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第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ
#12
しおりを挟む時間は少し遡り、ナギ・マーサス=アーザイルがノヴァルナに、ノアの追跡のためにアーザイル家の船を使うよう連絡を入れた直後―――
申し出を拒否する理由などないノヴァルナは、「アーザイル殿。頼めるか!?」と即答すると、間髪入れずランとササーラに命じる。
「ラン! ササーラ! ノアを助けに行くぞ、ついて来い。あとの『ホロウシュ』は敵を足止めしろ!」
言うが早いか浄水・空調施設を離れ、ナギに合流しようとするノヴァルナ。それに合わせて、自分の船に連絡を入れるナギ。
「ナギだ。緊急発進し、僕達をピックアップしてくれ!」
それを傍受し、「狙うはノヴァルナ様のみ」と、イチかバチかの攻勢に出るキネイ=クーケンと指揮下の残存特殊部隊。しかしその動きは、ノヴァルナ側の増援であるカーズマルス=タ・キーガの読むところであった。
「バイパーズ。敵行動を阻止せよ」
部下達全員に下令したカーズマルス自身も、アサルトライフルを手に前進を始める。ノヴァルナの妹のフェアンが入手した、この施設の構造図があるおかげで、迅速に行動が可能だ。一方で残る『ホロウシュ』達は、管理棟区画にいる一般兵を制圧していく。クーケン隊の動きに呼応させないためである。
施設の外にとめていたバイクに駆け寄ったノヴァルナは、シートに飛び乗ると即座にエンジンを起動した。置いてけぼりを喰らいそうになったランとササーラが、慌ててそれに続こうとする。三台のバイクは来た道を引き返し、自分達が突入するために開けた、ドーム状空間の外壁の穴に向かった。ナギと合流したあと、手配してくれたアーザイル家の宇宙船に乗るには、都市構造体の表層まで上がらなければならない。
矢のように走って来るノヴァルナ達のバイクに対し、射点についたクーケンの兵士達が銃を撃ち始めた。ノヴァルナの射殺を最優先にしているため、統制された射撃ではない。
「止まるな、一気に突っ切れ!!!!」
ヘルメットの通信デバイスを使って、ランとササーラに命じるノヴァルナ。
「ノヴァルナ様! もう少し速度を落として頂かないと、護衛ポジションをとれません!!」
飛んで来る銃撃のビームの中で、並走するランが抗議する。自分の身とバイクを盾にするため、ノヴァルナを狙う敵の射線上に入れたいのだが、バイクの性能差もあって追いつけないのだ。しかしノヴァルナはお構いなしである。
「こまけー事は、気にすんな!!」
「細かくないです!!」
冗談とも本気ともつかないノヴァルナの言葉に、生真面目なランは顔をしかめて声を荒げる。ただ敵からの銃撃はそう長くは続かなかった。死角から距離を詰めてきたカーズマルスの特殊部隊兵によって、クーケンの兵は次々と排除され始めたからである。
さらに合流のためこちらへ向かって来るノヴァルナを援護するため、ナギは指揮下の陸戦隊に、浄水・空調施設への面制圧射撃を命じる。たまらず物陰に退避したクーケン隊の兵士に、忍び寄って来ていたカーズマルス隊の兵が銃を突きつけ、武装解除させる光景が、あちこちで起きていく。
だがこれらはすべて、キネイ=クーケンにとって想定の範囲内だった。浄水・空調施設のやや高い位置にある張り出しに、たった一人で辿り着いたクーケンは、狙撃態勢に入る。部下達のノヴァルナへの銃撃は、それを阻止しようとするノヴァルナ側の兵を誘引するためのものだった。本命はクーケン自身による、ピンポイントでのノヴァルナ狙撃である。
クーケンが構えたアサルトブラスターライフルの照準スコープに、猛スピードで走るノヴァルナの姿が投影される。まるでレーサー並みの速度でこちらへ向かう、キオ・スー=ウォーダ家の若き当主に、精神を集中させたクーケンは、何の感情も映さない眼でトリガーに指を置く。銃口のレーザー照星と連動した電子照準器が、緑のマーカーを点滅させていた。狙いは完璧…あとはトリガーを絞り込めば―――
ところが次の瞬間、その照準スコープは不意にブラックアウトした。いや電子照準器の故障ではない。スコープの前面を何かが遮ったのだ。視線を上げたクーケンの瞳に、スコープの前へ突き出されたライフルの銃身の先がある。
狙撃に集中していたとはいえ、それなりの場数を踏んで来た自分に、全く気配を感じさせる事無く間合いまで忍び寄られた事で、クーケンは自分の敗北を認めた。
何事もなく、クーケンの狙撃点を通過していくノヴァルナのバイク。銃を置き、立ち上がったクーケンは、自分に勝利した相手を見て意外そうな声を漏らす。
「カーズマルス=タ・キーガー?…ロッガ家特務陸戦隊の貴殿が、ノヴァルナ様の味方だと?」
陸戦特殊部隊の世界にあって、イースキー家とロッガ家は領域を接している事もあり、名の通った指揮官は双方とも知っている。クーケンはロッガ家の家臣であったカーズマルスが、ノヴァルナの増援部隊指揮官であった事に驚いたのだ。
「そういう貴官はキネイ=クーケンか…俺は今はもう、ロッガ家の家臣ではない。勝手について来た部下ともども野良だが、ノヴァルナ様には大恩があってな。協力させて頂いている」
カーズマルスの答えを聞いて、クーケンは得心顔で応じた。
「そうか…なるほど、貴殿と貴殿の率いる部隊が相手だったのなら、負けもやむなしだな」
そう言って通信機を取り出したクーケンは、部下達に戦闘停止を命じる。ノヴァルナに逃げられた以上、無駄に交戦を続け部下の損害を増やしたくないのだろう。カーズマルスはクーケンの良識に感謝した。
「助かる。クーケン殿」
▶#13につづく
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