車両故障は不可抗力

ぽやしみ仙人

文字の大きさ
1 / 21

1



「――本当にそれは意図的ではないのかね?」

「……え、ええ。言うまでもなく全ての車両故障が偶然です。事前に不具合がないかは念入りに乗務前に点検をしているので防げている――と思っています」

 四月の曇天が空一面に広がる、ある月曜日の午後のことである。
 午前中の乗務を終えた俺は、多摩産業バス中央営業所の面談室に招聘されていた。
 面談室には窓がなく、人工的な明かりしかないのでどこか不気味だった。
 例えるならば脱獄不可能な監獄、もしくは拷問部屋といった雰囲気だ。
 なんでこんな部屋があるのかは謎すぎるけれど、今はそんなことを気にしている余裕はない。
 なぜならば、目の前には強面で定評のある所長代理と、どこか疲れきった顔をした副所長がまるで俺を尋問するように腰掛けているからで。
 部屋の空気は重苦しいどころの騒ぎではなかった。

「いくら偶然と言ってもこの件数は無理があるだろ……。なあ、実籾。普通にバスの運転士をしていて年間三件もレッカーが必要な故障を引くと思うか?」

「まあ、故障する以上はそんなこともあるかと思いますけど……」

「あのな……。確かに絶対にあり得ないとは言わないけどよ、普通は定年まで運転して一回でも当たれば――っていう確率だぜ、これ。……代理、去年レッカーって何件でしたっけ?」

「去年、車庫内や路上故障を含めてレッカーされていった件数は事故を除いて全部で五件だ」

「全体で五件なのになんで実籾が三件も引いてるんだよ……。なあ、おかしいって思わねえ? なあ?」

 バン、と軽く副所長が不機嫌そうに真っ白なテーブルを叩いた。
 その音は大したことなかったが、室内の静寂さと相まって想像以上の迫力に思わず身体がビクッと反応する。

「普通は――あくまでも普通は、の話だが、こういう車両故障の時っていうのは我々管理が用意した書類に名前と判子で終わりで、こういう風に呼び出して事情聴取をするということはほとんどない。この意味はわかるね?」

「え、ええ……。普通ではなく特殊な事例で、先程も所長代理や副所長が仰っていたように、俺、いや私の乗っていたバスが壊れるのは意図的ではないかと疑っている――ということですよね?」

「ああ、その通りだ。我々としてもこういうことはあまりしたくないのだがね……。どうもレッカーの件数と人物との関連性が気に障ってね……」

「俺たちもこんな面倒なことはしたくねえんだけどよ、本社の連中がうるせえんだ、これが。お前も見習い時代に電話とか取ってたならわかると思うけど、あいつら細けえことにねちねちと問い詰めてくるから超面倒くせえ……」

 かったるそうに副所長は制服のポケットから苦虫を噛み潰したような表情でタバコを取り出し、ライターでそれに火をつけて紫煙を吐き出す。

「単純に整備不良の可能性はないのでしょうか? 中央営業所の工場では車検とか法定点検、突然の車両故障なんかを一日に何台も見ているわけですし……」

 どこの営業所でもそうだが、多摩産業バスでは整備工場を営業所に併設しており、法定点検、それに車両故障の修理をしている。
 特に中央営業所では唯一車検が出来るので、工場のピットや工場前には点検や修理待ちをする多くのバスで常に賑わっている。

「実籾、お前は自分の罪を責任転嫁しようっていうのか?」
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。