銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第18話:未来への帰還

#07

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 そして翌日―――

 惑星ラゴンへの帰還を開始する当日。ノヴァルナとノア達は、宇宙港のメインロビーで別れの挨拶を交わしていた。

 ナギ・マーサス=アーザイルには、損害を受けさせてしまった『サレドーラ』の修理費の全額負担と、ノア達の救出協力に対する相応の謝礼を申し出る。固辞しようとしたナギだが、ノヴァルナの妹のフェアンからも、受け取るよう強くお願いされては、ナギも断り切れなかった。

 ナギへの別れの挨拶の残りはフェアンに任せ、次はカーズマルスである。彼等にも充分な謝礼を約束し、引き続きキヨウと周辺宙域の情報収集を依頼した。さらにいずれ機が熟せば、正式にノヴァルナの家臣になる方向で、話もまとまった。彼等のような、経験豊富な陸戦特殊部隊が加わるのは、ノヴァルナにとって頼もしい限りだ。

 そしてノヴァルナがその件についてカーズマルスと話をしている間にノアは、見送りに来ていたキヨウ皇国大学の先輩、ルディル・エラン=スレイトンの前に進んだ。

「スレイトン先輩。お見送り、ありがとうございます」

 声を掛けるノア。ただその表情はキヨウへ来て再会し、かつての憧れを蘇らせていた時のものとは異なっている。

「ノアくん。今回の事件では…何の力にもなれなくて、申し訳ない」

「いえ。先輩だけでも巻き込まずに済んだのは、幸いでした」

 それは皮肉などではなく、ノアの偽らざる気持ちだった。自分の友人というだけでソニアをあれだけ巻き込み、酷い目に遭わせたのだ。スレイトンだけでも無事であったのを喜ぶべきであろう。それに言い方は悪いが、温泉育ちの貴族の三男坊の彼に、何かができたとは思えない。

「あの………」

 何かを言おうとするスレイトンに、ノアはゆっくりと首を左右に振った。その意を汲み、スレイトンは眼を細めて“わかった”と小さく頷く。

 するとそこにソニアを連れた、ランとササーラがやって来る。ソニアは右手に女の子、左手に男の子を引いていた。二人とも五、六歳ぐらいに見え、話にあったソニアの幼い妹と弟に違いない。背後を歩くランとササーラが、大量のバッグやケースを運んでいる事から、見送りとは思えない。

 その姿を見たノアは笑顔でソニアに歩み寄った。

「ソニア。いいんだよね?」

「うん…ごめん。ありがとう」

 応じるソニアも微笑みはしているが、どこかに硬さがある。ビーダの話術に乗せられてノアを陥れた事を、まだ気に病んでいるのだろう。そんなソニアをノアは、彼女の妹と弟と共に、ラゴンへついて来るよう説いたのである。
 
「…でも、ノア。本当にいいの?」

「当たり前よ。私の方こそ、急がせてごめん」

 ノアはそう言うと腰を低くかがめて、ソニアの幼い妹と弟の目線の高さになる。そして二人に優しく挨拶した。

「こんにちは。おなまえは?」

「リアナ」と、はっきり答える妹。

「ラ…ライル」と、躊躇いがちな弟。

 笑顔で頷いたノアは「そう。私はノア、よろしくね」と応じる。急な提案と説得だったが、ソニアと家族を今キヨウから連れ出さなければ、次の機会が何時になるか、分からないからである。
 三人にはキオ・スー市で住居を与え、ソニアにはちゃんとした職を斡旋すると、ノアは決めていた。貴族の地位を捨てさせる事になるが、何の意味も無くなった肩書きなど足枷にしかならない。それに星大名の姫の友人だから優遇された…と批判されるかもしれないが、そういった場合もノアは批判の矢面に立つ覚悟だった。そのような事で見捨てていい理由は無いからだ。

 そんな強い意志で訴えたノアの申し入れを了承したソニアは、ランとササーラと共にアパートへ戻り、妹と弟を連れ、必要最低限の荷物だけ持って、宇宙港へやって来たのだった。

「ソニア。これからの事は全部、私に任せて。もう絶対、あなたをつらい目には遭わせないって、約束する」

 背筋を伸ばしたノアは、凛とした口調でソニアに告げ、ソニアは言葉に詰まりながら礼を言う。その眼には光るものがある。

「あり…がとう」

 笑顔でソニアの肩に手を置いたノアは、ランとササーラに目配せして、ソニアたちを『クォルガルード』へ促した。



 またイースキー家のキネイ=クーケンとその部下達。さらに追加増援された陸戦隊の生き残りは、イースキー家を出奔する事になったようである。本国へ帰っても当主ギルターツはともかく、嫡男のオルグターツがクーケンだけでなく、彼の部下や陸戦隊の兵士にまで、懲罰と称して危害を加えるのは明白だったからだ。
 まだ正式に決まったわけではないが、クーケン達はキヨウにとどまり、カーズマルス達と協力して、彼等の自治支配地区『デノアンカー』の、治安維持を分担する話が進み始めたらしい。

 ノアがノヴァルナのもとに戻ると、最後に今回の旅を手配してくれた皇国貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナに、二人揃って厚い礼の言葉を述べた。
 ゲイラはテルーザから話を聞いていたのか、「陛下におかれましては、大層お喜びのご様子で…」と告げられ、「これからもよろしくお願い致します」と丁重に頭を下げられて、さしものノヴァルナも恐縮した。

 そしていつまでもナギ話し込むフェアンに、「そろそろ帰っぞ!」と声を掛けたノヴァルナは、もう一人の功労者マリーナの頭を二度三度片手で撫でる。不意の出来事にびっくりし、顔を真っ赤にして振り返るマリーナに、「アッハハハハ!」と高笑いを残し、ノヴァルナはノアと共に『クォルガルード』へ向かっていった。




▶#08につづく
 
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