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第一章 出会い編

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で?
ようやく、勇者が目を覚ましたの。私の膝の上で。
まあ、硬いかもしれないけど……木に直接よりはマシだと思うのよ。

「あ、あの、すみません。」

いきなりズサササーッて、下に降りて土下座なんて……。

「そんなことしなくて、だいじょうぶよ?頭はだいじょうぶ?さっきぶつかったじゃない?」
「はい、だ、だいじょうぶです。鍛えてますから!」

いやいや、頭突きまで鍛えてるとか……脳筋ってやつかしら?
でも、勇者が脳筋じゃ……不味くない?

「そう?ならいいけど。まあまあ、お座りなさいな。立ったまま話すのもなんでしょう?」
「は、はい。」

あ、土下座したから座ってるか。あたしは、隣の席をポンポンと叩いてみた。
勇者くんは、慌てて子犬みたいに隣にポンとお座りした。
何?これ……めちゃくちゃかわいい!お手って言ったらしちゃうんじゃないかしら?
言ってみたーい!

「「あの……!」」

あら、かぶっちゃったわ。

「勇者くんからどうぞ。」
「いえ。あの。……気絶とか、してすみませんでした。あの、印があるってことは聖女様でいいのですよね。
……あの、俺、ジークフリード=ブレイブって言います。勇者です。……宜しくお願いします。」
「うーん。聖女があたしでいいのかしら?」
「だって、印あったんです。」
「そうね。」
「召喚術をして、貴方が出てきたんです。」
「そうね。」
「だから、誰がなんといっても聖女様なんだと思うんです。」
「そう、でも貴方はそれでいいのかしら?」
「俺は……。」

と勇者くん改め、ジークフリードくん?あら長いわ。
が、言いかけた時にガチャリとドアが開いた。
そして、偉そうな脂肪オバケが踏ん反り返ってこう言ったの。

「まったく!今代の勇者は外れなのかぁ!聖女をよんで男を呼んだだと?まーーーったく、弱くてちっさい勇者で?魔力もないって?そんなへっぴり勇者が、今度は聖女召喚に失敗とは!まったく。呆れて言葉も出んとは、このことよ!」

いやいや、貴方、じゅーぶんよ?
脂肪と一緒に垂れ流してるわよ?でも、これって怒るとこじゃないかしら?
ねえ?と、勇者ジークフリードくんを見たら、涙目でその肉ダルマ(かなり失礼!)を睨んでるじゃない。
オネエさん、たまらなーい。

「さ、宰相様。しかし、勇者の印は彼にしかありません。また、『千年の災厄』がやってくるのです。……言葉はお選びください。」
「はっ、言葉を選べだと?だが、この聖女だという男は、考えると言っているのだろう?いくら美しい……。」

あたしを指差して、たぶん暴言を吐こうとしたらしいのだけど、目があったから、にっこりと営業スマイルをあげたの。

「こほんっ、まあ、美しいとはいえ、だ、男性であるというではないか。……しかし、だが、聖女が男などとは前代未聞なのであろう!」

テーブルをドンと思いっきり叩いたの。
でも、少し痛かったみたい。何気にさすってるもの。
埃もたつし、いやあねえ。

「ちなみに、聞いてもいいかしら?」

聞く権利はいろいろあるとおもうのよねー。

「なんだ!」
「聖女が女じゃなきゃダメって決まってるの?もし、あたしが聖女じゃいっていうなら、元の世界に戻していただけるのかしら?」
「ななななな、お前は聖女にょ、しるし!をもっているのであろうが!」

噛んでるしぃ。めんどくさい、肉襦袢やろうねえ(どんどんひどくなってますが…)。

「でも、認めるの嫌みたいですもの。それにぃ?この勇者くんもいらないみたいなこと、そこの肉……こほん、方が言ってますしぃ?
だから、あたしを呼んでしまったお詫びに彼をもらってもいい?彼の所為でもあるみたいですもの。」
「「「「「はあああ?」」」」」

あら、みんな間抜け顔。
あたし、そんな変なこと言ったかしらねえ?

「お、お待ちくださいませ。あの、宰相様が言われたことにご不快があったことは魔法庁一同心より、お詫び申し上げます。ですから、まずはその、陛下にお会いしていただけませんでしょうか?」
「えー。めんどくさーい。」
「あ、あの聖女様。どうか、どうか。」

まあ、青い顔のルノベッチラさんは可哀想だし?宰相様とかいう肉塊さんは顔真っ赤にしてますけどねえ。
陛下ってことは、国王様ってこと?
いやーん。日本でいうなら皇族の方に会うのと同じわけでしょう?
めんどくさいの一言。
それに、今着てるの……ブランドものだけどカジュアルよー?そんなんで会うって、不敬なんじゃないの?

「すみません、聖女様。俺のせいで。俺、なんでもしますから。だから、あの。」

なんでも?なんでもって言った?言ったわよね?
んふふ。やだ。これ、いわゆる飛んで火に入る夏の虫ってやつじゃない?

「わかったわ。じゃあ、陛下?王様にお会いするわ。でも、あたし、このままでいいのかしら?」
「すぐに、着替えをご用意いたします!」
「お風呂あったら入りたいわー。」

だって、昨日仕事したままよ。

「おふろとは?」
「え?」

まさかでしょ?お風呂ないとかいわないわよね?

「お湯で体を洗って、流すところよ?」

せめて、お湯浴びくらいはできるわよね?シャワーとは言わないから!

「あの、湯をですか?体を布で拭くことではなくですか?湯でというのは聞きませぬが……水浴びならば、夏であればできましょうが。残念ながらただいまは冬にございまして。水浴びはめったなことでは……。」
「ノーーーーーーー!」

お風呂もシャワーもないの!
お湯浴びもないなんて!
ムリー!

「いますぐ、あたしをうちに返してー!」

お風呂がない世界なんて、いやーーーーーーーーーーーーーー!
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