402 / 508
第19話:勝利への選択
#12
しおりを挟むパイロット達が奮戦している間隙を突き、ノヴァルナ軍の全艦隊は、『ウキノー星雲』の“傘”の部分へ進入した。本格化する砲撃戦の間で、双方のBSI部隊が火花を散らす。
総旗艦『ヒテン』の四隻の直掩戦艦を引き連れて戦場へ乗り込むと、猛然と主砲射撃を開始した。味方の重巡に激しく砲撃していた敵戦艦が、立て続けに主砲弾を喰らって舷側を破られ、破片と火花を散らせながら、紫の雲塊が林立する星間ガスの谷間に沈んでいく。
艦の数はいまだイル・ワークラン側の方が多いが、ノヴァルナ軍との最初の戦闘で、基幹艦隊とそれを構成する各戦隊の旗艦の大半が喪失、または大損害を被っており、数的有利を活かせなくなっていた。また一隻、イル・ワークラン側の戦艦が小爆発を繰り返し、戦場に漂い始める。
一方のノヴァルナはカダールの命で集中攻撃を仕掛けて来る、敵のBSI部隊に対し、久々に総員が出撃した親衛隊の『ホロウシュ』が、主君の周囲を二重に固めて、敵機を寄せ付けない。
ショウ=イクマの操縦する電子戦特化型の『シデンSC-E』が、他の『ホロウシュ』の機体とを繋いで展開した、巨大な電子妨害フィールド。その中に飛び込んで来る敵の機体は、著しくセンサーや通信機器に障害を受けて性能が低下。そこを二重陣形を組んだ『ホロウシュ』の、外側にいる『シデンSC』に狙い撃たれる。
それでもカダールの集中攻撃の命令に律義に従い、数にものを言わせて突破して来る敵機もあるが、それとて二重陣形の内側を守る『シデンSC』に、格闘戦を挑まれて潰え去る。
ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』は若者揃いだが、主君に従って前線での戦いを重ね、その技量は年々高まっていた。したがってノヴァルナのもとまで辿り着く敵機は皆無で、『センクウNX』の左右背後を守る『ホロウシュ』、ナルマルザ=ササーラ、ラン・マリュウ=フォレスタ、ヨヴェ=カージェスにも出番は回って来ない状況だ。ノヴァルナのする事と言えば、時折遠距離から放たれる艦砲による狙撃を回避するぐらいである。無論、それとて油断できない代物ではあるが。
このような光景を眺めつつ、ノヴァルナは『センクウNX』のコクピット内で、ふん…と、小さく鼻を鳴らした。
“ろくに実戦も経験していねぇ、イル・ワークランの連中相手ならこの程度だが、このさき相手にする奴等は、こんなもんじゃねぇからな…”
内心でそう自分を戒めるノヴァルナ。その想いの通りで、星帥皇テルーザと共に目指すと誓った、銀河皇国の秩序の回復のためには、イル・ワークラン家より遥かに強大な相手と対峙して行かなければならないのだ。言い方は悪いがこのようなところで、イル・ワークラン程度に後れをとっている場合ではない。
そしてノヴァルナに見下される形となったカダール=ウォーダは、座乗する総旗艦『キョクコウ』の中で、ますますいきり立っている。
「ええい、何をしている! ノヴァルナのBSHOに集中攻撃しろと、命じたはずだろう!! なんだあのザマは。むしろ各個撃破されているではないか!!??」
興奮のあまり口走った集中攻撃の命令を、家臣達がまともに受領しているかどうかも怪しいところだが、確かに光学映像も戦術状況ホログラムの表示も、味方機がバラバラのタイミングで、『センクウNX』目掛けて突っ込んで行っては、それを取り囲む『ホロウシュ』の二重防御陣に、阻止されている光景ばかりを映し出していた。
「突撃を仕掛けた機体は、みな敵機が形成する電子妨害フィールドの干渉を受け、センサーの取得緒元に異常値が与えられた事で、僚機との正確な戦術情報の共有が不可能になっていると思われます。ですから連携攻撃が―――」
「言い訳などよい! なんとかしろ!!」
状況の説明に来た女性の機動兵器戦参謀の言葉を、怒声で遮ったカダールは、さらにその女性参謀の肩を激しく突き飛ばす。家臣に対する攻撃的な態度は、相手が女性であっても変わらないらしい。「きゃ!…」と小さな悲鳴を上げて倒れそうになる女性参謀を、参謀長が背後から支えてカダールに意見する。
「部下への乱暴は、おやめください!」
「なんだと貴様! 俺に歯向かうつもりか!!」
「冷静におなり下さいと、申し上げているのです。現在、電子戦科が対抗プログラムを作成中です。それが完成すれば、ノヴァルナ様への―――」
「何度言えば分かる! あんな奴に“様”など付けるな!」
不毛だ―――
…と、参謀長は思った。家臣とは主君に忠義を尽くすものである。だがその主君の方にも、家臣からの忠義を得るに相応しい、人格というものが必要であるはず。だが、この主君はどうであろう…自分達が命を懸けて尽くすだけの価値が、果たしてあるのだろうか。
翻って参謀長は、ノヴァルナの『センクウNX』の光学映像を見る。その周囲を固める親衛隊の『シデンSC』からは、スクリーン越しであっても搭乗者の、“命に代えても我が主君を守り抜く!”という、鉄壁の意志が伝わって来た。彼等の姿を見れば、世間が噂するノヴァルナの悪評が、実際は偽りである事が知れる。そんな参謀長の背後で、カダールは再び怒声を上げていた。
「どいつもこいつも、使えん奴等だ!!!!」
▶#13につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる