308 / 508
第15話:風雲児VS星帥皇
#05
しおりを挟むさて、ここで再び忘れ去られていた存在の、ギルターツ=イースキーが派遣したノヴァルナ殺害部隊である。
キネイ=クーケン率いるイースキー家陸戦特殊部隊は、ノヴァルナの家臣でいまだに謀叛を企む、クラード=トゥズークから旅の行程情報を得て、中立宙域のアンソルヴァ星系第五惑星ルシナスで、ノヴァルナ一行を襲撃したものの失敗。
その後彼等は、次のノヴァルナ達の寄港地ミートック星系第二惑星ガヌーバで、再度襲撃を計画したのだが、そこにギルターツの嫡男オルグターツから、思いもしなかった横槍が入り、部隊の指揮権をオルグターツが送り込んだ二人の側近にして愛人、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマに奪われてしまった。
そしてビーダとラクシャスは惑星ガヌーバではなく、その次の寄港地レンダ星系第三惑星リスラントで、自分が連れて来た増援部隊と合わせた大規模な待ち伏せ作戦を行うよう命令を下したのだが、知っての通り、ノヴァルナ達はリスラントへは向かわず予定を変更して、ユジェンダルバ星系で『ヴァンドルデン・フォース』と戦ったため、彼等の待ち伏せは思い切り空振りしたのである。
四日経っても五日経っても一向に現れないノヴァルナ達に、さすがにこれはおかしいと感じたビーダとラクシャスが、皇国の航路管理局のデータに何度目かのアクセスを行うと、なんと数日前に申請された『クォルガルード』の航路変更が、今更のように表示されていたのだった。
これは現在の銀河皇国行政の杜撰さを、如実に表しているとも言える。かつてはほぼ、リアルタイムで表示されていた管理局の航路情報も、内乱による機能不全に陥ってこの有様というわけだ。
そんな彼等は、二隻の仮装巡航艦『エラントン』と『ワーガロン』を疾駆させ、必死の思いでヤヴァルト星系へやって来た。ビーダとラクシャスとしては、作戦を仕掛けて逃げられたならともかく、主君のオルグターツに「出逢えませんでした」などと報告できようはずもない。
「まあったく! とんでもないわ!!」
ヤヴァルト星系最外縁部に超空間転移を終えた『ワーガロン』の艦橋で、女言葉を使うビーダ(男)が、身をよじらせて苛立たしく言い放った。
「少佐。キヨウに着いたら即! 行動開始よ! すぐに大うつけちゃんと、ノア姫ちゃんの居場所を割り出して」
ビーダの荒い言いように対し、クーケン少佐は何ら感情を表に出さず、短く「かしこまりました…」と淡々と応答する。ただビーダはそれが気に喰わないらしい。
「ちょっとぉ。もう少し気合の入った返事したらどうなの。もう!」
そんなビーダをスキンヘッドの男装姿の女性ラクシャスが、こちらは男性調の言葉遣いで宥める。
「少し落ち着け。奴等も着いたばかりで、すぐにオ・ワーリへ帰るわけではない。必ず襲撃のチャンスは来る」
ラクシャスにそう言われ、ビーダは小さくため息をついて応じた。
「そうね。最悪の場合…ノア姫ちゃんだけでも、お持ち帰りしましょう」
しかし実はビーダとラクシャス達に遅れる事一日、ようやくノヴァルナを乗せた『クォルガルード』が、ヤヴァルト星系へと到着したのである。これは『ヴァンドルデン・フォース』の捕虜達を、途中のビルガシア星系で降ろしていたため、ビーダとラクシャス達に追い抜かされたのであった。
それに『クォルガルード』では、些か問題が起きている。戦力が修理を完全に終えたノヴァルナの『センクウNX』と、ヨリューダッカ=ハッチの『シデンSC』の、合わせて二機だけとなっていたのだ。
ノヴァルナの専用艦だけあって、『クォルガルード』には『センクウNX』を、もう一機組み立てられるほどの予備パーツが積まれていた。しかし『ホロウシュ』達の『シデンSC』はそういうわけにもいかず、機体間で使えるパーツをやり取りするしかない。
それでもランとササーラの『シデンSC』は、『ヴァンドルデン・フォース』のベグン=ドフとの戦いで大破し、とても戦闘に出られるような状態ではなく、またカール=モ・リーラの機体も、同じ戦いの最終局面で敵艦の自爆に巻き込まれ、機体を半壊させてしまっていたのだ。
それにハッチの機体もそれなりに損害を受けていたため、モ・リーラの機体から仕えるパーツを移植して、一応は動ける…という状態だ。これではキヨウに出没しているという、BSIユニットを保有する略奪集団を討伐して、皇国行政府へ存在をアピールし、星帥皇テルーザとの会見への道筋をつける計画を『センクウNX』と、ハッチの『シデンSC』だけで実行しなければならない。
『クォルガルード』の格納庫で、自分も『センクウNX』の整備を手伝っているノヴァルナ。その傍らで助手をしているキノッサは、思い出したようにノヴァルナへ意見した。
「御大将。やっぱ、やめときましょうよ」
「あ? なんで?」
翻意を促すキノッサの言葉にノヴァルナは、『センクウNX』の踵のダンパーを調整しながら、ぶっきらぼうな声を発する。
「やっぱ、危ないですって」
「てめーが戦うワケじゃ、ねーじゃん。そんなザコなんざ、俺の『センクウ』だけでも充分さ…てか、ハイドロスパナ取ってくれ」
「へい」
命じられるままにキノッサは、足元にあったハイドロスパナを拾い上げ、『センクウNX』の踵に向いたままのノヴァルナに手渡す。
「とは言え、油断は禁物ッスよ…あ、じゃあノヴァルナ様。ノア様と合流したら、『サイウン』と双子さんに手伝ってもらうのはどうッスか?」
それを聞き、真顔になったノヴァルナはキノッサを振り向いて、平手でペン!…と頭を張り飛ばした。
「バカてめぇ。んな、アイツを図に乗らせるようなマネ、できっか!!」
ノアと彼女の護衛役カレンガミノ双子姉妹の機体は、『クーギス党』の高速輸送艦『ラブリードーター』に積み替えられており、完全稼働が可能なはずだ。それにノアも姉妹もパイロットの技量は、ノヴァルナと『ホロウシュ』に勝るとも劣らない。
無論、事情を話せば、快く略奪集団退治に協力してくれるだろう。だが三人は戦闘要員ではないし、危険な目には遭わせたくない。そしてノヴァルナ的にはそれ以外にも、ノア達を戦わせたくない理由があった。そのような要請をノアにすれば、これ見よがしな上から目線で、出て来られるに違いないという事だ。
ところがノヴァルナの、“ノアにこれ以上、偉そうにされたくない”という、その辺りの子供じみた意地の張りようは、キノッサも見抜いていた。ベグン=ドフとのドッグファイトでも発動した、ノヴァルナの特異な能力―――同じ能力を持つドフが“トランサー”と呼んだ能力を絡めて、再び翻意を説こうとする。
「そうは仰っても、“いきなりプッツン”の力が、いつでも使えるわけじゃないんスよね。つまんない意地張ってないで、万が一に備えておいた方が、いいんじゃないッスか?」
「なんだその、“いきなりプッツン”て?」
「いや、あの急にBSHOの操縦が、凄くなるヤツ…」
「“トランサー”だってーの! 勝手に変な名前つけんな!」
「名前はともかく、御大将はその力を好きな時に、発動出来ないんスよね?」
キノッサにずけずけと言われて、ノヴァルナは嫌そうな顔になる。
「んなもん、必要ねーよ」
とは言うもののノヴァルナは、ベグン=ドフが自分の意思で“トランサー”と呼ばれる力を発動させた事に、少なからず衝撃を受けていた。自分と同じ能力をを持つ相手と戦ったのも初めてだったが、それを自分の意思で発動する事の出来るような敵が、これから先、また自分の前に立ちはだかる可能性はある。
“俺も自分の意思で、発動出来るようになったりすんのかな?…”
そう考えると、つい整備の手が止まる。するとその直後、『クォルガルード』の艦橋から、ノヴァルナの所へ連絡が入った。マグナー艦長からだ。
「ノヴァルナ殿下」
近くのNNL出力ポートから展開された通信ホログラムスクリーンが、ノヴァルナの手元に浮かび、マグナー艦長の顔を映し出す。
「どうした? 艦長」
「キヨウの航路管理局から、ヤヴァルト星系内の全宇宙船舶に、たったいま警報が出されました。キヨウ衛星軌道上に、略奪集団と思しき船籍不明船団が出現したため、キヨウへの寄港は控えるように…と」
それを聞いたノヴァルナは、双眸を鋭く輝かせた。
▶#06につづく
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる