17 / 65
女神のリスト
しおりを挟む
「……」
「まあいいわ。ところで、調子はどう?」
「……それ、もしかして、今後、毎日聞くつもりか」
「現状、ほかにも目をつけている選手が十九人ほどいるけれど、潜在能力の高さはあなたが一番だと私は睨んでいるのよ。一番能力が高い人間に一番時間を使う。当然のことよ。それで、今日の調子は?」
「最悪だ……だが、あるいは最高に向かっているのかもしれない」
「は?」
「田中東志。あの男は、お前のリストに入って……いるわけがないな」
「田中? 誰?」
「チームメイトでウチの……いや、というか、自分でみつけろよ。それが仕事なんだろ」
「メインはスカウトではなく代理人なのだけれど、まあいいわ。田中東志……あなたが認めている男という事でいいのかしら?」
「そいつに……さっき打たれた」
「こんな学校に、あなたの球を打てるバッターが? ……へぇ、面白いじゃない。たぶん、マグレなんでしょうけど、それでも、一見の価値はありそうね」
★
家に帰ったトウシは、いつもどおり、ベッドにダイブし、
「三分類、あいつ、原石なんは確かやけど、内面的な問題が多すぎる……ワシ、あれをうまく使えるんやろうか……はぁ」
溜息がとまらない。
上手くいく未来が見えない。
「でも、あいつの存在は、正直、助かった。上手く扱えれば、不正を疑われん五連覇も不可能やない……」
不安はまだ山積みだが、わずかな光を見つけた。
トウシは、潰れそうになる心を必死に奮い立たせ、今後について、頭を悩ませる。
もちろん、厳しい。
どれだけ甘い計算をしても、必ずどこかで破綻する。
「ああ、頭痛がする。胃も痛い……マジでしんどい。かっこつけるん、さすがにもうヤメよかな……いや、でも……でも……」
トウシは必死に頭を回転させる。
弱音を吐こうが、グチをこぼそうが、
しかし、どんな時でも、考えることだけはやめない。
オーバーヒートしようが、脊髄が沸騰しようが、トウシは考えるのをやめない。
「ワシにしかできん仕事なんは事実……あいつらの前では、最後までかっこつけたる。そうやないと、真っ先にワシが折れてまう。この部屋を出た後は、どんな時でも、顎を上げて言え。これは……ワシにしかできん不可能やと」
魔法の呪文。
自分へのムチ。
へし折れないように。砕けてしまわぬように。
「不可能を、現実に、可能にするために、もっと考えろ……深く……深く……」
どんなに辛くとも、どんなに苦しくとも、トウシは必死に頭をまわす。
ずっと、そうやって、生きてきた。
彼は、それしか生き方を知らない。
トウシは――
「まあいいわ。ところで、調子はどう?」
「……それ、もしかして、今後、毎日聞くつもりか」
「現状、ほかにも目をつけている選手が十九人ほどいるけれど、潜在能力の高さはあなたが一番だと私は睨んでいるのよ。一番能力が高い人間に一番時間を使う。当然のことよ。それで、今日の調子は?」
「最悪だ……だが、あるいは最高に向かっているのかもしれない」
「は?」
「田中東志。あの男は、お前のリストに入って……いるわけがないな」
「田中? 誰?」
「チームメイトでウチの……いや、というか、自分でみつけろよ。それが仕事なんだろ」
「メインはスカウトではなく代理人なのだけれど、まあいいわ。田中東志……あなたが認めている男という事でいいのかしら?」
「そいつに……さっき打たれた」
「こんな学校に、あなたの球を打てるバッターが? ……へぇ、面白いじゃない。たぶん、マグレなんでしょうけど、それでも、一見の価値はありそうね」
★
家に帰ったトウシは、いつもどおり、ベッドにダイブし、
「三分類、あいつ、原石なんは確かやけど、内面的な問題が多すぎる……ワシ、あれをうまく使えるんやろうか……はぁ」
溜息がとまらない。
上手くいく未来が見えない。
「でも、あいつの存在は、正直、助かった。上手く扱えれば、不正を疑われん五連覇も不可能やない……」
不安はまだ山積みだが、わずかな光を見つけた。
トウシは、潰れそうになる心を必死に奮い立たせ、今後について、頭を悩ませる。
もちろん、厳しい。
どれだけ甘い計算をしても、必ずどこかで破綻する。
「ああ、頭痛がする。胃も痛い……マジでしんどい。かっこつけるん、さすがにもうヤメよかな……いや、でも……でも……」
トウシは必死に頭を回転させる。
弱音を吐こうが、グチをこぼそうが、
しかし、どんな時でも、考えることだけはやめない。
オーバーヒートしようが、脊髄が沸騰しようが、トウシは考えるのをやめない。
「ワシにしかできん仕事なんは事実……あいつらの前では、最後までかっこつけたる。そうやないと、真っ先にワシが折れてまう。この部屋を出た後は、どんな時でも、顎を上げて言え。これは……ワシにしかできん不可能やと」
魔法の呪文。
自分へのムチ。
へし折れないように。砕けてしまわぬように。
「不可能を、現実に、可能にするために、もっと考えろ……深く……深く……」
どんなに辛くとも、どんなに苦しくとも、トウシは必死に頭をまわす。
ずっと、そうやって、生きてきた。
彼は、それしか生き方を知らない。
トウシは――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる