銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#24

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「なに? 余に政治を学べと申すか」

 怪訝そうな顔で振り向くテルーザに、ノヴァルナは「ああ」と頷く。

「今更か?」

「今更だからさ。このまま放っておく訳にはいかないだろ、皇国を」

「それは…そうだが」

「時間ならあるだろ? ヒマなんだろし」

 そのノヴァルナの言いように、テルーザはまた嫌そうな顔になった。だが怒りを覚えているのではなさそうだ。

「そう何度も嫌味を言うな。余だって傷つく。そなた、対等に話す事を許されて、天狗になっていないか?」

「ならねーよ。さっき話したろ、中立宙域で俺が体験した事」

「む………」

 ノヴァルナは中立宙域の惑星ガヌーバで、地元の温泉郷を守るため、『アクレイド傭兵団』と戦った事。さらに中立宙域内で独自の勢力圏を作り出し、恐怖で植民星系を支配していた銀河皇国正規軍の残党、『ヴァンドルデン・フォース』と死闘を演じた事をテルーザに告げたのである。

 そしてノヴァルナはそれに加え、惑星ガヌーバの温泉郷については、地下にあった星帥皇室直轄の金鉱脈の、採掘と温泉旅館の立ち退き命令に関する不正な申請書を、テルーザが中身を確かめずに認証を与えた可能性を指摘。
 さらに『ヴァンドルデン・フォース』に関しては、その悲劇的な成立過程と放置状態のままであった事への、銀河皇国の過失を問い質した。いずれも巷の悪評とは真逆に、兵や領民を大切に思っているノヴァルナからすれば、我慢のならない出来事だったからだ。やり込められたテルーザにできる事は、素直に詫びを入れるだけだった。

「俺に詫びられても、筋が違うからな。それなら気分一新、星帥皇として相応しい施政力をつけようぜ…って、話さ」

「だが何度も言っているだろう、余には政治的才能も、味方も…」

 BSHOの模擬戦でノヴァルナを圧倒した時とは別人のように、眼を伏せて自信無さげに語尾を濁すテルーザ。するとノヴァルナは、ここへ来て、日に日に大きくなっていた自身の想いを口にした。

「俺が、あんたを手伝う!」

「!!??」

 ハッ!…と顔を上げるテルーザの前で、ノヴァルナは胸を張り、いつもの不敵な笑みを浮かべている。そう…銀河を統べる者相手に、ずけずけと言いたい放題に放言したからには、自分も筋を―――信義を通さねばならない。

「だから政治を学べ。パイロットの腕を磨いたように。この銀河には安定と秩序が必要だ。それをあんたがやるんだ!」

 そして銀河皇国中央が安定してこそ、オ・ワーリだけでなく他の宙域も落ち着くようになり、やがては星大名同士の争いも終息に向かうに違いない。その想いを胸にノヴァルナはもう一度、テルーザを見据えて力強く言った。

「俺が手伝ってやる!」
 
「信じてよいのか?」とテルーザ。

 頷いたノヴァルナは「だが、時間が必要だ」とも告げる。最下部の展望室で上級貴族達が悪しざまに言っていたように、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家は、オ・ワーリ宙域を宗家のイル・ワークラン=ウォーダ家と分割統治しており、しかも敵対している状況だ。それに家中の意思統一もままならない。まずはそれを片付けてからだ。

「俺はオ・ワーリ宙域を統一する。そしてここキヨウを目指す。ミョルジ家だろうが『アクレイド傭兵団』だろうが、私利私欲に走る奴らは全部、俺がキヨウから追い出してやっから、あんたはそれまでに政治を学べ!」

 大言壮語ともとれるノヴァルナの言葉に、テルーザは目を丸くしながら問う。

「できるのか? そなたに」

 それに対するノヴァルナの反応は、まず高笑いだった。

「アッハハハハハ!」

 そしていつもながらの、この若者独特な物言い。

「口に出しちまったからなぁ。言った以上はやらねーとなぁ!」

 ノヴァルナはこの旅を始めた時は、ヤヴァルト宙域とその周辺―――銀河皇国中央部の事に関しては情報収集は行っていたが、ここまで関わるつもりはなかった。正直、他の星大名のようにまず自分の領地の安定を考えており、その延長線上で余裕が出来れば、皇国中央に関与していってもよい…程度に考えていたのだ。

 だがここへ来るまでの中立宙域での体験…そして皇都惑星の現状を自身の眼で確かめるに至って、オ・ワーリ宙域の事だけを考えている場合ではないと、強く思ったのである。

 それに…自分が対面したテルーザは、“善人”であった。

 星大名家の当主だけあって、若くてもノヴァルナは、相手を見抜く能力に長けている。その観察眼がテルーザを、私利私欲に走る人間ではないと告げていたのだ。BSHOで命懸けの模擬戦を行った事で、テルーザの人間性を感じる事が出来たのも大きい。パイロットとしての技量に反し、政治的判断に甘いところはあるが、補佐する者がしっかりしていれば、道を違える事は無いだろう。

 するとノヴァルナは不意に居住まいを正し、拝謁のはじめの時のように、テルーザに対して恭しく片膝をついた。

「陛下。何卒このノヴァルナ・ダン=ウォーダに、軍を率いての上洛の下知を下さりますよう、お願い申し上げ仕ります」

 急なメリハリのつけ方は、少々悪ふざけ気味ではあるが、その想いはテルーザにしっかりと伝わったようである。希望の光を眼に宿し、テルーザは星帥皇としてノヴァルナに命じた。

「相分かった。オ・ワーリ宙域星大名ノヴァルナ・ダン=ウォーダ。上洛軍の編成を許可する。いずれの日にか軍を率い、我がもとへ参ぜよ」




▶#25につづく
 
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