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第六章 真相
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【彼】の家は何度も来たことがあった。もちろん、発表会の練習の時、毎日のように【彼】の家か僕の家で練習していたので当然と言えば当然だけど、そんなに身近な場所に〝開けなくてはならないもの〟があるなんて思いもよらなかった。
それより【彼】の家にはもう来ないと決めていたのになぁ……。
【彼】の家に着き、インターホンを鳴らすと、【彼】のお母さんの声がした。聞き慣れたはずのその声は、前よりも声に張りがなくなっていた。
「はい、……どちら様でしょう?」
「光莉です」
彼女が答えた。
「あら、ちょっと待っててね」
声のトーンが少しだけ上がった。お母さんは彼女を知っているようだった。まぁ、付き合っていたのなら当然か。もしかして、お母さんも計画のことを知っているのではないかと一瞬思ったけれど、それならノートを家族禁止にする必要はないなと思い直した。
しばらくして、カチャっとドアの鍵を開ける音がして、お母さんが出てきた。お母さんは、予想外の人数に少し驚いた様子だったけれど、どうぞと言ってみんなを中に入れた。
彼女は何やらお母さんと話しているようだった。お母さんは、前に会ったときと比べて気のせいか、少し顔が窶れ、疲れきっているように見えた。でも彼女と話しているときは、それでも昔の明るさには程遠いけど、少しだけ明るく見えた。
お母さんは、みんなをリビングに案内した。その奥には、一際存在感を放つ仏壇があった。死んでからもこんなに存在感を放つなんてと、僕は苦笑した。みんなで順番に線香をあげていると、ふとお供え物くらい持ってくれば良かったと思った。
みんながお参りをしている間に、お母さんはミルクティーを淹れてくれた。そう言えば【彼】はミルクティーが好きだったなぁと思い出す。
みんながテーブルについたのを確認すると、お母さんは話し出した。
「それで、記事は出来そうかしら?」
「……?」
……記事? 一瞬意味がわからなかった。
「えっ、ええ、もうすぐ出来ます」
答えたのは彼女だった。それで、記事というのが新聞のことだと気がついた。どうやらお母さんは、【彼】についての記事が出来ることを知っていて、その関係で僕たちが来たと思ったようだった。先程からお母さんがどこか明るかったのはそのためかと納得する。
「あの、実は今日、【彼】のことについて話さなければいけないことがあって、お母さんにも聴いていただきたいのですがよろしいですか?」
彼女が早速本題を切り出した。やはりお母さんには計画のことは話していないようだ。
「ええ、いいけど……何かしら?」
お母さんは不思議そうに言った。
「まず、【彼】の部屋を見せていただきたいのですが……」
「ええ、どうぞ」
そう言って、お母さんは立ち上り、二階にある【彼】の部屋へ、みんなを案内した。
〝開けなくてはならないもの〟は【彼】の部屋にあるのだろうか。
【彼】の部屋は前に来たときと、全くと言っていいほど変わっていなかった。
まず目に入ってくるのは、真ん中に大きく存在を主張する【彼】のグランドピアノ。ベヒシュタイン社のそれは、【彼】が後生大事にしていたものだ。ホコリ一つ被っていない様子から、お母さんがしっかり手入れをしているのだろう。でも誰も弾いてくれないなんて可愛そうだなと思った。
その後ろには【彼】の机がある。茶色い木目の立派な【彼】の机は、前に来たとき同様、綺麗に整頓されていて、【彼】の几帳面な性格が顕れている。
その横には、額縁に入った賞状や、トロフィーが飾られている。【彼】がピアノのコンクールで獲った賞の数々だ。
入り口側の壁には、【彼】のベッドが置かれている。反対側には、防音対策として二重サッシになっている窓。入り口から見て右手の壁には、たくさんのレコード盤が並べられている棚があり、その横にはそれを再生するレコードプレーヤーが置いてある。これは【彼】のお父さんの趣味だと、前に【彼】から聞いたことがあった。
【彼】の部屋をぐるっと一周見てみて、改めて思った。【彼】の部屋に南京錠なんてあっただろうか?
彼女は、【彼】の机の方へ行き、くるりとこちらに向いた。
「水城くん。ピンタンブラー錠って、昔の住宅の鍵や南京錠以外に、机の鍵なんかにも使われることがあるって知ってた?」
「えっ?」
彼女は後ろにある机の一番上の引き出しには、右側に鍵穴がついていた。
「あの鍵はここのだよ。水城くん、開けてみて」
僕は彼女に言われた通り、鍵を取り出して、鍵穴に挿し込んでみた。
すると、鍵は難なく入った。
回してみると、カチッと音がして鍵が開いた。
恐る恐る引き出しを手前に引くと、引き出しは動き出し、中身が露わになった。
中には、一枚のレコード盤と、『ニジくんへ』と書かれた封筒が一通入っていた。
「これは……、手紙?」
僕は封筒を取り出した。
「うん、そうだよ。【彼】から水城くんへの。そこに計画について書いてある」
僕は封を切って中を開けた。
中には三つ折に折られた手紙が入っていた。
それより【彼】の家にはもう来ないと決めていたのになぁ……。
【彼】の家に着き、インターホンを鳴らすと、【彼】のお母さんの声がした。聞き慣れたはずのその声は、前よりも声に張りがなくなっていた。
「はい、……どちら様でしょう?」
「光莉です」
彼女が答えた。
「あら、ちょっと待っててね」
声のトーンが少しだけ上がった。お母さんは彼女を知っているようだった。まぁ、付き合っていたのなら当然か。もしかして、お母さんも計画のことを知っているのではないかと一瞬思ったけれど、それならノートを家族禁止にする必要はないなと思い直した。
しばらくして、カチャっとドアの鍵を開ける音がして、お母さんが出てきた。お母さんは、予想外の人数に少し驚いた様子だったけれど、どうぞと言ってみんなを中に入れた。
彼女は何やらお母さんと話しているようだった。お母さんは、前に会ったときと比べて気のせいか、少し顔が窶れ、疲れきっているように見えた。でも彼女と話しているときは、それでも昔の明るさには程遠いけど、少しだけ明るく見えた。
お母さんは、みんなをリビングに案内した。その奥には、一際存在感を放つ仏壇があった。死んでからもこんなに存在感を放つなんてと、僕は苦笑した。みんなで順番に線香をあげていると、ふとお供え物くらい持ってくれば良かったと思った。
みんながお参りをしている間に、お母さんはミルクティーを淹れてくれた。そう言えば【彼】はミルクティーが好きだったなぁと思い出す。
みんながテーブルについたのを確認すると、お母さんは話し出した。
「それで、記事は出来そうかしら?」
「……?」
……記事? 一瞬意味がわからなかった。
「えっ、ええ、もうすぐ出来ます」
答えたのは彼女だった。それで、記事というのが新聞のことだと気がついた。どうやらお母さんは、【彼】についての記事が出来ることを知っていて、その関係で僕たちが来たと思ったようだった。先程からお母さんがどこか明るかったのはそのためかと納得する。
「あの、実は今日、【彼】のことについて話さなければいけないことがあって、お母さんにも聴いていただきたいのですがよろしいですか?」
彼女が早速本題を切り出した。やはりお母さんには計画のことは話していないようだ。
「ええ、いいけど……何かしら?」
お母さんは不思議そうに言った。
「まず、【彼】の部屋を見せていただきたいのですが……」
「ええ、どうぞ」
そう言って、お母さんは立ち上り、二階にある【彼】の部屋へ、みんなを案内した。
〝開けなくてはならないもの〟は【彼】の部屋にあるのだろうか。
【彼】の部屋は前に来たときと、全くと言っていいほど変わっていなかった。
まず目に入ってくるのは、真ん中に大きく存在を主張する【彼】のグランドピアノ。ベヒシュタイン社のそれは、【彼】が後生大事にしていたものだ。ホコリ一つ被っていない様子から、お母さんがしっかり手入れをしているのだろう。でも誰も弾いてくれないなんて可愛そうだなと思った。
その後ろには【彼】の机がある。茶色い木目の立派な【彼】の机は、前に来たとき同様、綺麗に整頓されていて、【彼】の几帳面な性格が顕れている。
その横には、額縁に入った賞状や、トロフィーが飾られている。【彼】がピアノのコンクールで獲った賞の数々だ。
入り口側の壁には、【彼】のベッドが置かれている。反対側には、防音対策として二重サッシになっている窓。入り口から見て右手の壁には、たくさんのレコード盤が並べられている棚があり、その横にはそれを再生するレコードプレーヤーが置いてある。これは【彼】のお父さんの趣味だと、前に【彼】から聞いたことがあった。
【彼】の部屋をぐるっと一周見てみて、改めて思った。【彼】の部屋に南京錠なんてあっただろうか?
彼女は、【彼】の机の方へ行き、くるりとこちらに向いた。
「水城くん。ピンタンブラー錠って、昔の住宅の鍵や南京錠以外に、机の鍵なんかにも使われることがあるって知ってた?」
「えっ?」
彼女は後ろにある机の一番上の引き出しには、右側に鍵穴がついていた。
「あの鍵はここのだよ。水城くん、開けてみて」
僕は彼女に言われた通り、鍵を取り出して、鍵穴に挿し込んでみた。
すると、鍵は難なく入った。
回してみると、カチッと音がして鍵が開いた。
恐る恐る引き出しを手前に引くと、引き出しは動き出し、中身が露わになった。
中には、一枚のレコード盤と、『ニジくんへ』と書かれた封筒が一通入っていた。
「これは……、手紙?」
僕は封筒を取り出した。
「うん、そうだよ。【彼】から水城くんへの。そこに計画について書いてある」
僕は封を切って中を開けた。
中には三つ折に折られた手紙が入っていた。
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