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「ならバスの中でいいんじゃないですか? 屋根も椅子もありますし、そこらへんにうじゃうじゃいるでしょうし……」
「実籾、バスを虫みたいに例えるの止めてくれない? 気分が悪くなるでしょ、どうしてくれるの」
四街道が心底嫌そうな顔をしながら、工場長からは見えない角度で俺の脛をゲシゲシ蹴ってくる。洗礼ほどではないが、馬鹿にしていると結構痛い。
工場長はピットに止まっていたバスを指差し、こっちへ来いと手招きしてくる。
「それで、いったい話とは何だ?」
中ドア付近のすぐそばにある一段上がった席にどっしり腰掛けた工場長が、さっそくと言わんばかりに問い掛けてくる。
「実は、ですね……」
優先席と中ドアから入って目の前にある一人掛けの席にそれぞれ腰掛けた俺と四街道は、今までの経緯と俺が現在置かれている状況について簡潔に説明した。
最初はどこか真剣な表情で聞いていた工場長だったが、次第に話がおかしかったのか必死に笑いを堪えていた。
「それでこうして俺のところにアポまで取って来たってわけか。まあ、バスの車両故障のことならその手の専門家――整備士に聞くのが一番だもんな」
工場長はうんうん、とわざとらしく大袈裟に頷く。その姿は俺をバカにしているか、ふざけているようにしか見えない。
「んで、具体的に何が聞きたい? と言っても全て答えられるわけじゃねえからそこは勘弁してくれ」
「ええ、もちろんです。早速お聞きしたいのですが――ずばりバスが壊れる時というのはどんな場合でしょうか?」
「おいおい、いきなり随分と抽象的な質問じゃねえか……。そうだな――」
四街道の抽象的な質問に突っ込みながらも、少し濃くて伸びかけのあごひげを弄りながら工場長は思案する。
「――強いて言うのであれば、至極真っ当なことだが走行距離とかいろんなことの回数が多くなった時、だな……。バスもマシーンだから使えば使うほど当然磨耗してきたり、不具合が起きやすくなる。例外はあるが、な……」
「なるほど……。それはつまり定期点検――計画整備の後と前では前者の方が故障を引き起こしやすい、ということですよね?」
「あくまでも理論上というか確率とかの話では、な。後は俺の個人的な見解だが、小さな故障があった後とかだな……」
「小さな故障?」
工場長の意図がわからず、俺は思わず聞き返してしまう。
「バスってのは人間と一緒で繊細な生き物だ。デカい故障って前置きがなく突然起こるものと思っているかもしれねえが、その前ってのは小さなサイン――前兆が現れることもある。全部が全部ってわけじゃないがな」
「そう考えてみるとヒヤリハットと同じですね」
「やはりヒット? なんだ、そりゃ」
聞きなれない言葉に工場長は小首を傾げる。
「いや、ヒットしちゃダメだろ……。ヒヤリハットっていうのは、一件の重大事故には二十九件の軽微な事故と三百件のヒヤリハット――ヒヤリとかハッとした事故ではない事象が潜んでいるっていう『ハインリッヒの法則』のことです」
「なるほど……。難しいことはさっぱりだがよくわかった」
理解はしていなかったようだが、納得はしたようで工場長は大きく頷いた。
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