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第15話:風雲児VS星帥皇
#07
しおりを挟む改造武装貨物船と軍用輸送艦計七隻の略奪集団が狙ったのは、惑星キヨウの南半球にある、ファシーミ行政区と呼ばれる区域であった。
ファシーミ行政区は南半球でも有数の商業区であったが、それだけに略奪集団の襲撃が繰り返され、今は荒廃が進んでいる。ただキヨウは惑星全土が高度に都市化されており、略奪できるものには現在でも事欠かなかった。
略奪集団の船隊が降下を始め、行政区に空襲警報のサイレンが鳴り響く。警察車両が市街を駆け回り、略奪集団の降下予想地区の人々の避難を促す。しかし当該地区…いや、キヨウの行政に出来る事はそこまでだった。皇国軍に代わって治安維持を担っている、ミョルジ家の治安維持部隊は全く動こうとしない。
だが略奪集団は降下地点を、警察機構の予測を外す形で、かなり西へと移動させた。避難する住民達を先回りするコースだ。雲の間を抜けて十二機のBSIユニットが、超電磁ライフルを手に降下して来る。機種は銀河皇国軍が使用している『ミツルギ』の陸戦仕様機だが、廃棄品のボディと手足を組み合わせた、非正規機であるらしく、それぞれのパーツの形状や色が違っていたりするものが多い。
十二機の非正規『ミツルギ』は、機体の下方に重力子の、オレンジ色のリングを二つ、三つと輝かせて速度を降下速度を落とし、さらに地表近くで二つ重ねた重力子リングを発生させて軟着陸した。ズシンズシンという響きと共に十二機の『ミツルギ』が、不揃いながらも横一列に並び、大量の砂埃が巻き上がる。
これに驚いたのは避難中の住民達だった。自分達が逃げようとしている前方に、BSIユニットという巨人の壁が立ちはだかったからだ。
その降下した十二機の中の一機、親衛隊仕様機に乗っているのが、この略奪集団の首領であった。大昔の飛行帽にゴーグルをかけた、黒い髭面の男だ。男は自分達BSI部隊に遅れて降下する予定の、衛星軌道上に待機している武装貨物船に連絡を入れる。
「俺だ。いま着陸した。打ち合わせ通り、住民どもを追い立てる」
武装貨物船から「了解」の応答があると、首領の男は付け加えた。
「いいな。今回は奴隷集めに徹するんだ。この前みたいに余計なもんまで、略奪なんかしてんじゃねぇぞ!!」
「わかってますって!」
頷いた首領の男は、直率するBSI部隊に前進を命じる。約百メートル間隔で横一列に並んだBSIが歩きだすと、住民達は慌てて引き返し始めた。するとBSIユニットは次第に隊列を、“U”の字型へ変えてゆく。逃げる住民達を半包囲し、最後に開いた箇所を、遅れて降下して来る武装貨物船で塞いで、一網打尽にしようという目論見だった。
だがそこに大気圏内を高速で、矢のように突き進んで来る宇宙船の姿がある。ノヴァルナの戦闘輸送艦『クォルガルード』だ。
略奪集団の警戒センサーを、低空飛行で突っ切って来た『クォルガルード』は、ファシーミ行政区の手前で徐々に高度を上げながら航過する。そして略奪集団の降下部隊の真上に来た時、ノヴァルナの『センクウNX』とハッチの『シデンSC』に、ササーラとラン以下の陸戦隊を乗せたシャトルを、次々に格納庫から吐き出して行った。
略奪集団のBSIパイロット達は、空を見上げて口々に言う。
「なにっ!!」
「なんだ!?」
「んあッ!?」
そんな空中から全周波数帯通信で、『センクウNX』に乗るノヴァルナの、割れんばかりの大声が響いた。
「待ちやがれぇえええええ!!!!」
そして地上に降り立つなり、超電磁ライフルをぶっ放す『センクウNX』。その一撃で早くも、一機の陸戦仕様『ミツルギ』が胸元から頭部を吹き飛ばされ、もんどりうって転倒、道路わきのビルディングに背中から突っ込んだ。
「ゴミ野郎ども、俺が相手だ!」
傲然と言い放つノヴァルナ。
「なんだ、コイツ! ブッ殺せ!!」
激怒した首領は、相手が誰か確かめようともせず、『センクウNX』の撃破を命じた。一機は倒されたが、残り十一機で対処できると踏んだのだ。だが将官専用機のBSHO相手にそれは、甚だしく素人考えと言うものである。
略奪集団のBSIユニットが全て動き出し、次々に超電磁ライフルを撃ち出す。『センクウNX』は反重力ホバリングを使って銃撃を素早く回避、爆発の火柱が林立する中を後方へ下がりだす。
「逃げ出しやがった! 追えッ!!」
集中攻撃を受けたノヴァルナが、怯んで逃げ出したのだと誤解した略奪集団は、『センクウNX』を追い始めた。しかしこれは言うまでもなく、略奪集団が半包囲しようとしていた住民達から引き離すための陽動だ。住民達との距離が開いたところで、振り返った『センクウNX』は再び超電磁ライフルを発射、最も接近して来ていた『ミツルギ』の左脚を大腿部から砕き切った。バランスを崩したその『ミツルギ』は、前方に転倒し、高速ホバリングの移動エネルギーによって、五百メートルほども道路を激しく転がって止まると、そのまま動かなくなる。
「広がれ。纏まると狙い撃ちだ!」
首領の男が機体の間隔をさらに開けるよう命じた。だがそうするためには十字路を曲がらねばならず、必然的に追撃速度は遅くなる。するとそこを狙って、離れた位置にあるひときわ高いビルの屋上に降下した、ハッチの『シデンSC』が超電磁ライフルによる狙撃を行った。角を曲がったばかりの『ミツルギ』が、斜め上から右胸板を撃ち抜かれて膝から崩れ落ちる。これを見てようやく自分達が誘い込まれた事に気付いた首領の男は、一部が着陸を完了していた武装貨物船に指示した。
「おい。その辺にいる住民どもを捕らえて人質にしろ! 誰でもいい!」
首領の男の命令で、広場に着陸した二隻の武装貨物船から、三十名ほどの略奪者達が銃を手にして出現。市街地を走り抜ける彼等の狙いは、BSI部隊の先行降下ですでにこちら側へ逃げて来ていた住民達だ。
「いたぞ!」
広い通りの真ん中で突っ立ち、ビルの間から見える『センクウNX』と、陸戦仕様『ミツルギ』との戦闘の爆煙の移動を、茫然と眺めていた住民の一団を発見し、略奪者達は路地から駆け出した。何人かの住民がそれに気付き、悲鳴が上がると、全員がパニックに陥って一斉に逃げ始める。
「撃て。死に損なったヤツを捕まえて、人質にすりゃいい!」
リーダー格の男が言い、略奪者達はブラスターライフルを構えた。先ず撃ち、手足などに命中して死なずに動けなくなった者を捕らえ、ノヴァルナに対する人質にすればいいという乱暴な考えである。
だが彼等がトリガーを引いたその時、空から大型シャトルが急速降下して来て、住民達との間に着陸した。外殻に描かれるはウォーダ家の『流星揚羽蝶』、『クォルガルード』から発進したシャトルだ。軍用シャトルであるため、略奪者達のライフルのビームは悉く弾き飛ばされる。するとシャトルの旋回砲塔が回転し、ビームを一連射。逆に数人の略奪者が撃ち倒された。それを機に後部ハッチが開き、『ホロウシュ』と『クォルガルード』保安科員による、臨時編成の陸戦隊が飛び出して来る。
よく訓練された正規兵は動きが違う。保安科員達から即座に銃撃を浴びせられ、突然のシャトル降下に肝を潰していた略奪者達は、たちまち自分達が逃げ出す番となった。
数名の保安科員に交じって、シャトルを降りて来たササーラが指示を出す。
「住民の保護を最優先だ。抵抗する者は全て排除しろ!」
するとそのササーラの脇を進み出たランが、瞬時にライフルを構えて発砲。物陰からササーラを狙っていた略奪者の一人を狙撃した。
「油断するな、ササーラ!」
振り向いたランにぴしゃりと言われ、ササーラは「う…うむ」と、少々バツが悪そうな顔でこめかみの辺りを指で掻く。そして気を取り直してササーラは、丸太ほどもある右腕を振り回し、ランのあとを追って行った。
さらに衛星軌道上でも―――
ノヴァルナ達を降下させた『クォルガルード』は再び宇宙へ上がっている。
「撃ち方はじめ!」
マグナー艦長の命令が飛び、『クォルガルード』は主砲を放つ。その先には略奪集団の軍用輸送艦三隻と、降下を途中で取りやめて逃走を図った武装貨物船が二隻いた。『クォルガルード』の砲撃を受けた軍用輸送艦が爆発を起こす。撃ち返す敵部隊。だが貧弱な武装では、『クォルガルード』が展開したアクティブシールドは撃ち抜けない。さらに武装貨物船の一隻が爆発すると、残った艦は地上にいる首領の男を残したまま、逃げ去り始めたのだった………
▶#08につづく
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