銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第22話:フォルクェ=ザマの戦い 前編

#03

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 会議を早々に切り上げて約二時間後、ノヴァルナは『ホロウシュ』らと共に早くも、惑星ラゴンと月の間の宇宙空間にいた。その身を『センクウNX』のコクピットに置いて。

 ノヴァルナの『センクウNX』の両側背後には、ラン・マリュウ=フォレスタとナルマルザ=ササーラの『シデンSC』。さらにその後ろには、ノヴァルナの専用戦闘輸送艦『クォルガルード』が浮かんでいる。

 そしてそこから肉眼では見えない距離だが、約千キロの位置で正対するのは、ヨヴェ=カージェスを指揮官とした若手『ホロウシュ』十八機。こちらも機種は『シデンSC』だ。彼等の背後には、一年半前のキヨウ訪問後に就役した、『クォルガルード』の同型艦『ヴァザガルード』と『グレナガルード』が並ぶ。

 現在、ウォーダ軍では主力BSIユニットを、新型の『シデン・カイ』に更新中であり、開発・建造を行っているガルワニーシャ重工でも、イマーガラ家の侵攻に備え急ピッチで量産中だった。
 しかしながら『ホロウシュ』用の親衛隊仕様『シデン・カイXS』は、いまだ開発中である。これは『シデン・カイ』が旧来の『シデン』のバージョンアップとは違い、システムも含め、基礎設計から見直しを行っているため、搭乗者へのカスタマイズ化に時間がかかるからだ。
 親衛隊仕様機はBSHO同様、登録搭乗者の操縦技能の長・短所や癖が、機体にフィードバックされていく。つまり使い続けるほど強くなるわけで、いま白紙の状態の『シデン・カイXS』に乗ったところで、総合性能で最終バージョンの『シデンSC』には及ばないし、カスタマイズレベルを引き上げるには、時間が無さすぎる。あと二週間もすれば、イマーガラ家の大軍がここへ押し寄せて来るのだ。それならば少しでも、使い慣れた『シデンSC』での技量を高めた方がいい、というのが、ノヴァルナと『ホロウシュ』達の考えだった。

 ノヴァルナは対峙する十八機の『ホロウシュ』に、通信で呼びかける。

「いいか、てめぇら。いつも言ってる通り、手ぇ抜きやがったら、晩メシも抜きだかんな。俺をギィゲルト・ジヴ=イマーガラだと思って、殺す気になってかかって来い!!」

 すると十八機の指揮を執るヨヴェ=カージェスが、「ハッハッハッ…」と笑い声を上げて応じて来る。

「ギィゲルト様にしては随分とスマートですが、晩メシ抜きはかないませんので、我等こそ手加減は致しませんぞ!」

 その言葉にノヴァルナは不敵な笑みを浮かべ、操縦桿を握り締めて言い放った。

「おう。掛かって来いや!!!!」
 
 ノヴァルナの放言を合図に、両者は相手に向けて一斉に加速を掛ける。コクピットを包む全周囲モニターで、すべての星の光が尾を引き、千キロの距離も一瞬で詰まる。操縦桿のグリップエンドに備え付けられているウエポンセレクターで、超電磁ライフルを選択したノヴァルナは、『センクウNX』がライフルを構えるや否や一弾倉分八発を無造作に連射した。

 だが当てずっぽうにバラ撒いたように見えたペイント弾は、『ホロウシュ』部隊の中の八機の進路上に、効果的に放たれたのである。突然の被弾予想警報に慌てる八名は咄嗟に回避行動を取った。

「うえっ!?」

「げげっ!!」

「きゃ!!」

 シンハッド=モリン、モス=エイオン、ジュゼ=ナ・カーガなどは、特に大きく進路を乱し、その影響は『ホロウシュ』全体の編隊に及んだ。衝突しそうになったモリンの機体を避けたために、編隊から単機で飛び出したヨリューダッカ=ハッチの『シデンSC』を、ランがすかさず狙撃する。腹部のコクピット付近にペイント弾の青い塗料を、ベッタリと塗りつけられたモリンの『シデンSC』。
 それを見たノヴァルナは、他の『ホロウシュ』達からの反撃の銃弾を悉く躱しながら、ハッチを怒鳴りつけた。

「馬鹿野郎! あっさり喰らいやがって。んな“死に方”してるような奴は、晩メシ抜きだ!!」

 叱責を受けたハッチは、被撃破判定判定音が甲高く鳴り響くコクピット内で、モリンに対して罵声を浴びせる。

「てめぇ、モリン! 覚えてやがれぇ!!!!」

 だがこの初手で撃破されたのがハッチ一人であったのは事実で、それだけ『ホロウシュ』達の操縦技能レベルは、一段と上がって来ていると言っていい。銃撃距離を搔い潜り、格闘戦距離まで間合いを詰めると、『ホロウシュ』側の指揮官のカージェスが下令する。

「手筈通り、かかれ!!」

 カージェスの指示で『ホロウシュ』達は三方に分かれる。単純に考えるならばノヴァルナ、ラン、ササーラに対して三等分するところだが、そうではない。ジュゼ=ナ・カーガとキュエル=ヒーラー、そしてキスティス=ハーシェルの三人の女性『ホロウシュ』がランを相手取り、カージェスは一人でササーラと戦う。そしてノヴァルナには残る『ホロウシュ』が全員で立ち向かう作戦だ。

 この変則的な分かれ方にカージェスの意図を察したノヴァルナは、「アッハハハハハ!」と笑い声を上げて言う。

面白おもしれぇ。相手になってやるぜ!!」





▶#04につづく
 
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