銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第15話:風雲児VS星帥皇

#12

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 接近する高速クルーザーに、略奪集団の船隊は一斉砲撃を仕掛ける。だがクルーザーは恐るべき機動でそれらをかわす。そこでノヴァルナは、クルーザーの機動もそうだが、略奪集団の船が輸送艦や武装貨物船などではなく、仮装巡航艦―――自分達の『クォルガルード』に近いものであった事に気付いた。『クォルガルード』単艦で迂闊に近付いていれば、危なかったかも知れない。

「なんなんです? あれ」

 敵の攻撃を次々と回避してゆくクルーザーに、ジュゼが呆れた声を上げる。

「なにって、銀河皇国で“一番偉いひと”さ」とノヴァルナ。

 その言葉が終わった直後、高速クルーザーは船体を一回、二回と回転しながら外殻を変形させた。すると船の内部から、白銀色と金色に塗り分けられた、人型機動兵器が姿を現す。バックパックから左の手に取った伸縮式の上下両刃の鑓が伸び、グルリと回して見栄を切るは、ヤヴァルト銀河皇国星帥皇専用BSHO『ライオウXX(ダブルエックス)』だ。

 一見すると典礼用かと思えるほど流麗な機体だが、当然の如く、銀河皇国最強のBSHOであり、それを操る星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガは、稀代の天才パイロットだと言われている。やや吊り目のセンサーアイを黄緑色に輝かせた『ライオウXX』は左手にデュアルランサー、右手に超電磁ライフルを握り、略奪集団にむけ一気に加速を掛けた。
 
 突撃する『ライオウXX』に対して、十六隻の略奪集団部隊は砲撃を行いつつ、一斉にBSIユニットを発進させ始めた。その数は一隻当たり四機ないしは五機。全部で六十八機もの数だ。大半が皇国軍の量産型『ミツルギ』だが、一部は『サギリ』や『イカヅチ』など、他の星大名家の機体が混じっていた。動きを見ると、どうやら略奪集団のBSIユニットは、陸戦仕様ではなく宇宙戦仕様のようである。

「ふん。連中…最初から星帥皇狙いだったみてぇだな」

 ノヴァルナがそう言うと、ハッチが「どういう事ッスか?」と尋ねる。

「仮装巡航艦が十六隻もいて、それが搭載してるのが全部、宇宙戦仕様機だってんだぜ。星帥皇自らが宇宙へ出て来る事をわかっていて、待ち受けていた以外に理屈は合わねぇだろうが」

「なるほど」

 頷いたハッチはさらに「どうしますか?」と指示を請う。だがそれより先に『ライオウXX』から、全周波数帯通信で呼び掛けがあった。ノヴァルナと同年代の若者の声、星帥皇テルーザだ。

「そこのBSI部隊。どこの所属か知らないが、前方の武装集団と戦う気ならば、手出しは無用!」

 それを聞いたノヴァルナは今しがたのハッチの問いに、「だとさ」とあっけらかんと答え、直後に不敵な笑みを浮かべた。そしてその胸の内で呟く。

“じゃ、お言葉に甘えて…まずは星帥皇陛下の、御手並み拝見といくか”

 ノヴァルナは『クォルガルード』と『ホロウシュ』に、「現状で待機」を命じると操縦桿の上に手を置き、シートに背中を沈めて、本気で高みの見物としゃれこみ始めた。ただし…その眼は時折見せる、“悪だくみ”を考えている眼である。すると丁度タイミング良く『クォルガルード』から、『ライオウXX』と略奪集団の通信を傍受したとの連絡が入る。ノヴァルナが「おう。中継してくれ」と指示を出すと、ヘルメット内のスピーカーに、傍受した音声通信が聞こえだした。最初は略奪集団の首領らしい。しわがれた男の声だ。おかしな丁寧語が、いかにもな“使い慣れてない”感を感じさせる。

「よく来られましたなぁ、星帥皇さんよォ!」

 応答する星帥皇テルーザの口調は厳しい。

「ああもあからさまな、脅迫状を送られてはな。誰に頼まれた!?」

「さあねぇ…だが、あんたの首一つありゃあ、星大名の座も思いのままってのは、確かな話だ」

 ニヤつく表情が想像できるような首領の声に、星帥皇テルーザは、むしろ愉快そうに言い放った。

「悪党どもは、命が惜しくないとみえる…来るがいい!!」

 それを機に略奪集団のBSI部隊六十八機は、一斉に『ライオウXX』へ向け、群がって行く。包囲態勢に入る敵機に、『ライオウXX』は白銀の機体を煌かせながら、怯む事無くその真ん中に突入した。
 
 テルーザの実力は三年前のまだ次期継承者であった頃、ミョルジ家のキヨウ侵攻の際に、皇都を脱出した星帥皇室の殿しんがりとしてBSI近衛部隊を率いて出撃。追撃して来たミョルジ軍宇宙艦隊に多大な損害を与え、撤退させた事で周辺宙域に鳴り響いていた。そんなテルーザの命を狙おうというのであるから、敵の六十八機という数も決して多くは無い。

「ノコノコ、真っ直ぐ突っ込んで来るとは!」

 一人の敵パイロットが嘲り声を口にして、それを合図に数機の『ミツルギ』と、『サギリ』が超電磁ライフルを発射する。と次の瞬間、『ライオウXX』は急加速をかけて、全ての銃撃をまとめて回避した。宇宙を駆ける稲妻のような機動は、カミヨコトバが示す“雷王”の名に相応しい。雨あられと襲い掛かる銃弾であるが、テルーザの乗る白銀の機体には掠りもしない。

 さらに回避機動の間に『ライオウXX』は、右腕を振り抜きながらトリガーを複数回引く。飛び出す銃弾、発生する三つの爆発。ノコノコ云々…と言っていたパイロットも、「ギャッ!」という叫び声を残して機体ごと砕け散った。瞬時に右、瞬時に上、瞬時に左下へとコースを変え、『ライオウXX』がさらに銃撃を行うと、今度は四機のBSIユニットが仕留められる。とくに最後の一機は逃げ出そうとしたのが、自分から『ライオウXX』の放った銃弾に飛び込んでいく形となった。それはまさに戦場の敵の動きを、全て把握しているようだ。

「なに、あれ!?」

「ホントに人間が乗って、操縦しているの?」

 驚異的な動きの『ライオウXX』に、女性『ホロウシュ』のジュゼとキュエルが驚いた声を上げた。それにハッチが答える。

「ありゃあ…“トランサー”だな」

 ハッチはキヨウへ先行した女性『ホロウシュ』達とは違い、先日の『ヴァンドルデン・フォース』との戦いに参加しており、以前からノヴァルナがBSI戦の中で時折見せていた、驚異的な戦闘力の発動が“トランサー”と呼ばれるものである事を知ったのだ。それを聞き、もう一人の女性『ホロウシュ』のキスティスが呟く。

「あれが…」

 一方でノヴァルナには、『ライオウXX』の動きを見詰めながらも、驚いた様子はない。“トランサー”が、NNLへの適応能力の極限に根差すものならば、そのNNLの頂点に立つテルーザが、ベグン=ドフ同様、自分の意志で“トランサー”を発動させる事ができても当然だからである。

「距離を詰めろ。なんのための包囲だ!」

 首領の命令で包囲の球を縮小し、六十一機の敵BSIが銃撃を繰り返す。だが一部の隙もないような銃弾の軌道であっても、それでも生み出す僅かな間を、『ライオウXX』は滑るように抜けてゆく。そして反撃。またもや三機の『ミツルギ』が砕け散った。





▶#13につづく
 
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