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幸運の女神

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「ぴよぴよ(そんなことはどうでもいいわ。それより、トウシくん)」

「どうでもようないやろ」

「ぴよぴよ(数合わせはツカムくんに任せるとして、部活にはいつ顔を出すの?)」

「とりあえず、明日、金曜やから、顔出してシメるつもりや。二・三年がゴチャゴチャ言いよったら、時速200キロぐらいの球で足元えぐったるわ」

「200キロは、秩序的に、投げちゃダメなんじゃなかったですか?」

「足元に叩きつけるだけやったら、地肩の強いヤツくらいにしか思わへんわ」

「ぴよぴよ(というか、そもそもの話として、シメる必要がないと思うのだけれど)」

「ワシらは、一致団結して、豪快な茶番かまさなあかんねんから、最初にガツンと力関係を把握させとかな、色々としんどいねん」

「一致団結して茶番をかますって、なんか、面白い表現ですね。ウケます」

「ぴよぴよ(まあ、魔人が高校生相手に野球やるなんて、メジャーリーガーが園児を相手にするより、状況的には酷いわけだから、茶番と言ってもなんら過言ではないわけだけれどね)」

「確か、僕らの力は、例えると、百メートル走で一秒切る級でしたっけ。だとすると、確かに、高校生なんて話になりませんね……ん? あ」

「どないしたん?」

「幸運の女神さまを発見しました。幸先はよさそうです」

「幸運の女神?」

「あそこです。あの女子」

 指をさす方を見てみると、長身の女生徒が肩で風を切って歩いていた。

「『古宮 麗華(こみや うららか)』。彼女、ウチの中学でアイドルだったんですよ。ファンクラブとかありましてね。アホみたいにモテまくっていて、確か、中学の段階で、キープが十六人いたそうです」

「バブル期かっ。キーブ16人って、そんなもん、アホが流した、ただの噂やろ?」

「いえ。自分で言っていたので、事実だと思いますよ。見栄を張っているというより、自信満々という感じだったので、ウソではないと思います。ぼく、目の前の人間が、マジで言っているか、見栄を張っているだけか、見極めるの得意なので、確信を持っていえます」

「……ほな、あいつ、マジで16股しとった言うんか。しんどいな、おい。てか、そういう話聞いたら、ワシ、すごい気分悪なるから、言うな、ボケ」

「トウシくんって、変に純情ですよね」


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