ルマニア戦記・『○×△□◇の逆襲!』

おおぬきたつや

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緊急発進! 濃霧の先にあるもの…!?(第二幕)

シーン3

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「ん? お、コイツは…!」

 何故か格納庫の外を視線で示しながらのクマのパイロットのセリフに、ブルドックのメカニックはこの不可思議な目つきがすぐに大きく見開かれることとなる。
 どこか遠くから鳴り響いていた車両の走行音らしきは確かにそれと耳にしていたのだが、その近づいてきた実物を見て思っていた以上の大きさと物々しさに感心するコトしきりだ。

「はあん、なるほどね? アーマー輸送用の高速水陸両用車ランド・クルーザーってヤツか! これなら今からでもあれの鈍足をどうにか補えるわけだ。暗いうちならそうそう目立たないし、これくらいのサイズなら入り組んだところも無難に乗り付けられるってもんでよ? まったく、うちの弟子の器用なのに感謝しな! あいつは機械を扱わせたら乗るのもいじるのもピカイチだ。ん、それはそうと、アーマーのっける荷台の後ろにくっついてるのは、ありゃ何だ??」

「ちょっとしただよ♡ 俺なり今回の対策を考えたら、きっと一番有効な手段だと思うんだ。あれのおかげで話を通すのに難儀したけど、司令の了解を取り付けたらあっという間だったね♪ おまけに装備部のあのかわいい小熊族、レッサーパンダのおやじさんはハグするまでもなくすぐさまモノを調達してくれたし!」

「ああ、でかいクマのタチの悪さをきっちり理解してやがるんだな? おなじクマ族だけによ。というかあんなごちゃついた飛び道具、ろくな火器管制もなしにどうやってぶっぱなすんだ?? うちの愛弟子リドルにゃそこまでのスキルはありゃしねえぞ、神様じゃあるまいに!」

 あまりに落ちないのらしいしかめたツラを傾げるおやじに、のんきなクマはおおらかな笑顔のままでふふとしたり顔する。

「ははん、♡ まあそこらへんはご心配なく、ちゃんと考えてるよ! にしてもあの機械小僧ときたらクルーザーどころかアーマーの操縦もできるんだって? 恐れ入っちゃうよな。おやっさんにどんだけしごかれたのか知らないが、みずから乗り回して機体の整備もできるパイロットなんて世間じゃそうそうお目にはかかれないってもんだよ♡♡」

「は、バカ言っちゃいけねえ! おれっちはそこまで都合良く仕込んだ覚えはねえや、いいか、アーマーの操縦に関してはまるきりのなんだから、あんまりおかしな期待はしてくれるな。整備しても誰も乗りたがらねえからやむなく自分で動かしてるうちに身につけたもんで、およそ実戦向きじゃありゃしねえんだからよ。危険な真似をさせるんなら今すぐあいつをあそこから引きずり下ろすぞ? 悪いがメカニックはパイロットの言いなりのデクじゃありしねえんだっ…」

 あんまりにものんきな言いぐさに思わずがみがみと噛み付きかけたブルのオヤジだが、そこにちょうど倉庫の真正面に乗り付けた搬送車両の出入り口がガチャリと開いて、若いメカニックがひょっこりと顔を出す。
 大型車両の高い位置から見下ろした先にでかいクマと小柄な師匠の姿を認めて、何かしらその微妙な空気を見て取ったのらしい。
 勘のいい若者はちょっと不思議そうなきょとんとした目つきだ。



「お待たせしました! 准尉どのっ、あれ、親方? どうかしましたか??」

 弟子がかわいいあまりに熱くなりかけてちょっとバツが悪そうにそっぽを向くブルドックに、苦笑いのクマははじめ小声でわびながら、すぐに若い同類のクマ族へと向かう。

「もちろん、ムリなんかさせやしないさ! こっちとしても有能なメカニックはのどから手が出るくらいに欲しいんだから♡ さらに有能なメカニックを落胆させるようなマネ、するわけないだろう? だからちょっとだけ、あんたの大事な息子さんをお借りします…! いざって時は命に代えても守ってみせるよ♪ いや、いいんだ! それじゃすぐに出られるよな? 荷台のアーマーハンガー、こっちに向けて開けておいてくれ、あっと、それと、ちゃんと用意してあるんだよな、リドル?」

「はい! もちろんであります! 先発したウルフハウンド准尉にもおなじくご用意しましたが、あまり納得はしておられなかったようで…? アーマー乗りはこんなものを着けて白兵戦なんてしないとおっしゃっていましたが…」

 言われたこと、ちょっとじぶんでも不可解に思っているのか?
 若手のメカニックが視線を逸らして口ごもるのにも、対して陽気なクマさんは明るく笑い飛ばしていかついパイロットスーツの両肩を大きく上下させる。

「あっはは! いいんだよ、何も白兵戦するためじゃない。万が一、いざって時の代わりさ♡ なんたってあいつには特に必要なんじゃないのかな?? それじゃ出来れば夜が開ける前に合流したい。出払っているのはだったよな?」
 
「おうよ、うちはすでに二番隊と四番、昨日は七番隊がおかしな怪現象にやられちまってるからな? 遠征してる一番と補助の六番をのぞいたら、そいつらがまさしく最後の部隊だ…!」

 いかめしいツラのブルのオヤジの言葉を頭の中で反芻はんすうして、なかばからあれっ? とこの目つきが丸くなるベアランドだった。

「ふうん…! 遠征って、どこかしら首尾範囲外のゴタゴタの後片付けなんだろ? 前線基地はどこでもやることがハードだよなっ、あれ、一、にぃ、の、四、六、七ときて、あ! はどうしたんだ? そもそもあんまり聞かないけど??」

「ん、いいや、そいつらはいろいろと問題ありで、今は部隊を解散させられちまってるよ! 知らねえのか? 今は基地の反対側の外れでみんなで仲良く営倉送りだ! なにしでかしたかしらねえが、上からの覚えがすこぶるに、ひょっとしたらおまえさんより悪いんじゃねえのか? よくメカニックともケンカしてそのたびにうちのリドルが呼ばれてたから、むしろあいつに聞いたほうがわかるだろうさ」

「へえ? いや、俺は今日、上層部とはすこぶる円満な和解をしてきたよ♡ お互いにちょっとしたボタンの掛け違いだったんだ。うん! それにのとはほんとに紙一重で、俺の全身ハグってけっこうクセになるらしいから、今度は向こうさんからせがんでくるよ♪ イノシシの補佐官、四十肩がすっかり直ったってびっくりしてたし、しまいにゃずっと赤面してモジモジしてた基地の司令さんなんて、次は下手すりゃしちゃうんじゃないのかね?」

「ほんとに何しやがったんだよ? おれっちのリドルにはやるんじゃねえぞ?? 心配で仕方ねえや! まったく、とっとと行って、早いとこ帰ってきやがれ!!」

 げんなり顔で毒づくオヤジに、笑顔でしたり顔したクマはびしっと姿勢を正して大げさな敬礼をして返すのだった。

「はいはい♡ それでは、コリンス・ベアランド准尉、これよりリドル・アーガイル伍長を伴って、謎の敵対勢力の鎮圧、ならびに味方部隊の救援に行ってまいります!!」

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