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「――本当にそれは意図的ではないのかね?」
「……え、ええ。言うまでもなく全ての車両故障が偶然です。事前に不具合がないかは念入りに乗務前に点検をしているので防げている――と思っています」
四月の曇天が空一面に広がる、ある月曜日の午後のことである。
午前中の乗務を終えた俺は、多摩産業バス中央営業所の面談室に招聘されていた。
面談室には窓がなく、人工的な明かりしかないのでどこか不気味だった。
例えるならば脱獄不可能な監獄、もしくは拷問部屋といった雰囲気だ。
なんでこんな部屋があるのかは謎すぎるけれど、今はそんなことを気にしている余裕はない。
なぜならば、目の前には強面で定評のある所長代理と、どこか疲れきった顔をした副所長がまるで俺を尋問するように腰掛けているからで。
部屋の空気は重苦しいどころの騒ぎではなかった。
「いくら偶然と言ってもこの件数は無理があるだろ……。なあ、実籾。普通にバスの運転士をしていて年間三件もレッカーが必要な故障を引くと思うか?」
「まあ、故障する以上はそんなこともあるかと思いますけど……」
「あのな……。確かに絶対にあり得ないとは言わないけどよ、普通は定年まで運転して一回でも当たれば――っていう確率だぜ、これ。……代理、去年レッカーって何件でしたっけ?」
「去年、車庫内や路上故障を含めてレッカーされていった件数は事故を除いて全部で五件だ」
「全体で五件なのになんで実籾が三件も引いてるんだよ……。なあ、おかしいって思わねえ? なあ?」
バン、と軽く副所長が不機嫌そうに真っ白なテーブルを叩いた。
その音は大したことなかったが、室内の静寂さと相まって想像以上の迫力に思わず身体がビクッと反応する。
「普通は――あくまでも普通は、の話だが、こういう車両故障の時っていうのは我々管理が用意した書類に名前と判子で終わりで、こういう風に呼び出して事情聴取をするということはほとんどない。この意味はわかるね?」
「え、ええ……。普通ではなく特殊な事例で、先程も所長代理や副所長が仰っていたように、俺、いや私の乗っていたバスが壊れるのは意図的ではないかと疑っている――ということですよね?」
「ああ、その通りだ。我々としてもこういうことはあまりしたくないのだがね……。どうもレッカーの件数と人物との関連性が気に障ってね……」
「俺たちもこんな面倒なことはしたくねえんだけどよ、本社の連中がうるせえんだ、これが。お前も見習い時代に電話とか取ってたならわかると思うけど、あいつら細けえことにねちねちと問い詰めてくるから超面倒くせえ……」
かったるそうに副所長は制服のポケットから苦虫を噛み潰したような表情でタバコを取り出し、ライターでそれに火をつけて紫煙を吐き出す。
「単純に整備不良の可能性はないのでしょうか? 中央営業所の工場では車検とか法定点検、突然の車両故障なんかを一日に何台も見ているわけですし……」
どこの営業所でもそうだが、多摩産業バスでは整備工場を営業所に併設しており、法定点検、それに車両故障の修理をしている。
特に中央営業所では唯一車検が出来るので、工場のピットや工場前には点検や修理待ちをする多くのバスで常に賑わっている。
「実籾、お前は自分の罪を責任転嫁しようっていうのか?」
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