1 / 31
1:神様とキャンプ飯
しおりを挟む
「落ち着こう。まずは昼飯でも作るか」
キャンプに来た──はずだった。
芝生の上にテントを張り終え、一休みしようと椅子に座るのと同時に景色は一変。
ここは森だ。
張ったテントもカートも、椅子やテーブルもそのままある。
だけど景色が違うし、さっきまで見えていた他のキャンパーの姿もない。
どうなっているんだ、いったい。
「ふぅ。えぇっと、昼は……ホットサンドにするんだったな」
カートから調理器具と食材を取り出す。
スモークハムのブロックを、ちょっと厚めに切って塩と胡椒をすこーしだけ振る。
ホットサンドメーカーを開いて、片面にパン、レタス、ハム、チーズ、パンの順に乗せて蓋を閉じて焼く。
いい具合に焼き色が付けば完成!
クーラーボックスから炭酸コーラを取り出し、ホットサンドと一緒にテーブルへと置いた。
「いただきま──」
口を開けて構えていると、奥の茂みがガサガサと音を立てて揺れた。
人か!?
「おぉ、おおぉぉ。いい香りがするのぉ」
「おやまぁ、ほんとですねぇ」
「こんな森の中でお食事かね、お若いの」
「なかなか勇敢な青年じゃのぉ」
茂みから出てきたのは、汚れたワンピースを着た四人のお年寄り。
男性三人、女性ひとりのお年寄りは、じぃーっとこちらを見ていた。
明らかにホットサンドを見てるよな。
よっぽどお腹が空いているんだろう。ま、これも何かの縁だ。ご馳走しよう。
「新しいの焼くんで、ちょっと待っててくれますか」
食パンは六枚切りだから、ホットサンドは三つしか作れない。
一つ作ったら最初のと合わせて半分に切り、それを四人に渡していく。
「飲み物は……クッカー、これしかないもんなぁ」
「マイコップがあるぞ」
「え……あ、あぁ。じゃあ、緑茶がいいですかね?」
「りょくちゃ? どんなものかしらねぇ」
え、緑茶を知らない?
あの汚れたワンピース、病院服に見えなくもない。
まさか認知症患者とかっていうオチなんだろうか。
だとすると病院か老人ホームに連れて行かないとなぁ。
四人のコップを受け取って、クッカーで沸かしたお湯を注ごうと思ったけれど──
「あの、汚れているんで少し洗いますね」
「おぉ、そうか。そりゃすまんのぉ」
リュックからおしりふきを取り出した。
姉がめちゃめちゃ便利だからって勧めてくるから使ったら、これがほんとマジで便利なんだよな。
水を含んでいるからいろんなものを拭くのに使える。アルコール不使用だから、顔だって平気だ。
おしりふきで四人のコップの汚れを拭き取り、それからお湯を注いで緑茶パックを落す。
何度か振ってお茶が出たら、四人の前にコップを出す。
座高の低いテーブルも用意しておいてよかったな。
緑茶を出したところで、彼らはホットサンドを完食していた。
その顔は物足りなさそうにみえる。
「や、焼きおにぎりも食べますか? ちょうど四つありますし」
焼きおにぎりも完食。だがまだ空腹のようだ。
ポトフを作り、焼き鳥缶を開け、メスティンでご飯を炊き、フライパンでステーキを焼いた。
持って来た食材をほとんど使い切ったところで──
「ふはは。久しぶりにこんなお人好しな人間を見た」
「そうですわねぇ」
「人間よ、馳走になったな」
「炭酸コーラは最高だったぜ!」
四人の老人が若返った。
「そなたは別の世界から迷って来てしまった『迷い人』だ」
「ここはお主から見て異世界にあたる」
それどこのライトノベル?
突然そんなことを言われて──納得した。
一瞬にしてキャンプ場とは別の場所にワープし、目の前の老人が若返ったんだ。信じるだろ。
「ここが異世界……とすると──」
振り返ってカートを見る。
食材はほとんど残っていない。
「私たちがほとんど食べてしまったわねぇ。でも大丈夫。この豊穣の女神マリーティアが加護を授けましょう」
女性がそう言うと、俺の背後がピカーっと光った。
「あの小さな荷車に入っていたものは、全て元通りです。いくら使っても、使った分だけ補充されますからね」
「え!?」
振り返ると、小さな荷車──カートの中には、使ったはずの食材が元通り!?
「ふむ。では私からも……そうだな。そなたがこれから、あの三角の天幕で暮らすことになるだろう。ならば超強力防御結界を張ってやろうではないか」
長身の男がそう言うと、テントが光った。
「聖なる光の神フォレスの加護が付与された天幕だ。アークデーモンでさえ触れられぬような、超強力な結界だぞ」
え、アークデーモン? 悪魔? それってモンスターってこと?
「知識の神オルロエタスからも加護を授けよう。お主に鑑定魔法を与える」
はい、鑑定魔法キター!
「うわははははは。では俺様、勇敢なる神デュアンからも加護をやろう! 異世界から来たお前は、ちとひ弱そうだからな! ドラゴンの牙すら通さない、強靭な肉体にしてやろう!」
俺が光った。
待って。ドラゴンに噛みつかれること前提なのか!?
「迷い人さん、ご飯美味しかったわ」
「うむ。あれはなんという料理だ?」
「えっと、キャンプ飯、です」
「そうかそうか。うわはははははは、キャンプ飯、サイコーだったぞ!」
四人の姿がすぅーっと消えていく。
え……本当にこの人たち、神様!?
「真っ直ぐ北へ進めば、人の暮らす場所へ出られるだろう」
それを最後に、四人の神様は消えてしまった。
キャンプに来た──はずだった。
芝生の上にテントを張り終え、一休みしようと椅子に座るのと同時に景色は一変。
ここは森だ。
張ったテントもカートも、椅子やテーブルもそのままある。
だけど景色が違うし、さっきまで見えていた他のキャンパーの姿もない。
どうなっているんだ、いったい。
「ふぅ。えぇっと、昼は……ホットサンドにするんだったな」
カートから調理器具と食材を取り出す。
スモークハムのブロックを、ちょっと厚めに切って塩と胡椒をすこーしだけ振る。
ホットサンドメーカーを開いて、片面にパン、レタス、ハム、チーズ、パンの順に乗せて蓋を閉じて焼く。
いい具合に焼き色が付けば完成!
クーラーボックスから炭酸コーラを取り出し、ホットサンドと一緒にテーブルへと置いた。
「いただきま──」
口を開けて構えていると、奥の茂みがガサガサと音を立てて揺れた。
人か!?
「おぉ、おおぉぉ。いい香りがするのぉ」
「おやまぁ、ほんとですねぇ」
「こんな森の中でお食事かね、お若いの」
「なかなか勇敢な青年じゃのぉ」
茂みから出てきたのは、汚れたワンピースを着た四人のお年寄り。
男性三人、女性ひとりのお年寄りは、じぃーっとこちらを見ていた。
明らかにホットサンドを見てるよな。
よっぽどお腹が空いているんだろう。ま、これも何かの縁だ。ご馳走しよう。
「新しいの焼くんで、ちょっと待っててくれますか」
食パンは六枚切りだから、ホットサンドは三つしか作れない。
一つ作ったら最初のと合わせて半分に切り、それを四人に渡していく。
「飲み物は……クッカー、これしかないもんなぁ」
「マイコップがあるぞ」
「え……あ、あぁ。じゃあ、緑茶がいいですかね?」
「りょくちゃ? どんなものかしらねぇ」
え、緑茶を知らない?
あの汚れたワンピース、病院服に見えなくもない。
まさか認知症患者とかっていうオチなんだろうか。
だとすると病院か老人ホームに連れて行かないとなぁ。
四人のコップを受け取って、クッカーで沸かしたお湯を注ごうと思ったけれど──
「あの、汚れているんで少し洗いますね」
「おぉ、そうか。そりゃすまんのぉ」
リュックからおしりふきを取り出した。
姉がめちゃめちゃ便利だからって勧めてくるから使ったら、これがほんとマジで便利なんだよな。
水を含んでいるからいろんなものを拭くのに使える。アルコール不使用だから、顔だって平気だ。
おしりふきで四人のコップの汚れを拭き取り、それからお湯を注いで緑茶パックを落す。
何度か振ってお茶が出たら、四人の前にコップを出す。
座高の低いテーブルも用意しておいてよかったな。
緑茶を出したところで、彼らはホットサンドを完食していた。
その顔は物足りなさそうにみえる。
「や、焼きおにぎりも食べますか? ちょうど四つありますし」
焼きおにぎりも完食。だがまだ空腹のようだ。
ポトフを作り、焼き鳥缶を開け、メスティンでご飯を炊き、フライパンでステーキを焼いた。
持って来た食材をほとんど使い切ったところで──
「ふはは。久しぶりにこんなお人好しな人間を見た」
「そうですわねぇ」
「人間よ、馳走になったな」
「炭酸コーラは最高だったぜ!」
四人の老人が若返った。
「そなたは別の世界から迷って来てしまった『迷い人』だ」
「ここはお主から見て異世界にあたる」
それどこのライトノベル?
突然そんなことを言われて──納得した。
一瞬にしてキャンプ場とは別の場所にワープし、目の前の老人が若返ったんだ。信じるだろ。
「ここが異世界……とすると──」
振り返ってカートを見る。
食材はほとんど残っていない。
「私たちがほとんど食べてしまったわねぇ。でも大丈夫。この豊穣の女神マリーティアが加護を授けましょう」
女性がそう言うと、俺の背後がピカーっと光った。
「あの小さな荷車に入っていたものは、全て元通りです。いくら使っても、使った分だけ補充されますからね」
「え!?」
振り返ると、小さな荷車──カートの中には、使ったはずの食材が元通り!?
「ふむ。では私からも……そうだな。そなたがこれから、あの三角の天幕で暮らすことになるだろう。ならば超強力防御結界を張ってやろうではないか」
長身の男がそう言うと、テントが光った。
「聖なる光の神フォレスの加護が付与された天幕だ。アークデーモンでさえ触れられぬような、超強力な結界だぞ」
え、アークデーモン? 悪魔? それってモンスターってこと?
「知識の神オルロエタスからも加護を授けよう。お主に鑑定魔法を与える」
はい、鑑定魔法キター!
「うわははははは。では俺様、勇敢なる神デュアンからも加護をやろう! 異世界から来たお前は、ちとひ弱そうだからな! ドラゴンの牙すら通さない、強靭な肉体にしてやろう!」
俺が光った。
待って。ドラゴンに噛みつかれること前提なのか!?
「迷い人さん、ご飯美味しかったわ」
「うむ。あれはなんという料理だ?」
「えっと、キャンプ飯、です」
「そうかそうか。うわはははははは、キャンプ飯、サイコーだったぞ!」
四人の姿がすぅーっと消えていく。
え……本当にこの人たち、神様!?
「真っ直ぐ北へ進めば、人の暮らす場所へ出られるだろう」
それを最後に、四人の神様は消えてしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
877
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる