猫な彼女と普通な彼。

滑るさん

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異変

第4話 保健室

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「……………」

『あの…ショウさん?』


何故こうなった。私は今見つめ合ったままショウに抱き抱えられている。それは勿論……猫の姿で。


何故、こういう状況になったのか、理由は、数十分に巻き戻る。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








4時間目全てのテストを終えた私は、ぐったりしながらもお弁当を食べようとする。
このお弁当は、弟の手作り。部屋から降りてくる前に、作ってくれていたのだ。料理男子はモテるなー。
昼休みは、テスト勉強の時に祝福を感じる時間。緊張感がほぐれ、ゆったりとお弁当を食べている。
絶好の晴れ模様で、柔らかいそよ風が肌に感じる。学校の中庭のベンチで食べていると、隣に誰かが座った。


「よっ」

「……………あんたも来たのね」


黒い弁当箱を持っているショウだ。


「場所がなかったんだよ。他の奴は食堂に行くわ、恋人の所に行くわで嫌だったんだ」


ショウは気に食わなかったからか、私の居そうな場所に来たというわけか。
で、的中したと。エスパーかお前は!


「ここは静かだなー。放課後は部活動でいっぱいになるのに、どうして昼休みになるとこう静かになるんだろう」

「そうだね」

「いや。『そうだね』じゃあねぇぞ?」

「今は食べる事に集中したいの。昼休み終わっちゃう」

「多少の会話は問題ないだろうに。それでテストに響いてたら、静まり返ってるな……くくくっ」


面白い事を言った気はしないが、楽しそうに笑うショウを見て、確かにと私も笑った。
人間だと、こんなに楽しい事がある。なのに、私は人間には無い物を持ってしまった。
前日の異変。首の傷を負ってから、何かが変わった気がした。ほんの小さな変化だけど、確かに私の何かが変わったのは変わりなかった。


(ま、いっか。早く完食しないと)


水色の箸で残りのおかずを食べ終えようと、箸を動かす。








(あれ、力が……入らない、?)


普通に食べていた筈が、箸を動かす力が入らず、何度も試すも効果がない。


(どうして……)

「どうかしたか?」


箸を見ている私の心配して、優しげな声で聞かれる。
私は、箸が動かせない事を伝えると『そんなバカな』と私の手を握る。


「握れるか?」

「……………無理、だね。でも、こんな事になるなんて」

『これでも駄目か……』と呟くと、何か思ったのか考えている事を口に出した。

「緑の猫のせいじゃないのか。首を引っ掛かれて、たまたま腕の神経が壊れたとか?」

「怖いこと言わないでよ。それだったら、さっきまで箸を持てた事が奇跡みたいに聞こえる」

「確かにな」


そんな冗談みたいな事が起きていたら、私はもう……。
これ以上考えては、また泣いてしまいそうになる。一旦考えるのを止めて、保健室に行く事に専念しようとする。
ベンチから立ち上がろうとするも、立ち眩みにあい、ショウは慌てて押さえる。


「病院に行った方がいいんじゃないか?テストを受けるのも止めて……」

「テストは受ける。大事な事を投げ出したくないの。病院に行くと、桂が心配する」

「何強がってンだよ。テストより自分の体調だろ?ほら、肩貸してやるから」

「いや、大丈夫だから………」


保健室に行けると言いたかった。
だけど………声が出なかった。出せなかった。立ち眩みの次は、胸が苦しくなり、立っていられなかった。


(……っ。どうして、………まさか!)


この痛みは感じた事がある。もし、病状が学校ここで起こってしまったら、取り返しがつかない。
胸が痛むなか、保健室に行けるの?


(ショウ………)


名前を呼ぼうとするが、喋る前に間に合わず意識が遠くなった。
やっぱり、こうなっちゃった。
倒れかけた矢先、ショウが支える。その顔はどこか………。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








「では、担任に言っておくのでゆっくりしていきなさい」

「ありがとうございます」


先生と生徒が話す声が聞こえた。起きた所は白いベッドの上。白いカーテンが閉められており、そっち側を見る事が出来ない。ということは、ここは保健室?
気を失っている間、シュンがここまで運んでくれたのかな。


(シュンは、どこに?私はどれくらい気を失ってたんだろう。テスト勉強は……?)


時計もカーテンが邪魔で見れず、何時間目なのか確認も取れない。
私はどうすればいいのか、その場考えていると、カーテン越しに大きい人影が近寄ってくる。


(………大きい?)


またも違和感に気づいたが、一回なっている訳だし流石に抵抗はなかった。


(そんなことよりも。ここは保健室であってるよね。ここからじゃあカーテンが邪魔で時計も見えない。………テストにも間に合わないな。これ)


小さなため息を漏らす子猫。保健室のベッドであろう白い布団を器用に退ける。
さっきの話によればここに保健室の先生がいると理解できた。
先生にバレずここから抜け出せるか悩んでいると、白いカーテンが開けられた。


(あ!)


この姿を見られる訳にはいかないと隠れる場所を瞬時に探すが、聞こえてきた声は聞き覚えがあった。


「慌てすぎだよ。凛は分かりやすいな」

(………なんだ。ショウか)


自分の事情を知っている人物が現れ、さっきの慌ただしさが失せた。ほっとしてしまった。
ここまで私を運んでくれたことには感謝している。でも、今はそれどころでは………。


「にゃぁ!(ひゃぁ!)」

「あん時はあんまり触れなかったからな。………嫌だった?」


背中を撫で始めたと思いきや、尻尾を優しく弄り初め、ゾクゾクと不思議な感覚がした。
人間にはない器官のため、変な声(鳴き声)を出してしまった。


『何するのよ!』

「嫌だったか………」


『フゥー!』と毛を逆立ててこっちが怒っているように見えたのか。撫でていた手が離れた。
スマホがあれば伝えることはできるけど。テスト期間は人通りが多い。
猫が学校に侵入してるとなると、SNSで拡散されるか。外に追い出されてしまう。


「にゃぁ…。にゃう(そんな顔しないでよ)」

「いや、嫌と思ってるならしょうがないし。意思を伝えてくれるなら」

『伝えたいけど、言葉が出ないのよ』

「くそ、猫の言葉が分かればな………」


猫の言葉が分かるなんて人間離れしている。
それなら私も苦労しないけど、現実はそうはいかない。


「取り敢えず。休み時間になったら俺の鞄の中に入れるけど。欠席にしちゃったらテスト赤点確定だな」

「にゃぁぁっ!?」

「補修受けさせられるな。真面目なのに」

「にゃぁぅ‥」


テストの補修なんて嫌だなぁと考えたが、今の姿だとそれを納得させるのに充分な理由がある。
今は六時間授業が終わるチャイムが鳴り響き、今日のテスト期間はこれで終わり。
明日は戻っていればいいなと楽になる。
ショウは自分の鞄を持ってきたのだが、何故か私の鞄も一緒に持ってきていた。


「にゃ?」

「あ、あぁ。凛。お前が猫になって一番困ったことがあるんだが」

『何よ。話せないことなの?』

「服………」

『服?………あ、ああぁ!?』


ショウは何処か言いたげな顔でやっと分かった。わかってしまった。私が猫になると制服は床に散らばり落ちる。ということは、私の下着も………。


「に、にゃぁぁっ!うにゃああぁぁぁぁぁ!」

「ごめんて!俺が制服をしまった訳じゃなく、保健室の先生がやってくれたんだ‥。その、下着もあることだから」

『変態!バカ、ショウのバカぁ!』


猫パンチで叩くも恥ずかしさは晴れず、きっと人間なら顔を真っ赤にして熱いだろう。
幼馴染に見られるのは不可抗力というのかどうなのか分からないが、取り敢えず猫パンチはお見舞いしておく。








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遅くなりました。すみません。


次回、皆大好きお風呂
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