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マンガ症候群

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「一年で、左で……30超えか。一流の素材じゃねぇか」

「ていうか、須藤、お前、あいつのことは知っていたのかよ。全然知らん事ないじゃないか。言えよ」

「週二しか練習しないカスの中に一人、ネットに向かって小マシな球を投げているヤツがいましたって報告、意味あるか?」

「……ねぇな」

「所詮は、30台そこそこの、ちょっと速い球を投げる雑魚が一人いるだけのチーム。偵察報告なんて、知らんで充分だろ」

「甲子園大会のレベルじゃねぇ事は確かだが、しかし、素質は本物だ。あいつ、なんで、あんな高校にいんだよ」

「たぶん、マンガ症候群」

「マン……ん?」

「H2とかメジャーみたいに、弱小に入って、自分の力だけで強豪を倒そうと夢想する病気。毎年、何人かは発症するみたいだよ」

「マジかよ、よかった、感染しなくて」

「いやいや、俺らは、どっちかっていうと、発症しているほうだろ。わざわざ新設に入ってんだから」

「俺は、提示されたメンツと設備を見て決めた。弱小に入ったつもりはねぇよ。実際、去年は一年だけでベスト8まで進んだじゃねぇか」

「秋と春は、どっちも二回戦で負けたけどな」

「西教と字石に当たっちまっただけだ。俺たちは二回戦レベルじゃねぇ」

「そうだな。でも、結果を出さないと、みっともない遠吠えだ」

「だから、勝つんだ! 今年は運がいい! 運悪くシード取れなかったと思ったら、神様は、俺らに、勢いをつけるための踏み台を用意してくれた! アホな勘違い一年生投手のワンマン弱小高校なんざ、片手でひねりつぶしてやるぜ! 神は言っている! 今年は俺たちの時代だと!」

「そうだな。今年は、もしかしたらってレベルにまでは達したし……よし、神様のご厚意に甘えさせてもらって、思いっきり勢いをつけよう」

「今日は五回……いや、三回コールドを目指す!」

「左の30超えが相手だぞ。さすがに三回コールドは厳しいだろ。七回なら余裕だと思うけど」

「あの一年がマシなのは認めるが、『中学出た直後にしては、すげぇ速い』ってレベルでしかねぇだろ。そんでもってバックは、マシンガン被害を受けた蜂の巣状態のザルだ。その程度のカスを三回コールドにもできないようで、そのあとに控えている三国や西教に勝てるか!」

「ま、それもそうか……よし、じゃあ、三回コールド、狙ってみようか」

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