランサー”と呼ばれる力を発動させた事に、少なからず衝撃を受けていた。自分と同じ能力をを持つ相手と戦ったのも初めてだったが、それを自分の意思で発動する事の出来るような敵が、これから先、また自分の前に立ちはだかる可能性はある。

“俺も自分の意思で、発動出来るようになったりすんのかな?…”

 そう考えると、つい整備の手が止まる。するとその直後、『クォルガルード』の艦橋から、ノヴァルナの所へ連絡が入った。マグナー艦長からだ。

「ノヴァルナ殿下」

 近くのNNL出力ポートから展開された通信ホログラムスクリーンが、ノヴァルナの手元に浮かび、マグナー艦長の顔を映し出す。

「どうした? 艦長」

「キヨウの航路管理局から、ヤヴァルト星系内の全宇宙船舶に、たったいま警報が出されました。キヨウ衛星軌道上に、略奪集団と思しき船籍不明船団が出現したため、キヨウへの寄港は控えるように…と」

 それを聞いたノヴァルナは、双眸を鋭く輝かせた。




▶#06につづく
 
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